●は藤の花の家紋の家の者。
鬼殺隊に救われた一族だ。鬼殺隊に助けてもらわなければ、今私を含め一族の誰も生きてはいないだろう。

昔から稀血がよくでる家系らしく、●自身も稀血である。強さを求める鬼にとって最高の御馳走だ。今は鬼殺隊の指示で藤の花のお香を毎日焚くようにしている為、被害は減った。


●はパンパンと布団を叩き干している。
昨日も1人鬼狩り様をお見送りした。●は自分の仕事に誇りを持っている。此処に来る鬼狩り様達の癒しの空間になる……そんな名誉な事はない。

「布団干し終わりっ!次は…」
「●さーん!鬼狩り様がお見えだよ」
「あ、はい!すぐに参ります!」

仕事を片付け、玄関に向かうと先程送り出したばかりの鬼狩り様の姿が見えた。

「れ、煉獄様!忘れ物ですか?」
「いや。急遽今夜この近くで任務が入ったのでな。此処で待機する事にした!」
「そ、そうでしたか…どうぞこちらへ」

●が廊下を進むと、ドスドスと力強い足音が後ろを追ってくる。鬼殺隊柱の方のお世話は他の隊士と比べて緊張する。
煉獄の前を歩いている間、●はずっと視線を感じていた。が今はそれどころではない。
●は煉獄を静かな広い部屋へ案内する。

「こちらをお使いください……奥に道場もありますのでよろしければ」
「うむ!世話になる」
「何か御用があればなんなりとお申し付けください。では…」
「●!少し話をしないか」

退室しようと立ち上がった●に、今までにない要望が投げられたので、一瞬身体が固まった。

「えっ…わ、私ですか?」

●は、胡座を描いて座る煉獄の前にすとんと正座した。

「……」
「…………」

自分を見るだけで何も話し出さない煉獄が怖くなってきた。居心地が悪い。視線が痛い。

私……何か不備をしただろうか?あっ、昨日のお風呂の湯がぬるかったとか…?昨日は途中で薪が足りなくなってしまって……いや、お料理の味付け…?
思い当たることを悶々と考え、ドキドキしながら冷や汗をかいていると煉獄が咳払いをし、話し出した。

「●には恋仲の者はいるのか?」
「えっ……?」

思っていたことと全く別の質問に裏返った声が出た。

恋仲…
好きな人……
誰か、いた気がする、誰だろう。
好きな人を思い浮かべようとすると、これ以上は踏み込むなと言わんばかりに胸が疼いた。

「いえ、あの…」

答えを渋る●に煉獄は続ける。

「どうなのだ?」
「お、おりません!」

●は身振り手振りを加えながら答える。

「煉獄様は誰か……いらっしゃるのですか?」
「うむ!慕う相手はいる」
「そうでしたか…。煉獄様に想われるそのお方はさぞお幸せでしょうね」
「なぜそう思うのだ?」

煉獄がずいっと●に近づいてくる。
力強い双眼に見つめられると、緊張して中々声が出てこない。思わず目を伏せてしまった。

煉獄様を慕う者など、この世にごまんと居るだろうに。

「煉獄様は…強くて優しいです。それに一緒に居ると……あたたかくなります」

煉獄は一瞬キョトンとした顔を見せた。

「俺があたたかい?確かに炎柱ではあるが」
「燃えてるとかそうではなくてですね…。その……あたたかいです」

●は自分の心を表す上手い言葉が見つからず、目を伏せたまま赤い頬をぽりぽりとかいた。

煉獄様と接するときは、本当に胸が熱くなる。そう表現すれば当たり障りないと思ったのだけれど…説明を求められると上手く答えられない。

「周りくどい言い方はやめる。●!俺はお前が好きだ!」
「えっ…?あ、ありがとうございます!私も心よりおもてなしを」
「●はどうなのだ?」
「…と申しますと?」
「俺のことをどう思っている」
「は、はい!もちろん私も…」

煉獄はそれを聞いて嬉しそうに安心したように笑った。
その笑顔に●の心が揺れる。その心を押さえるように握った手を胸に添えた。


「うむ!では俺たちは今日から恋仲となった」
「は、はい、恋仲………え?」

そう言って嬉しそうにハハハと笑う煉獄を見て、●は頭の中で今起こった事を整理してみた。

鬼殺隊炎柱である煉獄杏寿郎様が、わ、私なぞと、こ恋仲に?
いやいや、そもそも私の言った同意は……違う、違くて。あの…えっと…

むんむんと考える●とは正反対に、口角を上げて嬉しそうな煉獄は大きな双眼で●を見つめた。




***
2021.10.31編集

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