気付いていたのは、彼一人。

「ねえゆーさく!」
「嫌だ」
「まって、まだ何も言ってない!」
「どうせ、 昨日の課題やるの忘れたから写させて だろ」
「え、遊作すごい!よく分かったね!」
「お前の言いそうなことくらいわかる」
「さすが親友じゃん!」
「うるさい」


遊作と仲良さそうに話しているこの女の子は名字名前さん。クラスメイト兼Cafe Nagiの常連さんで、遊作とは草薙さんを通して仲良くなったらしい。彼女は自称遊作の親友で、明るくていつも笑顔の太陽みたいな子だ。
そして、俺の好きな子でもある。


「遊作の字っていつ見てもそこそこ綺麗でむかつく」
「それが人に課題を写させてもらってるやつの態度か。返せ」
「うそうそ!ごめんってば!遊作の字いつも綺麗で羨ましいな〜!素敵素敵!」
「・・・・・・ハァ。ほら、早くしろよ」
「ありがとう!」


遊作と名前さんの会話はテンポが良くて、そして独特の空気感があるから割って入っていくなんて大それた事は俺にはできない。いつも二人が話しているのを見ているだけだ。


いいなあ、遊作はあんなに名前さんと仲が良くて。羨ましい。



遊作は俺の憧れであり、大切な友達だ。だから遊作に対して嫌な感情を向けたくない。
それなのに、俺は羨望の眼差しを遊作へ向けることをやめられはしなかった。


「 尊 」

鞄の中にしまっているデュエルディスクから聞きなれた声がした。

「なんだよ不霊夢」
「いや何、キミは心の芯はしっかりしているが恋愛の面では見た目通りのフニャフニャだと思ってな」
「ハァ?・・・て言うか、気づいて・・・」
「キミは随分分かりやすいからな」



あーーーーークソ、絶対に今、自分の顔が赤くなってるのが鏡を見なくても分かる。身体中が燃えているかのように暑い。そしてものすごく恥ずかしい。
家族に好きな人が知られるってこんな感じなのか。



「尊、私がキミの恋路が成功するよう協力しよう」
「いや、いいよ」
「遠慮するな」
「ほんとにいいって・・・」


もうこれ以上この話を不霊夢とすると身体中の熱で火傷しそうだ。赤くなった顔を誰にも見られたくないから腕を枕にして寝たフリをする。不霊夢はそんな俺を見て フッ と少しだけ笑うと静かになった。






顔の赤みも引いてきて身体中の熱も発散されたころ名前さんが、
「やっと終わったー・・・」
といつもより少し覇気のない声で言った。少しだけでも顔がみたいな、と思って伏せていた顔を上げ名前さんの方を見つめると遊作に借りたノートを返しているところだった。


「遊作ほんとにありがとう」
「あぁ」
「なんだかんだ言って私に甘い遊作好きだよ!愛してる!」


名前さんはよく 好き だとか 愛してる と口に出す。初めの頃は遊作も戸惑ったらしいがもう慣れたと言っていた。遊作曰く "あいつの愛の告白は挨拶のようなものだ" だって。俺はまだ一回だってそんなこと言ってもらったこともないけど。


「お前の愛してるは軽すぎる」
「えー!そんなことないよ」
「自覚がないのか」


また二人の空間だ。
遊作は女の子、いやそもそもクラスメイトと関わらないのに名前さんとだけはちゃんと話すから 二人が付き合ってる といった内容の噂はよく流れる。
その度に
「絶対にありえない」
「遊作は私の大切な親友だよ」
とキッパリ否定しているがあまり効果はないようだ。
いいなあ、遊作は、俺だって、俺だってさあ、











「軽くていいから俺だって愛してるって言ってほしいよ」




ハッとした。無意識に口から言葉が出ていた。何やってるんだ俺は。
誰にも聞かれてないといいけど、と思い周りを見渡すと、こっちを見て少し驚いた顔をしている遊作と少しだけ顔が赤くなっている名前さんがいた。もしかして、この反応って・・・


「あ、あの、俺の、いや、僕の・・・あー、えっと。・・・・・・今の、聞こえちゃった?」


俺がそう聞くと名前さんは恥ずかしそうに視線を少しだけ移動させた後、こくりと小さく頷いた。


「あれは、冗談、いや、冗談でもないんだけど。あー、んー・・・えーと、困らせてごめん。ほんとに気にしないで」

途中で自分でも何を言ってるのかわからなくなり早口に捲し立て、カバンを持って教室から抜け出した。

そして人気のない廊下の突き当たりまで走り、階段に腰掛けた。



「あー、俺、ほんとに何してんだ」
「あそこで愛の告白でもすれば完璧だったじゃないか」
「そんなこと出来るわけないだろ」
「恋愛ではフニャフニャな尊には期待してないさ」
「もっと慰めるとかないのかよ」
「過ぎたことを嘆いていても仕方が無い。これからどう攻めていくか、が大切だ」
「そうだけどさー。
あー・・・どんな顔して名前さんと遊作のところに戻ればいいんだよ・・・・」
















「ねえ、遊作、あれ、見た?」
「あぁ」


隣にいる名前は未だに顔を赤くしながら混乱している様子だ。


「尊くん、め、めちゃくちゃ可愛かった・・・。もしかして嫉妬してくれてるって自惚れてもいいかな?」
「そうかもしれないな」
「どうしよう、嬉しい」



幸せ・・・・ かわいい・・・・ と、うわ言を繰り返す今の彼女には誰の言葉も届かないだろう。
そして正気に戻った時にまたうるさく騒いで面倒なことになるのは明白だった。


だがもっと面倒だった、尊と仲良くなるためにわざわざ俺の元に課題を写しにきたり、尊の好きなものをあれこれ聞かれたりするのは減るはずだ。
そして、名前と話してる時に感じる尊からの恨みがましい視線も。








「遊作ちゃんはさあ、二人が付き合っちゃったら寂しくないわけ〜?」


今日は珍しく静かだと思っていたAiが口を開いた。



「寂しくなるわけないだろう。俺の親友と友達が幸せになれるかもしれないんだ」
「わーお!遊作ちゃん男前ー!」
「うるさい」
「理不尽!でも遊作ちゃんほんとに嬉しそーね」
「まあな」




鈍感で中々一歩が踏み出せなかった二人が、やっとお互い気持ちを通じ合えるきっかけが出来たんだからな、なんて野暮だから口には出さないが。



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