「うっし!後はーっと、」


自宅―――隠し部屋。
そこで、今度やる盗みの軽い下準備をしている。
派手なマジックとは違って地味な作業だが、なかなかこういう仕込みも楽しい。

この前のデートついでに行った下見で、ルートはバッチリ。
名前ちゃんとデートするってのがメインだったけど、せっかくのデートだったのにちょっとだけ下見で抜けちまったの、バレたら怒られるかな。むしろ、なんで言ってくれなかったの?とか言われんのかな。

それにしても。この前の名前ちゃんの破壊力ときたら。反則だろう、あれは。目に焼きついて離れないあの姿を思い出して、ついにやけてしまう頬を抑える。悪い癖だ。今は作業に集中しねぇと。

あの日―――オレの秘密を打ち明けた日、感情が止まらなくて、抱き締めてキスまでしてしまったが、肝心なその感情の意味を伝えるのを忘れていたオレは、いまだに言うタイミングが掴めずにいる。
しっかりしているがどこか鈍いところがあるあいつのことだから、きっと気付いていないだろう。


つい名前ちゃんのことを考えて集中力が切れてしまった。
作業を一旦止めて一息ついたその時、穏やかなノックの音が響く。


「快斗ぼっちゃま」
「ん?ジイちゃん、どうかしたか?」
「いえ…なんだかとても嬉しそうなお顔をされていますね。」
「そうか?」
「ええ。ぼっちゃまの嬉しそうなお顔を拝見できて、寺井は嬉しゅうございます。」
「はは、そりゃよかった。」
「やはり、先日お話なさっていた、お嬢さんのお陰でしょうかね。」
「…そうだな。」

ジイちゃんは、オヤジの付き人をやってた人で、今でもキッドのサポートをしてくれている。
この前ジイちゃんには、名前ちゃんにオレの秘密を打ち明けたことを話した。心配してくれたが、オレが信頼している相手ならば、と嬉しそうに頷いてくれた。
ジイちゃんも名前ちゃんに会いたがっていたし、いつかちゃんと紹介したいなんて思ってる。


「お茶をお入れしましょうか。
少し休憩なさってはいかがですか?」
「おー。サンキュージイちゃん。」



今度の獲物は漆黒の星―――ブラックスター。

鈴木財閥が所有している、世界一の黒真珠。
もしかしたら、探し求めているビッグジュエルかもしれない。

まだ名前ちゃんには、ビッグジュエルの話はしていない。
危険な目に合わせるわけにはいかないからだ。
もしビッグジュエルのことを知って、奴らに―――そんなことがあってはならない。

オレが、オレが名前ちゃんを守らねぇと。


だから今回のことも、いや、今回だけじゃない。
ビッグジュエルに関わることは、話さない方がいいのかもしれない。
そう思って、盗みの日のことをあまり話さずにいる。

でも、あいつのことだから。
最初の頃のことを考えれば、オレを―――キッドを、見つけにくるかもしれない。

誰よりも、オレを見つけるのが上手いと思う。本当に。



「ぼっちゃま。」
「ん?ああ、サンキュー。」
「今度は難しいお顔をされていますね。」
「ん?そうか?」
「ええ、考え事でございますか?」
「いや…」
「…盗一様も、昔はそのように考え事をされておりました。」
「オヤジが?」
「ええ。ほとんどが、千影様のことでしたが。」
「はぁ?母さん?」
「ええ。今のぼっちゃまと同じようなお顔で。」

そう言って嬉しそうに笑うジイちゃん。
お見通しってわけね。


「うっし、仕上げするか!ジイちゃん、お茶ごちそうさま!」
「お粗末様でございました。寺井もお手伝いいたします。」
「おう!サンキューな!」



考え込んでいても仕方ない。
オレがあいつを守ればいい。ただそれだけのこと。
名前ちゃんがキッドを―――オレを探しにくるのは、嫌いじゃない。


きっとあいつはまた、キッドを探しにくる。
そんな予感だけが脳裏によぎっていた。






next.

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