変わっても、変わらなくても

またスペクターがリボルバーと話してる。
いいなあ。羨ましい。
いくら昔からの知り合いだからってハノイのリーダーと、一介のハノイの騎士じゃ立場が違いすぎて中々話しかけにいけない。
羨ましい・・・・・・という気持ちと恨みを込めながら二人、いや、スペクターを見る。



いつの間にか会話が終わっていたらしくリボルバーの姿が見えない。二人が何の話しをしてたのか気になり、まあスペクターならどうせ暇だろうな、なんて勝手に決めつけて、話を聞きに行こう なんて考えていたら後ろから話しかけられた。


「名前、貴方何か失礼なことを考えていませんか?」
「うわーびっくりした。背後から急に声かけないでよ」
「それはそれはどうも失礼致しました」


失礼しました、だなんて思ってもなさそうな顔でスペクターが言ってくる。
スペクターは昔から割と私に対して失礼だ。別にリボルバーに向けるみたいな忠誠心見せてなんて思ってないけど。まあ、ハノイの立場的にスペクターの方が上だからそんなの無謀なんだけど。



「先程随分と熱心に私のことを見つめてきましたが何か?」
「別にスペクターのこと見つめてたわけじゃないもん。スペクターがまたリボルバーと話してたから、いいな〜って思って見てただけ」
「様 をつけなさい。様 を」
「はーい、スペクター様」
「私にではなく。
いいですか、私と貴方がリボルバー様と小さい頃に出会った知り合いだからって、ここではあの方は私たちの先頭に立つリーダーなんですよ」


まーたはじまった。スペクターはリボルバーの事となるとうるさいし話が長くなる。忠誠心が強いから余計だ。


「スペクターって細かいことにうるさいよね。お母さんってスペクターみたいな人のこと言うのかな」
「随分と楽しいことを言う口はこの口ですかねえ」
「い、いひゃいれふ・・・」


ほんの少しふざけたら思いっきり両の頬を引っ張られた。い、痛い、これは割と本気で引っ張っぱられている。女の子の顔をなんだと思っているんだこいつは・・・。伸びた前髪でも引っ張ってやろうか・・・・。


「おや、何ですかその目は?もっといじめてほしいらしいですねえ」


スペクターがいつもより楽しそうな、そして悪い顔をしている。まずい、これは非常にまずい。
これ以上スペクターからの追撃に合わないためにも私の頬を引っ張っている手が緩んだ隙を見て走って逃げる。







ここまで来れば大丈夫かな、なんて思い足を止めたら肩を叩かれた。

えっ、スペクターがもしかして追いかけてきた?

と嫌な予感がしながらも振り返ると、そこに居たのはスペクターではなくリボルバーだった。

「随分スペクターと仲がいいんだな」
「リボルバー!そうかな?そんなことないと思うけど」
「先程何やら楽しそうに話をしていたように見えたが」

どうやらリボルバーにはあれが楽しそうに見えたらしい。

「違うよ!あれはスペクターから一方的にいじめられてたの!」
「お前達は昔から少しも変わらないな」


微笑みながらリボルバーが言う。
この微笑みは、ハノイのリーダーのリボルバーとしてでなく、鴻上了見として笑ってるのがアバター上からでもなんとなくわかるから私は好きだ。前のアバターの時は対閃光防御のマスクのせいで表情が見づらかったけど、新しいアバターはリボルバーの表情がわかりやすくなったからこの表情を見ることがほんのちょっとだけ増えた。


「ねえリボルバー」
「なんだ?」
「リボルバーは変わったね」
「変わらない人間などそうはいない。人間性も関係性も永遠なものなどはない。私は私の目的を果たすために、昔のままではいられない」
「うん、そうだね。でも変わってない部分だってあるよ」
「そうか」
「そうだよ」


リボルバー、いや、了見はこの10年で良くも悪くも変わってしまった。自然が大好きで草むらに寝転んで空を見上げる彼の面影は今はもう薄い。ここにいるのはハノイの騎士という組織をまとめるリーダーだ。

でも、それでも、私と話す時はいつもより目じりが下がるところなんかは昔と全然変わっていない。



「私とリボルバー、スペクターの関係だって未来では変わってるかもしれないね」
「そうだな」
「それでも、私は今でも、何年、何十年経ってもこうして笑い合っていたいなって思うのはわがままかな」
「そんな事は無い、私もそう願っている」




「リボルバー様、少々よろしいでしょうか?」

声をかけきたのは、ハノイの三騎士の一人であるファウストさんだ。

「あぁ、今行く。すまない名前、また今度ゆっくり話そう」

それだけ言うとリボルバーとファウストさんは行ってしまった。







ねえ了見、昔みたいに草むらに寝転がりながらゆっくりと二人で話す時間がとれるのは、まだきっと当分先だし、その未来では私と了見がどうなってるかなんて全然想像なんかつかないけど、今だって、いつだって、未来でだって私たちの心はあの頃みたいに繋がってるって信じてるよ。



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