「俺たち失恋仲間だね」
施設時代から一緒に過ごしてきた遊作が葵ちゃんと楽しげに話しているのを少し離れた位置から見ている。
二人の様子が微笑ましくて、遊作が私以外の女の子とも普通に話していることに嬉しくなって、少しずつ着実に遊作があの悲劇から前に進んでいるのだと感じて、目の奥がツンと痛んだ。
そんな私の顔と、遊作と葵ちゃんの様子を交互に見た穂村くんは悲しげに瞳を揺らしながら先程の言葉を述べた。
遊作の事は好き。
でもこの好きは恋愛感情ではなく、家族に向けるような親愛だ。けど、彼らを見て泣きそうな穂村くんを前に否定することなんてできなかった。
そっか、穂村くん葵ちゃんの事が好きなんだ。
「じゃあさ、失恋仲間同士辛くなったらタッグ組んで慰め合おうよ」
そう冗談を言えば困ったように笑う穂村くんを見て、ほんの少しだけ心がザワついた。
もしかして失敗だったかも。
あれから穂村くんは、大丈夫?や、何かあったらすぐに相談して、など心配のメッセージを送ってくれるようになった。その度に私も大丈夫だよ、穂村くんの方こそ何かあったら言ってね、と返す。
私は遊作の事で相談することはないけど、穂村くんは一人で抱え込んでいないだろうか。
メッセージはたわいのないやりとりだけが続いていく。
私も穂村くんもお互い、相談に乗るよとは言っているが自分から話すことはなかった。
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学校からの帰り道、Cafe Nagiに寄ろうとしていた葵ちゃんと私、草薙さんに用があるという遊作と穂村くんが靴箱でばったり会ったのでそのまま4人で向かう事になった。
このまま葵ちゃんと並んで行っていいのかな、穂村くんの手助けした方がいいよね、…でも、
と頭を悩ませていると
「名前ちゃん、背中に糸くず付いてて取るからちょっと止まって、すぐ追いつくから遊作たちは先行ってて」
穂村くんの言葉に遊作は分かった、と返事をすると葵ちゃんと歩を進めた。
歩いていく二人を見つめると、あの時みたいだななんて思った。
「まだ遊作の事が好き?」
「うん、好きだよ。でも、」
友達として。
そう伝えようとすると
「やっぱり、すぐには諦められないよなあ。
・・・俺も」
寂しそうに呟いて、先を歩く二人の後ろ姿を見つめ続ける穂村くんと目が合うことはなかった。
穂村くんの横顔が頭から離れなくてその日はあの後どうやってCafe Nagiに行って家に帰ったのか何一つ思い出せなかった。
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心配の文章で始まった穂村くんとのメッセージのやり取りはスクロールをし続けても終わりが見えないほどに長くなっていき、私は穂村くんからのメッセージを待ちわびるようになった。
ピロン
やりとりを遡っていると新着のメッセージが届く。穂村くんからだ。
[失恋仲間の件で話したいことがあるから明日放課後時間をくれない?]
心臓が冷えるような感覚がした。
もしかして葵ちゃんと、なにかあったのかな
[分かった、何時にどこにする?]
震える手でいつもと同じような返信をした。明日何を言われるのか考えたくなくてこの日はメッセージを待たずに眠りについた。
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放課後、メッセージに送られてきていた教室のドアを開けると穂村くんの姿があった。
「ごめん、HRが長引いちゃって待たせちゃった?」
教室には穂村くん一人だった。葵ちゃんと二人で並んで付き合ったの報告じゃなくて良かったなんて性格が悪いことを考えてしまう。
「全然待ってないよ」
「よかったあ、それで話って?」
そう促すと、少しの静寂の後穂村くんが口を開く。
「ごめん、俺ずっと嘘ついてた」
「本当は 名前ちゃんの事が好きだった、ううん、好き、です」
目の前に立つ穂村くんの、眼鏡の奥から覗く真剣な眼差しに見つめられて自然と体が固まってしまった。
何か言わなきゃいけないのに、穂村くんの瞳って紫がかっているのになんか炎みたいな熱さを感じるなあ、なんて熱くなっている体とは裏腹に脳の奥では場違いなことを考えてしまう。
ごめん、嫌だったら振り払って。
そう前置きをして穂村くんは私の両手を握った。人一人分空いていた距離が縮む。
「失恋して傷ついてるところに漬け込んでる最低で嫌な男だって思われてもいい、俺に名前ちゃんを幸せにする権利をください」
私を見つめる目も握られている手も一歩踏み出せば触れ合う距離もなにもかも愛おしくて、
あぁ、この炎に焼かれてしまう。