あい だの こい だの

「AIになって俺と一緒に来ないか、名前」
「来いって一体どういうこと?」

ボーマンとの戦いの後行方知れずだったAiは、どこからか手に入れたらしいソルティスの姿を借り私の目の前に現れるようになった。
Aiが私の元に来る度に、早く遊作の所に行ってあげなよ、それはダメだ、の繰り返しだったが今日はいつもと違うらしい。

「なあ名前、AIになれば老いることも死ぬことも無い。嫌がってた学校の課題だってやる必要がなくなる、お前にとっても悪い話じゃないと思うぜ?」
「ねえ、Ai」
「ダイエットも髪の手入れも化粧だってしなくてもいいんだ。普段からめんどくさいってよく言ってたもんな?」
「ねえったら」
「良いことづくしだし俺と一緒のAIになっちゃおうぜ?」
「話を聞いて!」
「名前」

私の名を呼ぶAiの声色は言外に 黙れ と言っているようなものだった。

「お前は大人しく肯定の返事だけすればいいんだよ」

そう告げるAiの顔に私は底知れぬ恐怖を感じた。Aiが怖いなんて思ったこと今まで一度もないのに。



「・・・私をAIにしてどうするつもり?」
「どうするも何もねえよ。ただ一緒にいるだけだ」
「今だって一緒にいるじゃない」

そう、今じゃなくても私とAiは普段から一緒にいることが多かった。遊作と3人であったり、デュエルディスクを借りてAiと二人でいたことだって沢山ある。

「ちがう、ちがうんだよ」
「ちがうって?」
「人間にはいつか死が平等に訪れる。そして俺たちAIをおいていく。俺は名前においていかれたくないんだよ」
「Ai・・・・・」

Aiの悲痛な表情に胸が痛くなった。私だって叶うならずっとAiと一緒にいたい。
でも、それでも、

「私はAiにはならないよ」
「理由を、聞いてもいいか?」

真っ直ぐと突き刺さるような視線をAiは私に向ける。下手な事を言ったら視線だけで殺されてしまいそうだ。
まあ、この状況下で変なことを言うほど私は空気が読めない人間ではないけれど。


「私は人間としてAiに恋してる、好きってこの気持ちを大切に抱えてこれからも生きていきたい」
「・・・・・・・」

Aiは何も言わなかった。


「AIになったら私のAiへの気持ちがなくなっちゃうかもしれない。AIになったとして、プログラムに置き換えられた"好き"と今の私が抱えてる好きは一緒なの?私、歳をとることも死ぬことも怖くないよ。ただ、Aiへのこの感情が消えちゃうかもしれないことが何よりも怖いよ」

私の言葉を黙って聞いているAiは今、何を思っているんだろう。
人間の考えることはわからないとか、合理的じゃないって思ってるのかな。
でも、AIには感情がないけど、Aiなら私の言ってることが少しでもわかってくれる気がする。


「Ai、感情ってどこから生まれるんだろうね」
「リボルバー先生みたいな事言うんだな」

Aiは少し寂しそうな顔をして笑った。
そして少しだけ私と距離をとった。

「きっとここがお前たち人間と俺みたいなAIとの境界線なんだよ。・・・・・・なあ名前、AIに感情がないなら俺がお前とずっと一緒にいたいって思ってるこの気持ちは一体何なんだろうな」

それだけ言い残すと目の前にいたAiは消えてしまった。

「待って!」

Aiへと向かった私の右手は空気を掴んだだけだった。

それからAiが私の目の前に現れることは無かった。







いつの間にか、遊作とAiのデュエルから3ヶ月が経った。
Aiが居なくなっても遊作が姿を消しても
何事もなかったかのように世界は回っている。

私が最後に遊作に会ったのは、Aiと話をするために彼がリンクヴレインズへログインする前のことだった。遊作は"必ずAiを連れ戻してくる"とだけ私に告げた。

そして、遊作がリンクヴレインズにログインしてからの事は分からなかった。だから遊作からの"すまない"のメッセージを見て、その一言にどれだけの重みがあったかなんて私には知りえなかった。

デュエルがそんなに強くないから、という理由でアカウントを作ってこなかった事を酷く後悔した。Aiの最期を私も見届けたかった。
後悔ばかりが募っていった。




今日みたいに月も姿を隠してる寂しい夜は
いつもよりも無性にAiに会いたい気持ちが強くなる。

Ai・・・・Ai・・・・・・。

私が呼ぶ声に呼応するかのように涙がぽろぽろと零れ落ちた。

会いたい・・・・もう一度会いたい・・・・

そこからは涙がとめどなく溢れた。
みっともなく泣いている私はまるで小さい子供の様だ。
ああ、なんて惨めで馬鹿みたい。


「前みたいに私の目の前に現れてよ」





「 名前 」



優しく私の名を呼ぶ声がする。


嘘、だって、Aiはもう・・・











「来いって言うからAiちゃんが会いに来たぜ。愛の力でな」



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