11.
「あ」
「あ?名前じゃねぇか。」
「伊達くん…こんなところで何してるの?」
仕事帰りに偶然前を通りがかったジュエリーショップから出てきたのは、ジュエリーとは全く縁のなそうな友人。
私の問いに少し照れたような顔をして頭をかく彼のこんな姿を見たのも初めてかもしれない。
「け、結婚!?伊達くんが!?」
「んだよ、そんなに驚くか?」
「お、驚くよそりゃ…」
場所を近くの喫茶店へと移した私達は適当に注文をすませ、先程の会話の続きを始めたのだが、彼の口から出た"結婚"という言葉に開いた口が塞がらない。しかもお相手がハーフだなんて。更に驚いた。
確かに私達の年齢ならばおかしくもないのだが、伊達くんが、というのが一番驚きだ。とは言っても、後はもう私と降谷くんしかいないのだけれど。
「それよりお前らはいつ結婚すんだ?もういい歳だぜ。」
「伊達くんにそんなこと言われるとは…でも相手もいないしね。」
「なんだよ、お前らまだより戻してなかったのか?」
「え」
お前ら、というのは恐らく私と降谷くんのことで。別れてから暫く経つが、まさか伊達くんにもこんなことを言われるとは。
「うーん、戻らないと思うよ。多分。」
「なんでだ?理由は聞いたが、お前ら仲良かったのによ。」
「仲は良いし、不満はなかったよ。でも、やっぱりね。」
「またそんな顔してると、松田達に怒られるぞ?」
「…ほんとだ、また怒られる。」
そう言って、二人で顔を見合わせて笑った。
私達の旧友。彼らがいなくなってしまってから暫く経つ。
彼らがいない事実は辛いけれど、こうして大切な友人の話を笑って出来る相手がいるのはとてもありがたくて幸せなことだ。
「それにしても、あいつ生きてんのか?」
「あいつって…降谷くん?」
「おう。ちっとも連絡寄越さねぇしよ。どこで何してんだか…」
「そうねぇ…日本の為に頑張ってるんじゃないかな?」
「お国の為にってか?ちっとは自分のことも考えてほしいぜ。」
「うん…そうだね。」
「お前はどうなんだよ。」
「私?」
「おう、ちゃんと元気にしてんのか?」
「見ての通り。」
ふふ、と笑えば、なら良かったと伊達くんもにかっと笑った。
「お、そうだ。あいつにメール送ろうぜ。」
「降谷くんに?」
「おう。お前は送らねーのか?」
「私は……いいや。」
「たく、仕方ねーなぁ。じゃあ名前の分も俺が送っといてやるよ。」
「ふふ、ありがとう。」
携帯を取り出しメールを打ち出した彼をぼんやりと眺める。
本当に、彼は何をしているんだか。警視庁にいた頃でさえ公安の状況など殆どわかることもなく、ましてや警察庁の、となると、未知だ。彼自身、自分の体をあまり大切にしない節があるから皆でよく心配していた。
本当に、貴方は今どうしているんだろうか。
「―――え…?」
かつての後輩であり友人である佐藤美和子から久しぶりの電話に明るく出た私は、彼女から重々しく告げられた言葉で頭が真っ白になった。
「伊達くんが…亡くなった、って…うそ、でしょ…?」
「…本当よ。」
「だっ、ついこの前、元気そうで…!」
交通事故だった―――美和子の言葉が何度も何度も頭の中でぐるぐると巡る。言葉を飲み込むことが出来ない。
私を気遣う彼女の言葉もあまり頭に入って来ず、彼女自身の辛そうな声に、あぁ現実なのかと思い知らされる。
電話を切った途端、力が抜けたようにぺたりとしゃがみこみ、堰を切ったように涙が溢れ出す。
震える指で携帯を操作し、電話帳を開く。
この番号にかけるのは、いつぶりだろうか。
耳にそっと当てれば無機質なコール音が響く。
『おかけになった電話番号は、現在―――』
『おかけになった電話番号は―――』
『おかけになった―――』
止むことのないコール音、繋がらない電話。
「…、出てよ、れい…っ…!」
いつまでも、彼の声を聞くことは出来なかった。
溢れ落ちた涙は絨毯へと落ち、滲み、染みを残す。
しんと静まり返ったこの部屋で、私の情けない泣き声だけがやけに響いていた。
ねぇ零…もう、貴方と私しか、いないのよ。
だから、貴方は―――
ぼんやりと瞼が開き、薄暗い部屋が滲んで映る。つ、と涙が顔を伝い溢れた。
あぁ、夢か。あの時の夢を見るなんて。
忘れていたわけではないが、改めて思い知らされる。
あれからもう一年が経つんだということを。
のそりと重たい体を起こせば、やっぱりいつも通りの朝だ。予定よりも早い時間ではあるが。
涙で濡れた顔を洗いに洗面所へと行けば、まぁ酷い顔。思わず笑ってしまった。
あの時、私はもう降谷くんの彼女でもなんでもないと思い知った。
友達に戻るのだから、ほんのたまにの連絡くらい、なんてどこかで思っていたのだ。
学校時代の仲間が亡くなっていく事実は辛く重すぎる。やり場のない悔しさやら寂しさやらで、泣き喚くことしか出来ない弱い自分。縋るように掛けてしまう降谷くんへの電話も、次第に繋がらなくなった。
だから、彼とはもう会うことはないんだと、声を聞くことすらも出来ないんだと、そんな風に思っていた。ついこの前までは。
思いもよらない場所で再会し、そこで違う名前を名乗られ、繋がらなかった電話で話し、事件で助けてもらうことにもなるなんて、予想外にも程があるだろう。
この短期間で詰め込みすぎではないだろうか。
事件と言えば、今日はこの前のことでもう一度話が聞きたいと警察に呼び出されている。今日は特に仕事もないし、家のことをぼちぼちしたら行かなければ。
ミニテーブルに置いてある、洗って綺麗に袋へと入れたハンカチが視界に入った。返しに行かなければと思いここに置いているのだが、返しに行くタイミングに困っていた。
…警視庁の帰りにポアロへ寄ってみようかしら。
『いえ、泣いているのかなと思いまして』
彼には何もかも見透かされている気がする。昔から。
私が一人隠れて泣いていても、迷子になっても、いつもいつも気付いて一番に見つけてくれるのは、降谷くんだった。
降谷くんが見つけてくれた後、いつも皆が来てくれて、何やってんだって怒られるの。
懐かしい風景。あの頃は怖いものなんて、何も無かったな。
ラックの上に飾ってある写真には、まだ若さが残る6人がいる。
『撮るぞー。そこもうちょい寄らねぇと見切れてんぞ。』
『ほら、じんぺーもうちょっとこっち寄らないと』
『あ?なんだよ名前、俺にくっつきてぇのか?』
『へ?いや、そういう意味じゃな…』
『おい名前、髪になんか付いてるぞ?』
『え、どこ?って、わっちょ、やめてよ研ちゃん、ぎゃぁ!ボサボサになるから…!』
『おーおー、可愛い可愛い。』
『おい、やめろよお前ら』
『お、ゼロが彼女取られて怒ってんぞ。』
『な、お前なぁ…!』
『何やってんだ?お前ら。もうタイマー押すぞ。』
『伊達くん!はやくはやく!』
『おう!いくぞー』
私の誕生日にワガママを言って皆で撮った写真。全員揃ってる写真は数少ない。
皆それぞれ夢を思い描いて走ってた、楽しかったあの頃。
大切な、親友達。大切な人。
「…おはよ、皆。」
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「あ」
「あ?名前じゃねぇか。」
「伊達くん…こんなところで何してるの?」
仕事帰りに偶然前を通りがかったジュエリーショップから出てきたのは、ジュエリーとは全く縁のなそうな友人。
私の問いに少し照れたような顔をして頭をかく彼のこんな姿を見たのも初めてかもしれない。
「け、結婚!?伊達くんが!?」
「んだよ、そんなに驚くか?」
「お、驚くよそりゃ…」
場所を近くの喫茶店へと移した私達は適当に注文をすませ、先程の会話の続きを始めたのだが、彼の口から出た"結婚"という言葉に開いた口が塞がらない。しかもお相手がハーフだなんて。更に驚いた。
確かに私達の年齢ならばおかしくもないのだが、伊達くんが、というのが一番驚きだ。とは言っても、後はもう私と降谷くんしかいないのだけれど。
「それよりお前らはいつ結婚すんだ?もういい歳だぜ。」
「伊達くんにそんなこと言われるとは…でも相手もいないしね。」
「なんだよ、お前らまだより戻してなかったのか?」
「え」
お前ら、というのは恐らく私と降谷くんのことで。別れてから暫く経つが、まさか伊達くんにもこんなことを言われるとは。
「うーん、戻らないと思うよ。多分。」
「なんでだ?理由は聞いたが、お前ら仲良かったのによ。」
「仲は良いし、不満はなかったよ。でも、やっぱりね。」
「またそんな顔してると、松田達に怒られるぞ?」
「…ほんとだ、また怒られる。」
そう言って、二人で顔を見合わせて笑った。
私達の旧友。彼らがいなくなってしまってから暫く経つ。
彼らがいない事実は辛いけれど、こうして大切な友人の話を笑って出来る相手がいるのはとてもありがたくて幸せなことだ。
「それにしても、あいつ生きてんのか?」
「あいつって…降谷くん?」
「おう。ちっとも連絡寄越さねぇしよ。どこで何してんだか…」
「そうねぇ…日本の為に頑張ってるんじゃないかな?」
「お国の為にってか?ちっとは自分のことも考えてほしいぜ。」
「うん…そうだね。」
「お前はどうなんだよ。」
「私?」
「おう、ちゃんと元気にしてんのか?」
「見ての通り。」
ふふ、と笑えば、なら良かったと伊達くんもにかっと笑った。
「お、そうだ。あいつにメール送ろうぜ。」
「降谷くんに?」
「おう。お前は送らねーのか?」
「私は……いいや。」
「たく、仕方ねーなぁ。じゃあ名前の分も俺が送っといてやるよ。」
「ふふ、ありがとう。」
携帯を取り出しメールを打ち出した彼をぼんやりと眺める。
本当に、彼は何をしているんだか。警視庁にいた頃でさえ公安の状況など殆どわかることもなく、ましてや警察庁の、となると、未知だ。彼自身、自分の体をあまり大切にしない節があるから皆でよく心配していた。
本当に、貴方は今どうしているんだろうか。
「―――え…?」
かつての後輩であり友人である佐藤美和子から久しぶりの電話に明るく出た私は、彼女から重々しく告げられた言葉で頭が真っ白になった。
「伊達くんが…亡くなった、って…うそ、でしょ…?」
「…本当よ。」
「だっ、ついこの前、元気そうで…!」
交通事故だった―――美和子の言葉が何度も何度も頭の中でぐるぐると巡る。言葉を飲み込むことが出来ない。
私を気遣う彼女の言葉もあまり頭に入って来ず、彼女自身の辛そうな声に、あぁ現実なのかと思い知らされる。
電話を切った途端、力が抜けたようにぺたりとしゃがみこみ、堰を切ったように涙が溢れ出す。
震える指で携帯を操作し、電話帳を開く。
この番号にかけるのは、いつぶりだろうか。
耳にそっと当てれば無機質なコール音が響く。
『おかけになった電話番号は、現在―――』
『おかけになった電話番号は―――』
『おかけになった―――』
止むことのないコール音、繋がらない電話。
「…、出てよ、れい…っ…!」
いつまでも、彼の声を聞くことは出来なかった。
溢れ落ちた涙は絨毯へと落ち、滲み、染みを残す。
しんと静まり返ったこの部屋で、私の情けない泣き声だけがやけに響いていた。
ねぇ零…もう、貴方と私しか、いないのよ。
だから、貴方は―――
ぼんやりと瞼が開き、薄暗い部屋が滲んで映る。つ、と涙が顔を伝い溢れた。
あぁ、夢か。あの時の夢を見るなんて。
忘れていたわけではないが、改めて思い知らされる。
あれからもう一年が経つんだということを。
のそりと重たい体を起こせば、やっぱりいつも通りの朝だ。予定よりも早い時間ではあるが。
涙で濡れた顔を洗いに洗面所へと行けば、まぁ酷い顔。思わず笑ってしまった。
あの時、私はもう降谷くんの彼女でもなんでもないと思い知った。
友達に戻るのだから、ほんのたまにの連絡くらい、なんてどこかで思っていたのだ。
学校時代の仲間が亡くなっていく事実は辛く重すぎる。やり場のない悔しさやら寂しさやらで、泣き喚くことしか出来ない弱い自分。縋るように掛けてしまう降谷くんへの電話も、次第に繋がらなくなった。
だから、彼とはもう会うことはないんだと、声を聞くことすらも出来ないんだと、そんな風に思っていた。ついこの前までは。
思いもよらない場所で再会し、そこで違う名前を名乗られ、繋がらなかった電話で話し、事件で助けてもらうことにもなるなんて、予想外にも程があるだろう。
この短期間で詰め込みすぎではないだろうか。
事件と言えば、今日はこの前のことでもう一度話が聞きたいと警察に呼び出されている。今日は特に仕事もないし、家のことをぼちぼちしたら行かなければ。
ミニテーブルに置いてある、洗って綺麗に袋へと入れたハンカチが視界に入った。返しに行かなければと思いここに置いているのだが、返しに行くタイミングに困っていた。
…警視庁の帰りにポアロへ寄ってみようかしら。
『いえ、泣いているのかなと思いまして』
彼には何もかも見透かされている気がする。昔から。
私が一人隠れて泣いていても、迷子になっても、いつもいつも気付いて一番に見つけてくれるのは、降谷くんだった。
降谷くんが見つけてくれた後、いつも皆が来てくれて、何やってんだって怒られるの。
懐かしい風景。あの頃は怖いものなんて、何も無かったな。
ラックの上に飾ってある写真には、まだ若さが残る6人がいる。
『撮るぞー。そこもうちょい寄らねぇと見切れてんぞ。』
『ほら、じんぺーもうちょっとこっち寄らないと』
『あ?なんだよ名前、俺にくっつきてぇのか?』
『へ?いや、そういう意味じゃな…』
『おい名前、髪になんか付いてるぞ?』
『え、どこ?って、わっちょ、やめてよ研ちゃん、ぎゃぁ!ボサボサになるから…!』
『おーおー、可愛い可愛い。』
『おい、やめろよお前ら』
『お、ゼロが彼女取られて怒ってんぞ。』
『な、お前なぁ…!』
『何やってんだ?お前ら。もうタイマー押すぞ。』
『伊達くん!はやくはやく!』
『おう!いくぞー』
私の誕生日にワガママを言って皆で撮った写真。全員揃ってる写真は数少ない。
皆それぞれ夢を思い描いて走ってた、楽しかったあの頃。
大切な、親友達。大切な人。
「…おはよ、皆。」
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