ナイモノネダリ

(名前変換無/夢主の独白)
(電話 の後日談のようなもの)





「明日の朝早いからあんまり夜更かししないで早く寝るんだよ、俺のこと待ってないで先に寝てていいからね 」
優しい彼は私にそう声をかけてからお風呂に入りに行った。浴室の方からはシャワーの音とともに少しだけ音がズレた鼻歌が聞こえてくる。彼の優しいところや少しだけ音痴なところが好きだな、なんて思いを巡らす。

そんな彼と、明日私は結婚をする。


純白のドレスを纏ってみんなの前で神様に愛を誓う大切で大好きな彼との結婚式の前夜なのに私の脳裏には十代の事がチラついていた。
 

「結局、連絡つかなかったな…」

明日香や万丈目たちと同じくらい十代だって大切だから、ううん、きっとあのころは誰よりも十代が大切だったから十代にも結婚式に来てほしかった。
本音を言えば、あなたが手放した女はこんなに幸せになりました!なんて見せつけてやりたかったな、なんて。

十代、私ね随分大人になったよ

彼はとても真面目で素敵な人で、
私ね、一度も泣いてないんだよ。


きっと十代はこの世界のどこかで、子供のような無邪気さで無茶をしながら旅をして、そこで出会った人たちと仲良くなって、泣かせてもそれ以上に笑わせてあげてるんでしょう。


まだ誰のものでもない私の最後の夜に十代を思い出している私はなんて酷い女なんだろう。


十代、私の事迎えに来て連れ去ってよ、あの日のように、なんてね。もう絶対に言ってあげないんだ、だって私はこの道の先でちゃんと幸せになるからね。


十代は誰よりも明るく見えるけどほんとうは孤独で、私はそんなあなたを抱きしめてあげたい、あのころはずっとそう思ってた。

貴女と十代の恋は二人ともをだめにするわ、なんて明日香によく叱られていたけれど、本当はわかっていてでも楽しさで蓋をしていた。


十代と出会ってなければ今の私はここにきっといないんだろうな。
幸せをありがとう、なんて絶対言ってあげないけれど、忘れないよあの笑顔。

だけど、振り返るのはもう終わり。
私はこの道の先でちゃんと幸せになるからね。

明日の朝は早いからもうそろそろ寝ないと肌に響いちゃうなあ、なんて思いながらまだ浴室の方から聞こえる鼻歌に耳を傾ける。

十代私ね、随分大人になったよ。



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