「実弥は帰って来ましたか…?」
●は、実弥の屋敷で食事の準備をする者達に心配そうに尋ねてみた。今日一日に一体何回この質問をしただろう。実弥が夜に家を出てから、今は昼。一緒に生活をしていた頃は朝には帰って来ていたから、もうとっくに帰って来てても良いはずなのに。
「まだですよ。大丈夫、実弥様はお強い方です」
「………そうですよね…」
●は拳を胸の前で握り締めた。
『鬼狩りに、絶対大丈夫なんて無ェ』
実弥の言葉が頭の中をぐるぐる回る。待ってるだけがこんなにも心配で…辛いなんて。
もう、無力な自分じゃない。
家でじっと待っていられなくなった●が、追いかけてしまおうか…と考えていた所に、外から誰かの声が聞こえた。
「●殿ハ此方二御在宅カ!カァァ」
鴉が一羽、屋敷の庭の木に留まり、大声で●を呼んでいた。●は急いで庭に出て鴉に向かって話しかけた。
「はい、私です。私が●です」
まさか、実弥の訃報…!?そんなまさか……ね。
●は、緊張しながら鴉の返事を待った。
「鬼狩リ!デ御座イマス!初任務!向カウハ、西!カァァ」
「……任務か…」
訃報でない事に一安心しながらも、初の任務通達に再び緊張が走る。
「今から行くの?ですか?」
「カァァ!夕刻発デ間二合ウト思ワレル距離!」
「わかりました。夕刻に西ですね」
鴉が庭の木から飛び立つと、●は数珠が何重にも巻かれた右手を見た。
いよいよ、使う時が……!
●の右手掌には、風穴が封印してあり、その穴は万物を吸い込み、吸い込んだものを黄泉の国へと送還する。刀を使えない●が鬼を滅する為に身に付けた戦闘手段のひとつだ。
「毒を持ってない相手だと良いけど」
風穴は鬼を一瞬で葬れるものの、術者自身にも、いくつか危険を伴う危険なもの。特に毒を持つものを吸い込めば、その毒が術者の身体中に回ってしまうのだ。それは鬼の血も同じで、過去に鬼を吸い込み倒した先輩は、鬼にはならなかったものの三日三晩苦しみ寝込んだらしい。
そわそわしながら屋敷の廊下を進んでいると、反対から大きな足音が近づいて来た。
「あ、実弥!おかえ」
こちらに向かってくる実弥の姿を確認した●が声を掛けようとすると、実弥はいきなり●を壁に押し付けて口付けた。
「んっ!?…んんっんっ、はっ」
●が挨拶を言い終える前に、実弥は角度を変えて、こじ開けた口内に舌を入れ込む。●が静止しようと肩を押しても、お構い無しで全く止める気配はない。鬼狩りから帰ったその足で、待ち切れなかったとでも言うように激しく●を味わった。実弥の膝が●の太腿の間に割り込み、秘部を押し上げる。
「あっ、んんっ、さねっあっ」
●は、脚の間に割り入って来た実弥の逞しい太腿を手で押し返してみるが、やはり抵抗の意味はない。秘部を擦るように動いてくるので、段々と変な気分になってくる。
「んんん…っ」
実弥は口付けたまま、●の身体を抱き上げると、使われていない部屋へ入り襖を閉めた。
その部屋は使われていないだけあって家具はほとんど無く、ただ畳が敷かれているだけの薄暗い部屋だった。口付けたまま●を井草の香りの上に横にする。
●は口付けから逃げるように横を向いたが、すぐさま実弥の手が頬に添えられ、再び口付けが降ってくる。
「んんっは…っ…」
初めての長い口付けに頭の中が熱って、何も考えるなとでも言うように思考を溶かしていく。自身の上には、実弥の逞しい身体が重なり、体温が伝わり擦れ合う。いつもと違う、熱っぽい実弥の息遣いも聞こえて耳からも刺激が入ってくる。ドキドキと波打つ速い鼓動はどちらのものかさえ分からない。
「んっ、待っ…て、ねえっ」
実弥はようやく唇を離し、お互いの鼻先が触れ合う距離で見つめ合った。●のとろん…とした瞳に紅潮した頬、しっとり汗ばんだ綺麗な肌全てが実弥の理性を突き崩していく。実弥は自分の下に横たわる●の頬を優しく撫でた。
愛おしくて愛おしくて堪らないのに、一向に手に入れる事が出来なかった女が今眼前に居て潤んだ瞳で自分を見ている。
この状況で、誰が我慢など出来ようか。
「昨日の約束通り…いいか?」
今すぐ●を堪能したい欲をかろうじて押さえ込み、意思確認をする。もう、昔のようになるのは嫌だ。
●は、初の任務が今日これからあるにも関わらず実弥との約束と、そして明日死ぬことになるかもしれないと思うと、今のこの状況を断る事は出来なかった。
今日断って、もし死んでしまったら実弥に答えられなかった事、きっと後悔する。
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次R18です。
2021.12.01