三 見えざる思慕
会えなかった………けれど、会いたくなかった訳じゃない。
根無草の鬼殺隊。錆兎を失った絶望が癒える前に、遠方への任務に赴いた。次から次へと運ばれて来る任務に追われ、悲しむ暇も無かった程だ。錆兎のことも、●のことも思い出す機会は減っていった。
けれど、1人になりふと2人を思い出すと、身を切られる程堪らなくつらく、悲しくなる。それもあって、鱗滝からの文が届いても、命日以外狭霧山には帰らなかった。
それでも、いつかの命日に一度だけ導かれるように●の小屋を訪れたことがあった。そこは薄暗く、土だらけの農具が置かれ、生活感もないただの物置小屋になっていた。柱に刻まれた『錆兎』『義勇』の文字だけがあの時のまま残っていた。
小屋の様子から、もう長いこと●はここに居ない。
それは、ここでは無い何処かで新しい人生を歩んでいるということだろう。
鬼と遭遇する機会の多い俺よりも、別の誰かと幸せに。一生鬼に会うことなく脅かされることもなく、錆兎の分まで生きて欲しい。
少し痛む胸を隠しながら、義勇はそう願った。
それなのに。
自ら、鬼殺隊になどーーーー
脱隊させる。
●の分の指令は、全て俺が代わりに引き受ける。それなら鬼殺隊の仕事に支障は出ない筈だ。
育手は…師は誰だ。
●の日輪刀は色を指したのか。
剣士としての素質など、●には不要。
考えながら進んでいる間に、義勇は北の町に到着した。街中を歩き回ってみても、鬼の気配は微塵も感じない。
●は本当に此処に居るのか?
もっと北か………
それから義勇は長いこと寝ずに探し回ったが、●は見つけられなかった。ここまで北へ来て会えないとなると他の任務地へ向かった可能性が高い。
「出直すか……もう時間もない」
「カァア……ア……義勇、アス柱合会議……カァア……」
年老いたカラスが義勇を急かす。
義勇はそのまま重い身体を引きずって半年に一度の柱合会議に出るため、産屋敷邸に向かった。
義勇が到着する頃には、柱全員が揃っていた。久しぶりに会う仲間とはいえ、眠気と疲れで喋る気にもならない。それに元々喋るのは好きじゃない。
柱たちはお館様が現れる前に、それぞれ雑談をしていた。
「美味しい蜂蜜が取れたの!ぜひぜひ皆食べに来てっ!」
「……」
「胡蝶!継子の方はどんな調子だ?」
「そうですね……。自分で新たな呼吸を見つけ出し、全集中常中もあと少し……と言った所でしょうか」
義勇は目蓋を閉じ、眠気でぼうっとする頭でなんとか柱たちの会話を聞き取る。だけど、決して会話には入らない。
胡蝶には継子が居たのか。
きっと、厳しく教育しているんだろうな。
「俺も最近継子を見つけた!意思も強く、中々に筋の良い呼吸をする」
「煉獄さんの継子なら、将来が楽しみですね」
「うむ。俺も楽しみだ。段階も同じくらいのようだし、胡蝶の継子と一度手合わせしてみるのも良いかもしれないな」
煉獄にもいつの間にか継子が居たのか。
煉獄の継子は、胡蝶の継子より更に厳しく大変だろう。
「それはいい修行になりそうですね。カナヲに聞いてみましょう。カナヲの意思も大切にしたいので」
「うむ!俺も●に聞いてみよう」
『●』と聞こえて義勇の心臓が大きく脈打ち、閉じていた瞼が一瞬にして見開かれた。
●………●と言ったか?
●が煉獄の、継子……?
「煉ご」
「お館様の、おなりです」
義勇の言葉は遮られ、雑談をしていた柱達が一斉に跪く。お館様への挨拶は柱を代表して胡蝶が告げた。
「皆変わりないようだね……さあ、柱合会議を始めようか」
数時間の後、柱合会議は幕を閉じた。
よく考えてみれば……●という名前だけで判断は出来ない。同名人物かもしれない。
確かめる必要が………
義勇は、帰ろうと立ち上がる煉獄に声をかけた。
「煉獄」
「む!なにか用か、水柱」
「煉獄の継子は、●という名なのか」
「そうだ」
「…………」
「それがどうした!」
「その娘は、厄除……いや、狐の面を持っていたか」
「うむ!先日、それらしき物を持ち帰ってきたぞ!確か南天が描かれていたな!」
「……………」
義勇はすっと立ち上がった。
間違いない。煉獄の継子は、あの●だ。
「さあ、帰るか!では、俺は先に失礼する!」
「おう!またな煉獄!達者でな」
「お気を付けて、煉獄さん」
他の柱たちが煉獄を見送る。
産屋敷邸を出て、煉獄が自らの屋敷へ向かおうとすると、背後に義勇の姿があった。
「俺も行く」
***
2021.11.04編集!
おいどんも!!!!!
2020.02.08
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