『―――彼が最初に出没したのは18年前のパリだ。
その10年後忽然と姿を消し、死亡説も流れたが、さらに8年後の今、再び復活し、現在は主に日本で活動してるそうだ…』
「18年前って事はかなりおっさんになってるってわけか…」
『彼を称する形容詞は数多い。
「平成のルパン」「月下の奇術師」…
じゃが一つだけ最も人々に親しまれている通り名がある。』
「通り名?」
『各国の警察を子供のように手玉にとる怪盗1412号に興味をもったある若手小説家が、1412の番号を洒落てこう読んだのじゃ…K・I・Dと…』
「K・I・D?」
『そうじゃ…怪盗1412号 …人呼んで―――』








―――杯戸シティホテル。

ここにキッドが来るかもしれない。
ただそれだけの予感を頼りにここまでやってきた。
そびえ立つこのホテルを見上げ、よし、と意気込んで入口の方へ向かうと、1人の少年の姿が目に入る。

「あれは…コナンくん…?」

コナンくんはそのまま走ってホテル内へと入っていく。
なんであの子が、ここに?

「あ、ちょっと、コナンく…!」
「おーい、名前ちゃん!」
「え…?あ、中森警部!」

ホテル前の車から覗いていたのは、青子のお父さん、中森警部。
警部がここにいるということは、やっぱりここにキッドが現れるのかもしれない。

「なにやってるんだこんなところで」
「えっと…さっきホテルに入っていった男の子…」
「彼を知ってるのか?」
「あの子がいなくなったって、友人に聞いて探してたらここに来てしまって、」
「そうなのか、でもここは危険だ。早く帰りなさい。」
「でも、あの子連れ戻さないと…」
「しかしなぁ…」

キッドかもしれないと疑っているのか、警部は少し困ったような表情をする。でも、ここまで来て、じゃあ帰りますというわけにはいかない。
嘘をついてしまったけど、本当に蘭ちゃんがコナンくんを探しているかもしれないのだし。

「あ、あの、もしキッドかもって疑ってらっしゃるなら…」

私は思いっきり自分の頬を引っ張った。
涙目になるくらい引っ張れば、ぎょっとした顔で警部が私を見る。

「ね…?きっどじゃないれふよ?」
「わかった、わかったから、もうよしなさい。」
「はい…」

突然頬を引っ張りながら喋り出した私を見て、慌てたように警部が止めた。
ジンジンと痛む頬を擦り、すみません、急ぎますので。と警部に告げて、ホテルへと急いだ。
無茶するなよ!という警部の声を聞きながら。


勢いでホテルへ来たものの、キッドがどこに現れるかはわからない。
でも彼と会うのは屋上が多い、そんな当てずっぽうでただ屋上を目指す。
向かっている途中、何度も何度も、本当によかったのか、と頭を過ぎる。
邪魔になってしまうんじゃないか、嫌がられてしまうんじゃないか、って。けど。
私がここに来たのは、ただ彼に――キッドに会いたかっただけではない。
彼がまた危険に晒されるのは、嫌だ。少しでも、彼の力になりたい。
盗みの手助けとか、そういうのは出来ないかもしれないけれど。
彼が無事でいてくれるための、力になりたいのだ。
彼の秘密を知り、彼への想いに気付いたとき、心に決めたことだ。
そのために―――

それに今は、あの不思議な少年を無事家に帰さなくては、という使命感もある。



辿り着いた屋上―――

そっと扉を開くと、コナンくんの姿が目に入る。
しゃがみ込んで携帯で誰かと話している彼に声をかけようと、そっと扉を閉めて彼の方へ一歩踏み出す。

「コナンく…」

彼が振り返ると同時に、風の吹く音が耳を掠めた。
コナンくんの目線が私の方へ向いたかと思うと、その目線はそのまま私の頭上へと向いた。
バサバサという微かな音が頭上から聞こえ、驚いたような表情をしたコナンくんの目線の方へと振り返った。

目に飛び込んできたのは―――白。





『―――怪盗キッド』






扉の上から、私の目の前へと静かに降り立った彼の姿に、息を飲む。
ドクン、ドクンと鳴る鼓動を抑えようと、胸に手を当て、そっと息を吐く。

「名前ねーちゃん、」
「ん…?」

コナンくんの呼ぶ声が聞こえ、少し冷静さを取り戻した私は、私を手招きで呼ぶ少年の方へと向かった。

コナンくんは私がこちらへ来たのを確認すると、さっきまでのようにまたしゃがみ込み、手元を動かしていた。

「なにしてるの?」
「お楽しみ、だよ。」
「お楽しみ…?」

そう言って何かを企んでいるような表情をしたこの少年は、やはり、私の知ってる名探偵によく似ていた。一体何者なの、この子は。

後ろから、私の肩へと触れた手に驚き振り返ると、彼は人差し指を口元へと当てた。
驚きで出そうになった声を飲み込むと、彼は口元だけふっと笑い、コナンくんの方へ向いた。


「よぉ、ボウズ。なにやってんだ?こんなところで。」


コナンくんの手元からヒュー、と音を立てて上がったそれは、火花を散らし小さく花を咲かせて消えた。


「花火だよ。」


私の隣へ立ち、ぎゅっと手を握ってきたコナンくんは、遠くからこちらに近付いて来るヘリコプターを嬉しそうに指さした。


「あ!ほら、ヘリコプター!こっちに気付いたみたいだよ!」

この子、もしかして…近くにいる警察に気付かせるためにわざとこんなところで花火を…?
どうするんだろうとキッドを見れば、彼はフッと笑った。




「ボウズ…ただのガキじゃねーな…」

「江戸川コナン、探偵さ。」








next.

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