君がいない


アラームが鳴り響く部屋の中で目が覚める。少しだけ開いているカーテンの隙間から差し込んでくる朝日にようやく目が慣れた頃に起き上がり活動を始める。
また今日も何気ない退屈な日々が始まろうとしていた。


起きたばかりで正常に働いていない頭をコーヒーで覚まそうと電気ケトルのスイッチを入れる。ドリップで淹れたコーヒーが美味しいのは分かっているが、一人暮らしの社会人にはお湯で溶かして飲むことができるインスタントコーヒーはとてもありがたかった。お気に入りのコーヒーに先程沸かしたお湯を注ぎほんの少し砂糖とミルクを加え混ぜながら飲める温度まで冷めるのを待つ朝のこの時間が私は好きだ。


カフェインを摂取したことにより少しだけ冴えた頭の中で考えるのは毎朝同じことだった。


また今日も私の隣には君がいない。


こうも毎日変わらず十代のことを考えるなんて未練がましいな、なんて自分に悪態をつきたくなる。


予定もない日曜日の朝どこも出かける気にもならず、ぬるくなったコーヒーが入っているマグカップを手に持ちソファへと腰を掛ける。テレビでは朝のバラエティ番組が映し出されているが眺めているだけで何一つ頭の中には入ってきていない。


何も考えていなかった頭の中で不意に十代と過ごした楽しかった記憶がまるで映画の回想シーンみたいに繰り返される。


「俺は遊城十代!よろしくな」
「名前とのデュエルはやっぱり楽しいな」
「なあ今日も授業終わったらデュエルしようぜ」
「今日の夜翔たちと朝までデュエルやるから名前も来いよ」


一緒に過ごしてきてたくさんの思い出も私への言葉もあったはずなのに、どれも大切で忘れたくないのに、十代の面影ごとすこしずつ消えていってしまう。


十代に会いたくて焦がれて探しても
十代だけが見つからない。
十代がいればもう何もいらないのに
何も言わずに急にいなくなるから胸が痛くなるんだよ。温もりだけおいてどこかへ行かないで、どうせだったらこの胸の痛みまるごと全部連れ去っていってくれたら良かったのに。



▽▽▽


どれだけ十代に恋焦がれても世界は何も変わらずわたしを置いて日々進んでまた今日も一日が始まる。
毎朝の習慣となっているコーヒーで目を覚ましてもやっぱり今日も私の隣に君はいない。


十代がいない毎日はつまらなくてろくでもなく感じて、私の心は脆くすり減っていく。あの頃は十代と一緒だったからなんだってできたのに、ひとりじゃなにもできやしない。


十代を探すこと自体が時間の無駄かもしれない、なんて考えて落ち込んだ体はソファーに沈み込んでいった。
何もする気力がなくて、デッキやデュエルディスク、買ったばかりのパックも、買ってから開けずに放置してる三ヶ月前のパックも全部全部そのままに散らかってるワンルームを何もしないで眺めている。十代がいないとデュエルをする気にもなれなかった。


このまま何もしないで十代を待ってたところでこの部屋に訪れてくれる気配なんてないし、十代を探しにどこへだって行けるのに何もかもはじまらないのは十代がいないからだよ。
私の原動力は君だったのに。
君がいたからなんでもできたのに

君がいない

君が、



十代がいればもう何もいらないのに
笑えるくらいに私の心はずっと晴れなくて。
一人きりの休日の朝は退屈で
このままじゃ何もはじまらない。

十代さえいればもう何もいらないのに
急にいなくなるから胸が痛くなるんだよ
温もりだけおいていなくならないで。
私には十代が必要なのに見つけることも許してくれないなんて。


あぁ、夜は明けたはずなのに

朝になっても暗いな。



Top