敗北宣言

入学式の時に見かけて以来ずっと気になってる存在の藤木遊作くん。

少女漫画のように出会い頭にぶつかった、とか、絡まれてるところを助けてもらった、なんてこともなく、式典の最中並んでる列の斜め前にいたのが最初の出会いだ。

まあ、最初の出会いって言っても私が勝手に認知してただけで藤木くんは私の事なんか意識もしてなかったけれど。


今思えば一目惚れだったのかもしれない。

中学校の時は騒がしくて子供っぽい男子が周りに多かったから余計に、なんにも興味がないですなんて顔をしながら誰とも話さずにいた藤木くんから目が離せなかった。


それから私は毎日藤木くんに話しかけるようにした。初めて話しかけた時はほんとに私に興味が無いのが丸わかりで心が折れかけた。まあそれでも気にせずに話しかけたけど。
あぁ、とか、そうか、ばっかりの返事で会話を続ける気がないのが丸わかりだった。でもそんなところもクールでかっこいいなんて思ってときめいた。恋する女子高生は強いのだ。


3日目を過ぎたあたりから藤木くんも私が毎日話しかけてくるということが分かったのか、淡々とだけれど返事をしてくれて少しだけ会話も続くようになった。

もっと仲良くなりたくて1週間も経たないうちに藤木くん呼びから遊作くん呼びに変えた。特に何も言われなかったから良しとした。

遊作くんは変わらず私のことを名字と名字呼びだけど別に寂しくなんてない、だって遊作くんは人に興味が無いのかクラスメイトの名前や顔も覚えてない中で、私の事だけは認知してくれるのが嬉しかった。



だから朝の出来事が衝撃的だった。
登校途中に遠くからだけど遊作くんが女の子と話しているところを見てしまった。


少し前から島とも話しているのはよく見かけた。話しているというよりは島が一方的に話しかけていたって言うのが正しい。入学当初の私みたいだった。

そんなことより、島はどうでもいい。島とは中学校が一緒だったからどんな人間かなんてわかってる。どうせ新型デュエルディスクを自慢したくてたまたま近くにいた遊作くんに話しかけてそれから話すようになったとかそんなところだろう。


だからまさかあの遊作くんが私以外の女の子と話すなんて想像もしてなかった。
しかも相手は財前葵さん。
お兄さんがSOLテクノロジー社重役ということを鼻にかけず、私や友達のように大きな声ではしゃがないようなクールで美人でスタイルもいい女の子だ。

財前葵さんとは話したことがないけれど、こんな完璧な女の子に勝てるはずなんてない。
朝から気分はどん底だ。
二人が話しているところを見たくなくて遠回りして校門へと向かった。
一緒に登校してる友達は遠くにいる二人には気がついていないのか、なんでこっち?といいながらも気にする様子はなかったのが幸いだった。友達は私が遊作くんのことが好きだと知っているからさっきの光景を見たらきっと大丈夫だよと慰めてくれただろう。きっとそんな言葉をかけられたら今の私は泣いてしまう。



教室に着いてから友達と少しだけ話をしてから一番後ろの席へと座った。
遊作くんがよくそこに座るから私もそこが定位置になった。たまに島が遊作くんの隣に座るのが厄介だけど。

いつものところに座っているはずなのに今日はソワソワして落ち着かない。
さっきのことを遊作くんに聞きたいけれど聞きたくない。早く登校してしてほしいけどまた来ないでほしい、なんて矛盾する思いをずっと抱えていた。


結局チャイムが鳴ってから教室に入ってきた遊作くんは授業を受けずにどこかへと姿を消してしまった。

悲しいようなホッとしたような複雑な気持ちだ。


遊作くんと財前葵ちゃんのことが聞きたいのに、こういう時に限って後ろの席に座ってこなかった島に休み時間突撃した。


「ねえ島、遊作くんと財前葵さんって何繋がり?話すような接点なんかあったっけ?」
「デュエル部繋がりだろ、あいつ入部したし」
「え、遊作くんってデュエル部入ったの?」
「は?名字知らなかったの?」

藤木のことならなんでも知ってると思ってたわ
なんて言葉は耳に入ってこなかった。


だって、島に教えてもらうまで遊作くんが財前葵さんと話したのが今日の朝が初めてじゃないことも、デュエル部に所属してることも私は何も知らなかった。

仲良くなってるつもりでいたのは私だけだったのかな。



それからは少しだけ遊作くんと距離をとるようにした。あからさまにって訳でもなくて少しだけ話をする機会を減らしてみた。
遊作くんが忙しそうにしてるって言うのもあるけど、ある日突然 財前と付き合うことになった なんて言われたら立ち直れなくなってしまうから。恋する女子高生は弱いのだ。

少しだけこちらを気にする素振りを時折見せる遊作くんに胸が痛くなりながらも、前のような勢いで話しかけに行くことはできなかった。


何ヶ月もそんなぎこちない生活を続けた結果、
なぜか関係の無い島が痺れを切らしたらしい。

デュエル部の部室に私と遊作くんを連れ出し

「あーーーーー名字いい加減ウジウジうっとおしい!藤木に言いたいことがあるなら言え!」

と、吐き捨てて帰って言ってしまった。

置いていかれる私と遊作くん。気まずすぎる。
そもそも私デュエル部員じゃないからここにいてもいいのかもわかんないし。
なんて帰った島に向かって恨み言を考えていると

「名字」

遊作くんから名前を呼ばれた。

「なに?」
「俺はお前になにかしてしまったのか?」
「別になにもないよ」

可愛くない返事。
せっかく遊作くんから歩み寄ってくれたのに。
財前葵さんならきっともっと可愛い返事をするのに

「名字、泣かないでくれ」

遊作くんに言われるまで気が付かなった。
勝手に傷ついて泣くなんて、
なんて重い女なんだ私は。


「ごめん、財前葵さんに嫉妬してた。私の方が先に遊作くんと仲良くなったのにって。
デュエル部に入ったのも島から聞いて知ったから、仲良くなりたかったのも私だけなのかなって」

「デュエル部に入ることになったのは成り行きで秘密にしてたと言う訳ではないんだ。
そして俺が仲良くしたいと思ってるのは名字、いや、名前だけだ。」


「だからこれからも俺と話してくれると嬉しい。」


なんて、単純な私は遊作くんのその一言だけで
舞い上がってしまう。

今はまだこの距離でもいいかななんて。
結局先に恋した方が負けなのだ。



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