エメラルドの羨望

「いいよなあ」
「どうしたんだよ急に」
「別に、なんでもないさ」

それだけ言うとヨハンは黙々とドローパンを食べる作業に戻ってしまった。
ヨハンは少し変なところがある。多分こんなことを周りに言ったら翔あたりから アニキも大概っすよ なんて言われるだろうけどさ。まあ実際そうかもしんないけど変って思われてる俺が変って思うくらいヨハンは変わってる。

「…はあ」
「なあヨハンなんか悩みでもあんのか?」
「ないよ」
「本当か?」
「本当だって」
「ならなんでそんな変な顔してるんだ?」
「十代おまえ変な顔って失礼だなー」
「悪い悪い、えーっとなんか悩んでる顔っつーの?なんかうまくいえねーけど変だぜヨハン」
「あちゃーバレたか。実は…」
「実は?」
「十代の食べてる黄金のたまごパンが美味しそうでさー。くれ!」
「はあ?やだよ」
「いいじゃんか一口くらい」
「ぜってー嫌だ!」
「ちぇー」

それだけ言うとヨハンは昼食を再開させた。なんだよせっかく人が心配したのに悩み事が黄金のパンが食いたかっただけかよ。まあいいか俺も早くドローパン食い終わしてヨハンとデュエルでもするかな、なんて考えていると

「あ、いた!十代!」


遠くから俺を呼ぶ声がする。

「なんだよ名前」

声をかけてきた名前はオベリスクブルーの女子生徒でデュエルの腕は明日香と並ぶくらいの強さをもっている。まだ負けたことはないがヒヤヒヤした勝負は今までいくつもあった。

「もーめちゃくちゃ探したんだよ。あ、ヨハンもいるじゃん、やっほー!」
「やぁ名前今日も元気だな」
「ヨハンもね」
「で、名前なんか用かよ?」
「そうそう!さっき三沢から聞いたんだけど今購買で新しいパックが出たらしいよ!」
「まじか!早く行こうぜ」
「十代ならそういうと思った!早く行かなきゃ売り切れちゃう」
「よし購買まで走るか」
「ヨハンも行こ!」
「いやー俺はまだパン残ってるからいいや」
「そう?残念」
「じゃあ俺たちだけで行くかーほら早くしろよ名前置いてくぞ」
「待ってよ十代」

あー新しいパックってどんなカードが入ってるんだろうな。考えるだけでワクワクするぜ!購買までの距離が憎らしい!

「そうだヨハン!これやるよ!」

そういえば、と俺はまだ残っている黄金のたまごパンをヨハンに投げた。

「黄金のたまごパン食いたかったんだろ?じゃあ俺ら行くから」
「またねヨハン」
「おー」

ヨハンの返事が聞こえるか聞こえないかのうちに俺と名前は走り出した。くっそー!早く新しいパック買ってデッキ調整したいぜ。知らないカードに会えるのはワクワクするなあ!





「…いいよなあ」

2人の走り去る様子を見届けてから俺はぼそっと呟いた。

ほんとに羨ましいよ、十代。

名前が呼びに来るのも、楽しそうに喋るのも、デュエルに誘うのも全部全部全部全部全部全部十代だ。俺が十代の横にいたってどうせおまけ的な扱いなんだろうなあ。

俺と十代は何が違うんだ。デュエルの強さは同じくらいだしお互いデュエルモンスターズの精霊だって見れる。
俺と十代の違いってなんだよ。
さっき貰った黄金のたまごパンが気がついたら強く握りすぎたようで見るも無残な形になってしまった。

あぁ、俺のこの醜い嫉妬心もこんな風なんだろうなあ。羨ましい、羨ましいよ十代が。

名前はきっと今も隣にいる十代しか見えていなくて、俺の事なんか頭の片隅にも置いてはくれない。

名前の目が写す世界が俺だけだったらいいのに。



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