私の知らない顔

遊作の好きな人って葵ちゃんなんだ。


横顔を見たらすぐに気がついた。
だって三年間ずっと隣で遊作を見てきたから。


遊作は元々は笑顔で話すタイプじゃなかった。どちらかと言うとクールでいつも口は一直線の真顔で理屈的で、楽しいことなんて何も無いです、みたいな顔してた。

そんな遊作を見て入学当初の私は、藤木遊作くんの好きな物ってなんだろう?どんな時に笑顔になるんだろう?って思って話しかけることが多くなった。

いまでも仲良くなる前の遊作の冷たさは忘れない。
それでも三年間一緒に過ごすうちに笑顔が増えるようになってすごく嬉しかった。

本当に嬉しかったの。
仲良くなっていく度に少しずつ笑顔が増えて
交わす言葉に冗談や軽口が増えて、
気の置けない仲になれて。
そしていつの間にか遊作に恋してた。

私と話す時のいつもより目尻がさがって少しだけ上がった口角を見るのが好きだった。
その顔が特別だった。それなのに、
葵ちゃんと話してる時の、少し照れたように眉毛をさげながら愛おしそうな顔してる遊作のそんな笑顔、私は知らない。


「ねー島ー」
「なんだよ俺今課題で忙しいんだけど」
「遊作と葵ちゃんって付き合ってるの?」
「人の話を聞け、そして俺が知るかよ」
「ちょっと聞いてきてよ」
「自分でいけ」
「ケチ」
「うるせえ」

なんて島とやりとりをしている最中も
私の視線は遊作と葵ちゃんから離れることはなかった。


なに、話してるんだろう。
葵ちゃんも楽しそうだし。


あまりにも見すぎていたからか、
ふとこっちを見た葵ちゃんと目が合った。
気まずい、が、露骨に目を背ける訳にはいかず笑いながら手を振った。多分苦笑い100パーセントだけど。そんな私の笑顔にも気を悪くすることなく可愛い笑顔で手を振り返してくれる葵ちゃん。いい子すぎる可愛い。

葵ちゃんは私へと向けていた視線を遊作に戻すことなくそのまま遊作との会話を続けている。
そんな葵ちゃんの視線の先が気になったであろう遊作がこっちを見てきた。
遊作の視線の先に写っているのは間違いなく課題を嫌々こなしてる島とそれに絡んでいる私だ。

遊作は私と目が合うと葵ちゃんになぜか自分のデュエルディスクを渡してこちらへと向かってきた。


「二人で何の話しをしていたんだ」
「別になんでもないよ」

私の返答が気に入らなかったのか遊作は私から視線を外すことなく見つめてくる。何を話していたのか言えという圧を感じる。凄く。
遊作と葵ちゃんのことだよ、なんて言えるわけない。

「島がこの間できたテーマパークに行ったってさんざん自慢してきたからどんなだったか聞いてただけだよ」

嘘だけど嘘じゃない。実際今日の朝イチに島から怒涛の自慢話をされた。開園してすぐに行けただの有名人がロケしてただのなんだの耳タコだ。

「はあ?お前何言って「島さあ!その課題提出期限もうすぐ切れるけどいいの?」
「や、やべえ出しにいかないと。じゃあなお前ら」

島が余計なことを言う前に釘を刺した。
デリカシーはないけど空気を読むことはできた島はそそくさと私たちを置いて足早に教室を去った。


「新しいテーマパーク?」
「そう、最近隣町にできたやつ。ニュースでも話題になってるところに島が行ったんだって。それで朝からずーっとその話」
「名前も興味があるのか?」
「開園する前から話題になってたし、SNSで調べたりしてたからやっぱり気になるよね。」
「そうか」
「でもさー、友達みんな彼氏と行く約束しちゃってて行ける人いないんだよね」

なんて自虐を挟んだ回答をしたら遊作からの返事がない。眉間にシワがよっててなにか考えてるみたいだ。


「遊作はやっぱりこういうテーマパークとか興味ないよね」
「あまり興味が無いな」
「やっぱり!そんな感じする」
「ただ名前といったら楽しそうだとは思う」
「ありがとう。楽しませる自信ならあるよ」


「…まだ誰と行くか決まってないと言っていたな」
「そうなんだよね」
「もし名前が嫌じゃなかったら今度俺と一緒に行かないか」
「わ、私でいいの?」
「あぁ、一緒に行くなら名前がいい」
「行く!行きたい!喜んで!」


顔を少し赤らめながら真っ直ぐに私を見つめる遊作。
その赤い顔は夕日のせいじゃないって、期待しちゃっていいですか?







「藤木くんって好きな子の話をする時あんなに笑顔になるのね」
「遊作ちゃんあれで隠せてるって思ってるのが可愛いよなー」
「彼、意外とわかりやすいのね」
「遊作ちゃんもだけど名前ちゃんもかなりわかりやすく好きって全面に出てるよなー」
「あらAiも恋愛が理解できるの?」
「Ai様だぜ?何でもわかる、あんなのどっからどーみても相思相愛ってやつじゃん?本人たちだけだぜ分かってないの」



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