五時に巌

刀鍛冶の里に生まれた子供は、子供のうちから刀を作る術を叩き込まれる。俺もその1人だ。
刀に携わることができるこの里に生まれてよかったと、心から思う。刀を作るのも磨くのも面白くて、人生を賭ける価値があると思える。

今日、俺の最初の刀が完成した。師匠の刀には到底及ば、なくは無い!!実にいい出来だろう。この刀を折るような輩がいれば、俺はそいつを滅殺する程だ。

「ほたる!」

呼ばれたくない名前を呼ばれ振り向くと、幼馴染みの●の姿。俺は変わり者と呼ばれて来たが、●はもっと変わり者だ。

「勝負です!どっちの鉄が強いか」
「お前それ、刀じゃねーじゃねぇか!刀を作れ、刀を!」
「鉄には変わりないでしょ」

●が手に持っていたのは、自作した鉄の盾。●は女子であるが為に刀を作る事を禁止されていた。だが、親の鍛冶場を覗き見て鉄を精製する術を見様見真似で会得した。しかも作るのは盾という変わり者。

「その刀、試し斬りもまだでしょ。勝負です!」
「俺のこの刀が負けるか!その前に俺がその盾を切ったら、お前怪我するぞ」

鋼鐡塚は自分の刀を●に押し付けると、盾を取り上げた。

「お前が俺の刀で盾を切ってみろ」
「わかりました!ほたるは怪我してもいいんですか?」
「そんな訳あるか!俺は逃げる!」

鋼鐡塚は盾を構え、●は体の前に刀を構えた。

「行きます!」
「来い!」

●は大きく振りかぶり、鋼鐡塚の持つ盾に斬りかかった。

キーンと大きな音を立てて、●の持つ鋼鐡塚の刀がぽっきり折れた。

「あ」
「お、おおおおおお前えぇえええぇ!!?」
「私の盾の勝ちだね」

●は折れた刀を鋼鐡塚に見せた。その瞬間、横でパキン…と音がして、●の盾も割れた。

「相打ち……」
「相打ちだとおおおぉ!!?よくも俺の刀を!!俺の刀が折れる筈はない!お前が変な力を入れたんだああぁああきっとおぉそうだあぁぁあ」

鋼鐡塚は●の前で殺気を出して凄むが、●はそれを気にも止めず、あははと笑っている。同郷で幼馴染の女子を滅殺するわけにもいかないし、何より●の無邪気な笑顔に毒気を抜かれて、「ぐむむ…」と唸りながら鋼鐡塚は大人しくなった。


2人は、夕暮れに折れた刀と割れた盾を横に置き、小さな河原に並んで座った。里の中を唯一流れる貴重な水源だ。
鋼鐡塚はやり場のない怒りから、1人でぶつくさ言っている。

「ほたるだけです。私に刀を作れと言ってくれるのは」
「はあ?」

鋼鐡塚が●を見ると、●は太陽の反射する水面を見ながら悲しげに諦めたように笑った。

「私も男子に生まれたかったなあ」
「……………」
「そしたら、堂々と刀を作れたのに」
「刀でも盾でも、作りゃいいじゃねえか!刀は相手を斬って己を守る物。強い盾は刀を折らせて誰も傷つける事なく、守れる。………かっ…刀を折らせて…………」

そう言いながら、鋼鐡塚はふるふると肩を震わせる。怒りが再燃して来たようだ。

「刀を折る強い盾……そっかあ、そうだよね!ありがとう、ほたる」
「お前は!刀や盾よりも、俺に毎日みたらし団子を作ればいいんだよおおぉ!」

面で隠しきれない鋼鐡塚の耳が一気に赤く染まったのが見えた。

「……………」

一時ぽかーんとして、言葉を理解した●はまた笑った。

「ほたる、お面外して下さい。顔見せて」
「とっとっ取るわけねぇだろ!」
「照れてるの?」
「てっ照れるか!!」

●は、隣に座る鋼鐡塚の面の頬あたりに静かに口付けた。耳元に感じる●の気配に鋼鐡塚の胸は大きく高鳴る。

「ありがと、ほたる。またね」

そう言うと、●は割れた盾を手に小走りで家に帰って行った。

「……………」

鋼鐡塚は、●が見えなくなってから背中を倒し仰向けに寝そべった。


「あの変わり者め………」


日が沈みそうな空を見上げながら、お面とっとけばよかった、と全力で思うほたるであった。




***

刀嫌が嫌いだから盾を作る変わり者夢主にしたかったんだけど、それだとまた長編になりそうだったので無理矢理無難なこの設定に方向転換しました。
いつか書きたいなあ。

2020.02.26

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