4.





仕事を終え、クライアントの家を出てひとつ伸びをする。
…昼過ぎか。思ったよりも早めに終わってよかった。
どうせなら近くでランチして帰ろうかな、と帰りの道中で良いところがないかとキョロキョロしていると、コロンボと大きく書かれたレストランを見つけた。雰囲気の良さそうな、昔ながらな洋食屋さん。ここに決めた!と扉を開けて中へ入ると、なんと昨日ぶりな面々がいた。

「あれ、名前さん!」
「あら?蘭ちゃん!」
「おお!昨日ぶりですなぁ、名前さん!」
「昨日ぶりですねぇ!毛利さん達もここでお食事ですか?」
「食事兼、毛利さんの依頼人と待ち合わせでして。」
「依頼人と?」
「ええ。昨日話したうちの事務所のホームページからの初めての依頼人でしてね。」
「ああ、そうなんですか!」
「ほんとは事務所で待ってたんだけど、待ち合わせをコロンボに変えたいってメールで言われて、ボクたちここへ来たんだ。」
「へーそうなんだ!あ、よかったら私もご一緒していいですか?」
「もちろん!」

安室さんも一緒にいるのはちょっと気にかかるけど、そのホームページにほんのちょっとだけ関与したわけだし、どんな依頼なのか興味がある。どうせここでお昼にしようと思ってたわけだし。受け入れてもらえてよかった。
話を聞いていると、どうやら先日亡くなった依頼人のお兄さんの遺品から出てきたコインロッカーの鍵が、どこのものなのかわからないから探してほしいということらしい。
お兄さんの遺品なら、ちゃんと見つけてあげたいもんね。
その依頼内容を聞いて、…それだけですか?と安室さんは拍子抜けしたような反応をした。
私自身も、それで30万もくれるだなんて、なんて太っ腹な依頼人なんだろうと内心思ったのは秘密だ。


ランチを食べてからしばらく。コーヒーを飲み終わってもまだ依頼人は姿を現さない。外はすっかり日が傾き出していた。

「来ないね、依頼してきた人。」
「うん…」
「もしかしたら、この近辺にコロンボという店が他にあるとか?」
「ねぇよ…」
「会う場所をここに変えようというメールにOKの返事はしたんですよね?」
「あぁ!すぐに返信したし…『ここで待ってる』ってメールもさっきから何度も送ったけど、返事が来ねぇんだよ…」
「なるほど…」
「ん…?」

携帯でメールを見返していた毛利さんが突然顔をしかめた。

「どうしたんですか?」
「昨夜きた依頼人のメールとさっきのメール、アドレスが違ってるな…」
「え?」
「まさか自分の携帯が充電中だったから、友達の携帯を借りて、慌ててさっきのメール送ったんじゃない?」
「確かに有り得るかも…。」
「…そしてその友人は、携帯の電源を切ってしまったとか?」
「おいおい!OKの返信したの、さっきのメールアドレスだぞ!?」
「だったらOKの返事が来てるの知らずに待ってるかもね?最初の約束通り、探偵事務所で。」
「それなら急いで戻らなきゃ!」

私達は急いでお会計を済ませ、戻ってきたのは昨日ぶりの探偵事務所。つい流れでここまで着いてきてしまったが…まぁいいかと思い、毛利さん達の後に続く。
なんとなくどこか違和感を感じたが、それが何なのか私にはわからなかった。

「で、誰も待ってねーし?」
「ほんとだ。」
「一応最初のメールアドレスに、『すぐ戻る』ってメールを出したんだがなぁ。」
「じゃあそのうち返事が来るんじゃない?」
「そうね。」
「紅茶でも飲んで待ってる?」
「いいよ…コロンボでコーヒー飲みすぎたから。ちとトイレ。」
「あ、蘭さん、紅茶を入れるなら手伝いますよ?」
「私も手伝うわ。」
「すみません、じゃあ安室さんはティーカップ出してもらえますか?」
「喜んで。」
「名前さん、そこに茶葉があるんで取ってもらってもいいですか?」
「もちろん!」

蘭ちゃんと安室さんと紅茶の準備をしようとしたとき、トイレに入ろうとした毛利さんの携帯が着信を告げた。

「お!依頼人から返事来たぞ!」
「え?」
「『たった今コロンボに着いたから来てください』って…」
「だったら早く行かなきゃ!」
「あ、あぁ…」
「じゃあ僕もついて行くからちょっと待ってて!トイレ済ませちゃうから…」

そう言いながらもじもじとしていたコナンくんがトイレに行こうとすると、再び着信が鳴った。

「ん?また依頼人からメールだ。『急いで皆で来てくれ』って。」
「え、皆って…」

私達も、ということ…?
というかなんで皆でいるということがわかったんだろう?

「皆でって、私達も?」
「他に誰がいるんだよ。」
「ではまた皆でコロンボへ行きましょう!」
「え?」

そう言って安室さんとコナンくんは早足でドアの方へと向かった。

「さぁさぁ、皆さん急いで!」
「早くしないと、依頼人さん待ちくたびれちゃうよ?」
「あ、安室さん?コナンくん…?」
「ったく、俺だけでいいんじゃねぇのか?」
「まぁまぁ」
「だって皆でって言ってるんでしょ?」

コナンくん、トイレはよかったの?と一番に思ったが、促されるまま私達もドアの方へと向かい、皆で事務所を出た。

「皆さん、お静かに。」

最後に出た安室さんがドアを閉めた途端、おもむろに口元に人差し指を当て、小さな声で話し出した。

「恐らく…こういうことですよ。
依頼人を毛利先生に会わせたくない人物がいて、場所変更のメールで先生を追い払い、空になった探偵事務所で、事務所の人間として依頼人と落ち合ったんです。」
「「ええっ!?」」
「その証拠に、入り口のこのドアの鍵穴には、鍵をこじ開けた跡があり、食器棚の中に、わずかに濡れたティーカップがありました。蘭さんの性格からして、濡れた食器をそのまま食器棚にしまわないでしょ?」
「は、はい…」

突然始まった安室さんの推理に驚いたが、私が事務所に来たときのなんとなく感じた違和感はそういうことだったのかと、少しだけ納得した。

「それにさー…出掛ける前におじさんがテーブルに落としたタバコの灰も、綺麗に拭き取られてたよ?これって、ボク達が出掛けてる間に誰かが拭いたんじゃないかなぁ?」
「つまりそれは、誰かが先生の留守中に依頼人を招き入れ、テーブルを拭き、紅茶を出して持て成した痕跡…
そのティーカップをよく拭きもせず棚にしまったから、まだ濡れていたというわけですよ。」
「で、でも、なんでそんな事…コインロッカーを探してもらいに来ただけなのに…!」
「そのロッカーに、とんでもねぇもんが入ってるんじゃ…!?」
「それを依頼人に見つけられては困るか、もしくはそのロッカーの中身を横取りしようとしているのか…」
「さぁ、それは…」

ついさっき閉めたドアノブに手をかけ、安室さんが爽やかに笑いながらドアを開けた。ま、まさか…彼の行動に少しの嫌な予感を感じた。

「ちょ…!」
「本人に直に聞いてみましょうか!」
「ほ、本人って…」
「まさか!?」
「先生がトイレに入ろうとした時に丁度返信が来ましたよね?そして、コナンくんが入ろうとした時も…」
「それに、トイレの前の床にさー、何かを引きずったような跡が付いてたよ!」
「「ええっ!?」」
「そう…恐らくその誰かは、何らかの理由で依頼人を連れ込み、まだ隠れているんですよ…あのトイレの中にね…」

まさか立てこもってるの?しかもトイレに?
すると、私達の視線の先にある方向から、大きな音が響いた。それはまさしく―――銃声。
嫌な予感が的中してしまった。
走り出したコナンくんがトイレのドアを勢いよく開けた。コナンくんに続いてトイレへと駆け寄れば、そこにはガムテープで縛られ口を塞がれた女性と、トイレへ座り自らに拳銃を向けたまま血塗れで動かなくなっている男性がいた。








<< title >>