Aiは惜しみなく与う
目を覚ました私の目に映ったのは知らない天井だった。
「ここ、どこ・・・・・・?」
誰もいない空間、見たことも無い天井、私が寝かされていたベッドしか物が置かれていない部屋。
私の恐怖心を煽るには十分だった。
どうにか家に帰らないと。でもどうやって?
助けを呼ぶにしても通信機器らしきものはなんにもないのに。
大声で助けを読んだところで助けが来るとは限らない。まして、その声を聞き付けて私を捕まえた人がこの部屋に戻ってくるリスクがある。どうしよう、どうすれば、
ここからどうやって逃げるか考えていると扉の開かれる音がした。
中に入ってきたのは、これまた見覚えのない青年と少年だった。
「アニキ!名前さん目が覚めたみたいです!」
「なんだよ名前〜起きてたなら言ってくれよ」
どうやら彼らは私のことを知っているらしい。
「あなたたちは誰?そしてここはどこなの?私を捕まえてどうするつもり?」
「まあまあ、落ち着けって」
ほら深呼吸深呼吸〜
とおどけてみせる青年は、イエローサファイアのように輝く瞳を三日月の様に細め慈悲深く私を見つめる。その目を見つめても目の前の人物に心当たりはなかった。
「ねえ、あなたたちは一体誰なの?」
私がそう尋ねると返事をしたのは水色の髪にピンクとオレンジのメッシュが所々入った少年だった。
「名前さん、オイラ達のことわからないですか?」
「まあ名前とこの姿で会うのは初めてだから仕方ないだろ」
「だってアニキ〜!名前さんならすぐに分かってくれるって思ってたから、オイラちょっと悲しいです・・・」
なんだか覚えのあるやりとりだった。
でもまさか、だって、そんなはず・・・
「まさか、ロボッピとAi、なの?」
そうであってほしい、という願いも込めて問いかけた。
「大正解です!名前さんなら分かるって信じてたです!」
「さすが俺らの名前じゃん、ご名答」
「でもその姿、どうして・・・?」
今の彼らには、お掃除ロボットやデュエルディスクの中にいたイグニス姿の面影が感じられない。
改めて彼らを見ると首にソルティス特有のマークがあった。
「それってソルティス?」
「名前は理解が早くて助かるな。SOL社からちょーっと拝借してな」
「名前さん!オイラ前よりも頭が良くなったんです!」
「ハイハイわかったわかった」
「アニキじゃなくて名前さんに言ってるんです」
姿が変わっても二人のやり取りは相変わらずだ。
「ねえ、結局ここってどこなの?」
「ここは俺が作った電脳世界でお前の意識データをこっちに移したんだよ」
「なんのために?」
「さあ、なんでだと思う?」
私の質問に質問で返したAiの瞳は闇夜の中で光る猫の目のように妖しく光っていた。
寒さを感じていないのに背筋が震える。
「変な冗談はやめて早く遊作達のところにかえ「帰らねえよ」」
「え?」
「そしてお前も帰さない」
「どう、して・・・・・・?」
自然と声が震える。
怖い。Aiが何を考えているのか全然わからない。
「オイラたちはこれから人間をお掃除するんです」
「お、そう、じ?」
「そうです!地球上から人間を消して綺麗にするんです」
「それじゃあ私のことも消すの?」
人間を消す、という事はもちろん私も消されるのだろう。じゃあなんでわざわざここに私を呼んだの?Aiとロボッピの意図が読めない。
「何言ってるんですか?名前さんのことは消さないです!ねえアニキ?」
「あぁ、そうだな」
ロボッピは 心外です と言わんばかりの表情でこちらを見る。それに対しAiはずっと笑みを貼り付けたままだった。
「でも私だって遊作たちと同じ人間なのに」
そう言うと、ロボッピは一瞬目を大きく開き驚きの表情を浮かべたが、すぐにニコニコと効果音がつくような屈託のない笑顔を私に向ける。
「もしかして名前さん気付いていなかったんですか?」
ニコニコとした笑顔を崩さないままロボッピが私に問う。
ロボッピの 幸せいっぱいです と言わんばかりの笑顔は今の私にとって何よりも恐ろしく感じた。
「ヒント教えてやるよ、名前。自分の首触れば嫌でもわかるぜ」
Aiに促され震える手を自分の首元に持っていった。
首筋に手を這わせると違和感があった。
嘘、だって、まさか
「ほら、現実のお前と何ら変わらない」
いつの間にか、どこから出したのかも不明な少し大きめの鏡を持ちながらAiは言った。
鏡にはAiが言うように、驚いた表情を浮かべるいつもと何も変わらない私がいた。
ただ一つ、首にあるソルティス特有のマークを除けば、だが。
「なに、これ、」
絞り出すような声で呟いた。
だって、わたしは、人間のはずで、今頃は自分のベッドで寝てて、あしたは、ゆうさくのところに、いって、そして、それで、
「 名前 」
Aiに呼ばれて弾かれたように顔を上げる。
いつの間にか下を向いていたらしい。
「な、なに?」
「もー!アニキ名前さんが怖がってるじゃないですか!」
「うるせえなあ。名前だって別に怖がってないだろ?」
「いや、目が覚めたら人間じゃなくなってたって普通に怖いと思うけど・・・」
私がそう言うとAiが大きな声で笑いだした。
「え、なに?」
「お前のそういう正直な所好きだぜ」
「オイラも名前さんのこと大好きです!」
こんな状況でなければいつものように 私も二人が大好きだよ なんて返すのに。今は何をどう返すのが正解なのか分からない。
「まあそんなことより安心していいぜ、現実のお前の体は俺達が丁重に保存してあるからな」
「私人間に戻れる、よね?」
「まあな」
「Aiお願い!私を現実に返し「駄目だ」」
ハッキリとした拒絶だった。
何でAiがそこまで私を電脳世界に閉じ込めたいのかが分からない。
「どうして・・・?」
「至って単純明快な理由さ、俺たちが名前の事が好きだからだよ」
「オイラもアニキも名前さんが好きです!」
「私だって二人のこと、すき、だよ?」
「なあ名前、お前は馬鹿じゃないから俺らの 好き がどんな種類のものか分かってるんだろ?」
「でも、AIやロボットには心がない、から、」
だから、プログラムとして元々主人に尽くす様に好意的にしている仕様だと、それを 好き と言っているんだと、思っていた。
それなのに、熱を持った目でAiとロボッピが私を見つめる。
私だってそんなに鈍感ではない、否が応でも彼らの目から私への好意が伝わってくる。
「電脳世界での名前は一生老いることもなければ死ぬことも無い。俺たちは一生一緒だ」
「ここでオイラと名前さんとアニキの三体で幸せに暮らすんですよ!」
笑顔で私に 一生離さない 宣言をするAiとロボッピから逃げられる術は、私には、無い。