7.
久しぶりに会った彼女は、
前より少し大人になっていて、
前と同じ笑顔だった。
昨日、名前は突然アルバイト先のポアロへとやってきた。
毛利さんに連れられてきた彼女に気付かず、近付き挨拶をすれば、梓さんの後ろからひょっこりと顔を出した彼女は、驚いたような表情をして固まった。
自分も彼女同様驚いたが、今は"安室透"として接しなければと、初対面を装って挨拶を交わした。
何故、名前がここに。
どうやら、彼女は仕事で毛利さんの元へ来たようだった。
警察を辞めた、という噂は聞いていた。が、何年も連絡を取っておらず、今どこで何をしているかというのは知らなかった。
しかし、夢で見た今日の今日で再会するなんて、と驚いた。
彼女と別れてから、ほぼ連絡を取ることがなかったのだから。
ポアロでの仕事が終わった頃、ベルモットとの約束まで少し時間があったから、"降谷零"の方の携帯で電話帳から懐かしい名前を探す。まだ、番号が変わっていなければいいのだが。
そんな思いで発信を押せば、コール音が鳴る。電話が掛かったことに自分でも驚いたが、緊張しているようで、ドクンドクンと心臓が煩い。
数コールの後、「もしもし」と電話越しの彼女の声に、ほんの少しの安堵と、胸が微かに締め付けられる感覚がした。
理由も言わずにただ、"安室透"として接してくれ、なんて一方的な僕に対して、彼女はただ、わかったと言ってくれた。昔からそうだった。物わかりがいいというか、そういうところがある奴だった。あの頃から、変わっていない。
毛利さんの依頼人であり、今回の事件の被害者である樫塚圭さん。
彼女の話を聞いていると、いくつか不自然な点がある。
耳があまり聞こえていない様子や、携帯の待ち受けを亡くなったばかりの兄との写真にしているということ等も気にかかる。
隣で、お兄さんの話を聞いていた名前の顔がほんの一瞬曇った。目が合えば彼女はそっと頷き、僕もそっと頷いて見せた。
彼らのことを―――旧友のことを思い出したんだろう。
あの頃、崩れてしまいそうな彼女に、別れて以来初めて電話を掛けた。
名前は強がって、大丈夫だとか僕自身の心配をしたりだとか、そんなことばかり話していた。
けれど、泣いていた名前の元へ行って抱き締めてやることが出来なかった自分を、今でも悔いている。
「―――すごい!もう3個目!」
樫塚さんを送る為に毛利さん達と来たマンションで、何か手掛かりがあるかもしれないと、トイレを強請ったコナンくんに便乗して入り込んだ部屋。
そこで、蘭さんの電話の電波が悪いことから盗聴器が仕掛けられていることに気付き、毛利さん、蘭さんと共に盗聴器探しが始まった。
部屋を片付けてくると言ってリビングを出ていった樫塚さんはマンションから出て行ったようだ。トイレへ行ったはずのコナンくんも見当たらない。きっと樫塚さんに着いていってしまったんだろう。
何もなければいいんだが。
毛利さんが寝室であろう部屋を開けた途端、顔を顰めた。
その部屋から、かなりの異臭が漂ってきている。
「うっ!!なんだこの部屋、かなり臭うぞ!」
「なんなの、この臭い…」
「その部屋にも、盗聴器が仕掛けられているようですね」
「ていうか…さっきからコナンくんも圭さんも見かけないんだけど…」
「ほっとけ!今は盗聴器が先だ!」
それにしても、彼女達の前に、仕事の電話が掛かってきて部屋から出ていった名前が戻って来ないことも少し気に掛かる。仕事の電話にしては、時間が掛かりすぎている。
彼女の性格からすると…片隅で嫌な予感が頭を過ぎるが、今は盗聴器を探さないと、と、臭いの元である部屋へ入る。
探知機からの音を頼りに進むと、手元の機械はベッドの前で大きく反応を示した。
「盗聴器はベッドの下のようです。」
「ん…?でっけぇスーツケースが押し込められてるな…ちょっとどけ!」
「はい」
毛利さんがベッドの下から、その相当重そうなスーツケースを引っ張り出すと、臭いが更に充満する。この臭いは…
とにかく開けてみましょう、という僕の発言で、毛利さんによって開かれたスーツケース。
その中には、男の遺体が眠っていた。
スーツケースに入っていた小柄な男性。
死因は撲殺、死後1日強というところだろう。
その男性と一緒に、確かに盗聴器がスーツケースの中にあった。
「とにかく、家主の圭さんに話聞いてみよ?」
「しかし彼女なら、もうここにはいないかと…」
「えっ!?」
「さっき玄関を通った時に、彼女のブーツはありませんでしたから。その時は下駄箱にしまったのかと思ったんですけど…もしかしたら、我々が盗聴器を探す為に部屋中を調べ回ったら、この遺体が見つかると恐れて逃げたっていう場合も考えられますしね…」
「じゃあこの男を殺したのは圭さんだっていうのかよ…」
「それはまだ断定出来ませんが…何故かコナンくんの靴までなくなっていたのは、少々気になりますね…」
「うそ!?どうして…!?」
「さぁ…逃げ出した彼女の後を追っていったか、もしくは連れ去られたか…」
「わ、私、コナンくんに電話してみる…!」
「俺も今圭さんにメールを打ったが…逃げたなら返事は来ねぇな…」
そう言った毛利さんの携帯から、メールを告げる着信が鳴る。
それは、逃亡したと思われる樫塚さんからだった。
死体の存在を知っている文面。車で眠っているコナンくんの写真を添えられたそのメールには、夜が明けたら解放する旨と、警察に通報するつもりならコナンくんの命の保障はしないという内容が書かれている。
つまり、殺人犯にコナンくんは誘拐されたと言う事だ。
「ってことは、やっぱりこの男は圭さんが…!?」
「ひょっとしたら、探偵事務所で拳銃自殺した男も、本当は彼女が…」
「えぇっまさか、そんな…!」
「でも、彼女からはほとんど発射残渣が出なかったじゃねーか!てことは、彼女は拳銃を打ってねーってことだろ!?」
「ひょっとしたらの話ですよ、ひょっとしたらの…
しかし弱りましたねぇ…新たな遺体を発見し、その犯人にコナンくんを連れ去られたというのに、朝まで手が出せないとは…」
「あのガキがこっそり居場所を教えてくれりゃー…
あ!そういや名前さんはどうしたんだ?彼女なら、さっきのメールの解析とかなんとか出来そうだがな…」
「確かに、警察にいた優秀なハッカーだったと警部さんが言っていましたし、解析や写真を撮った場所の特定等は出来ると思いますが…これだけ時間が経っているというのに戻ってないということは…もしかしたら、連れ去られそうになっているコナンくんを見掛けて、助けようと追いかけていった…という可能性も。元警察官なら、尚更。」
「…そうだ!阿笠博士ならわかるかも!」
「え、阿笠博士…?誰です、その人…」
コナンくんの知り合いだというその博士が、コナンくんを追跡出来る道具を持っているという。
その"便利な道具"を使う他ない、と、その博士とやらに追跡をお願いすることにした。
電話の様子を伺いつつ、もう少し部屋を探るかと見て回る。
名前が仕事の電話をしていたなら、ここは電波が悪いからとマンションを降りてエントランスを出ただろうが、エントランス側の窓から下を見下ろすが、電話をしているであろう名前の姿はやはり見当たらない。
何も言わずに帰ったとは考えにくい。性格的に。
となると、やはり着いて行ったか…と予想通りすぎる彼女の行動に頭を抱えたくなる。
昔からそうだ。名前は危険なことに1人で首を突っ込んでいく習性でもあるんだろうか。同じ警察官であったのだし、気持ちもわかるのだが、こちらの気持ちも考えてほしい。
コナンくんのこともあるが、彼女の身に何かあったらと思うと…
もう、二度と失いたくはない。絶対に。
何がなんでも彼女を見つけ出し、コナンくんの救出をしなければ。
そう思い、何か手掛かりがないかと再び部屋を探し出した。
<< title >>
久しぶりに会った彼女は、
前より少し大人になっていて、
前と同じ笑顔だった。
昨日、名前は突然アルバイト先のポアロへとやってきた。
毛利さんに連れられてきた彼女に気付かず、近付き挨拶をすれば、梓さんの後ろからひょっこりと顔を出した彼女は、驚いたような表情をして固まった。
自分も彼女同様驚いたが、今は"安室透"として接しなければと、初対面を装って挨拶を交わした。
何故、名前がここに。
どうやら、彼女は仕事で毛利さんの元へ来たようだった。
警察を辞めた、という噂は聞いていた。が、何年も連絡を取っておらず、今どこで何をしているかというのは知らなかった。
しかし、夢で見た今日の今日で再会するなんて、と驚いた。
彼女と別れてから、ほぼ連絡を取ることがなかったのだから。
ポアロでの仕事が終わった頃、ベルモットとの約束まで少し時間があったから、"降谷零"の方の携帯で電話帳から懐かしい名前を探す。まだ、番号が変わっていなければいいのだが。
そんな思いで発信を押せば、コール音が鳴る。電話が掛かったことに自分でも驚いたが、緊張しているようで、ドクンドクンと心臓が煩い。
数コールの後、「もしもし」と電話越しの彼女の声に、ほんの少しの安堵と、胸が微かに締め付けられる感覚がした。
理由も言わずにただ、"安室透"として接してくれ、なんて一方的な僕に対して、彼女はただ、わかったと言ってくれた。昔からそうだった。物わかりがいいというか、そういうところがある奴だった。あの頃から、変わっていない。
毛利さんの依頼人であり、今回の事件の被害者である樫塚圭さん。
彼女の話を聞いていると、いくつか不自然な点がある。
耳があまり聞こえていない様子や、携帯の待ち受けを亡くなったばかりの兄との写真にしているということ等も気にかかる。
隣で、お兄さんの話を聞いていた名前の顔がほんの一瞬曇った。目が合えば彼女はそっと頷き、僕もそっと頷いて見せた。
彼らのことを―――旧友のことを思い出したんだろう。
あの頃、崩れてしまいそうな彼女に、別れて以来初めて電話を掛けた。
名前は強がって、大丈夫だとか僕自身の心配をしたりだとか、そんなことばかり話していた。
けれど、泣いていた名前の元へ行って抱き締めてやることが出来なかった自分を、今でも悔いている。
「―――すごい!もう3個目!」
樫塚さんを送る為に毛利さん達と来たマンションで、何か手掛かりがあるかもしれないと、トイレを強請ったコナンくんに便乗して入り込んだ部屋。
そこで、蘭さんの電話の電波が悪いことから盗聴器が仕掛けられていることに気付き、毛利さん、蘭さんと共に盗聴器探しが始まった。
部屋を片付けてくると言ってリビングを出ていった樫塚さんはマンションから出て行ったようだ。トイレへ行ったはずのコナンくんも見当たらない。きっと樫塚さんに着いていってしまったんだろう。
何もなければいいんだが。
毛利さんが寝室であろう部屋を開けた途端、顔を顰めた。
その部屋から、かなりの異臭が漂ってきている。
「うっ!!なんだこの部屋、かなり臭うぞ!」
「なんなの、この臭い…」
「その部屋にも、盗聴器が仕掛けられているようですね」
「ていうか…さっきからコナンくんも圭さんも見かけないんだけど…」
「ほっとけ!今は盗聴器が先だ!」
それにしても、彼女達の前に、仕事の電話が掛かってきて部屋から出ていった名前が戻って来ないことも少し気に掛かる。仕事の電話にしては、時間が掛かりすぎている。
彼女の性格からすると…片隅で嫌な予感が頭を過ぎるが、今は盗聴器を探さないと、と、臭いの元である部屋へ入る。
探知機からの音を頼りに進むと、手元の機械はベッドの前で大きく反応を示した。
「盗聴器はベッドの下のようです。」
「ん…?でっけぇスーツケースが押し込められてるな…ちょっとどけ!」
「はい」
毛利さんがベッドの下から、その相当重そうなスーツケースを引っ張り出すと、臭いが更に充満する。この臭いは…
とにかく開けてみましょう、という僕の発言で、毛利さんによって開かれたスーツケース。
その中には、男の遺体が眠っていた。
スーツケースに入っていた小柄な男性。
死因は撲殺、死後1日強というところだろう。
その男性と一緒に、確かに盗聴器がスーツケースの中にあった。
「とにかく、家主の圭さんに話聞いてみよ?」
「しかし彼女なら、もうここにはいないかと…」
「えっ!?」
「さっき玄関を通った時に、彼女のブーツはありませんでしたから。その時は下駄箱にしまったのかと思ったんですけど…もしかしたら、我々が盗聴器を探す為に部屋中を調べ回ったら、この遺体が見つかると恐れて逃げたっていう場合も考えられますしね…」
「じゃあこの男を殺したのは圭さんだっていうのかよ…」
「それはまだ断定出来ませんが…何故かコナンくんの靴までなくなっていたのは、少々気になりますね…」
「うそ!?どうして…!?」
「さぁ…逃げ出した彼女の後を追っていったか、もしくは連れ去られたか…」
「わ、私、コナンくんに電話してみる…!」
「俺も今圭さんにメールを打ったが…逃げたなら返事は来ねぇな…」
そう言った毛利さんの携帯から、メールを告げる着信が鳴る。
それは、逃亡したと思われる樫塚さんからだった。
死体の存在を知っている文面。車で眠っているコナンくんの写真を添えられたそのメールには、夜が明けたら解放する旨と、警察に通報するつもりならコナンくんの命の保障はしないという内容が書かれている。
つまり、殺人犯にコナンくんは誘拐されたと言う事だ。
「ってことは、やっぱりこの男は圭さんが…!?」
「ひょっとしたら、探偵事務所で拳銃自殺した男も、本当は彼女が…」
「えぇっまさか、そんな…!」
「でも、彼女からはほとんど発射残渣が出なかったじゃねーか!てことは、彼女は拳銃を打ってねーってことだろ!?」
「ひょっとしたらの話ですよ、ひょっとしたらの…
しかし弱りましたねぇ…新たな遺体を発見し、その犯人にコナンくんを連れ去られたというのに、朝まで手が出せないとは…」
「あのガキがこっそり居場所を教えてくれりゃー…
あ!そういや名前さんはどうしたんだ?彼女なら、さっきのメールの解析とかなんとか出来そうだがな…」
「確かに、警察にいた優秀なハッカーだったと警部さんが言っていましたし、解析や写真を撮った場所の特定等は出来ると思いますが…これだけ時間が経っているというのに戻ってないということは…もしかしたら、連れ去られそうになっているコナンくんを見掛けて、助けようと追いかけていった…という可能性も。元警察官なら、尚更。」
「…そうだ!阿笠博士ならわかるかも!」
「え、阿笠博士…?誰です、その人…」
コナンくんの知り合いだというその博士が、コナンくんを追跡出来る道具を持っているという。
その"便利な道具"を使う他ない、と、その博士とやらに追跡をお願いすることにした。
電話の様子を伺いつつ、もう少し部屋を探るかと見て回る。
名前が仕事の電話をしていたなら、ここは電波が悪いからとマンションを降りてエントランスを出ただろうが、エントランス側の窓から下を見下ろすが、電話をしているであろう名前の姿はやはり見当たらない。
何も言わずに帰ったとは考えにくい。性格的に。
となると、やはり着いて行ったか…と予想通りすぎる彼女の行動に頭を抱えたくなる。
昔からそうだ。名前は危険なことに1人で首を突っ込んでいく習性でもあるんだろうか。同じ警察官であったのだし、気持ちもわかるのだが、こちらの気持ちも考えてほしい。
コナンくんのこともあるが、彼女の身に何かあったらと思うと…
もう、二度と失いたくはない。絶対に。
何がなんでも彼女を見つけ出し、コナンくんの救出をしなければ。
そう思い、何か手掛かりがないかと再び部屋を探し出した。
<< title >>