『―――工藤新一、探偵だ!』


幼馴染みの彼と初めて出逢ったあの頃と、重なった。






「それよりいいの?怪盗キッドさん?
早く逃げないとヘリコプター来ちゃうよ…」

目の前の白へ煽るようにそう告げたのは、自らを探偵と名乗った少年。
彼が何をしようとしているかわからないが、キッドを捕まえるつもりなんだろう。
キッドが捕まると困ってしまうのだがこの小さな探偵の手前下手に動くことが出来ない。知り合いだと思われたらキッドが不利になってしまう。
キッドは、少し考えるような素振りをした後、どこから取り出したのか、無線機を片手に口元へ寄せ言葉を発した。彼の声とは思えない声で。

「あーこちら茶木だが!杯戸シティホテル屋上に怪盗キッド発見!!米花、杯戸町近辺をパトロール中の全車両および!米花町上空を飛行中の全ヘリ部隊に告ぐ…速やかに現場に直行し、怪盗キッドを拘束せよ!!」

それはつい数時間前に、博物館内で聞いた警察の人の声だった。

『ええい、これは奴のワナだ!!早く全機、全車両を連れ戻さんか!!』

無線機の向こう側からは、全く同じ声で静止を呼びかける声が聞こえる。すると今度はまた違う声色で言葉を発し出したのだ。とても聞き慣れた声で。

「えーワシだ!中森だ!杯戸シティホテル内を警戒中の各員に告ぐ!キッドは屋上だ!!総員ただちに突入!奴を取り押さえろ!!繰り返す…」

似すぎている。実際にこうして声色を変えているのは初めて見た。
しかし、目の前でこんな技を披露されては。
彼の無線によって続々とヘリコプターやパトカーがこのビルへと集まってくる。あっという間に取り囲まれてしまった。
キッドは一体、何をしようとしているの…!?
彼を煽った張本人のコナンくんも、戸惑いを隠せない表情をしている。
そんなコナンくんを見て、キッドはポーカーフェイスのまま口を開いた。

「これで満足か?探偵君?」

バンッと扉が開かれる。現れたのは先程ビルの前で会った中森警部だ。

「動くな、キッド!!」
「これはこれは中森警部…お早いお着きで…」
「フン!何を言う…ワシがきさまの予告状を解いて、ここで張っていたのを知ってたクセに…
ハンググライダーでここから飛び立つと踏んで、ホテル内の人間を全て調べ、玄関口を固めていたが…まさか、東都タワーから迂回して、ここに降り立つとは思ってもみなかったよ…。だがあの真珠はあきらめろ…きさまにはもう逃げ場はない…」

中森警部の後ろから続々とくる刑事さんたちに囲まれ、確かに逃げ場がない。
どうするのかとキッドの様子を窺うと、不敵な笑みを浮かべて笑っていた。

「今夜は、あなた方の出方を伺うただの下見…盗るつもりはありませんよ…」
「なに!?」
「おや?ちゃんと予告状の冒頭に記したはずですよ…」

キッドが手元のスイッチを押し、真っ白な羽が開かれた。

「April fool(ウソ)ってね…」
「や、奴を飛ばすな!かかれぇ!!」

キッドの袖口から何かが落ちたのが少し見えた。
その瞬間、キッドは私を見てほんの一瞬、微笑んだ。

「閃光弾!?」

辺りが光に包まれる。目が開けられない。傍にいたコナンくんが私を咄嗟に庇うように目の前に立っていたはずだが...
真っ白な光のどこかから、キッドの声が聞こえた。

「よぉ、ボウズ…知ってるか?」
「!?」
「怪盗はあざやかに獲物を盗み出す創造的な芸術家だが…
探偵はその跡を見てなんくせをつける……ただの批評家に過ぎねーんだぜ?」
「なに!?」

そんな煽るようなセリフを語った彼は、光が消える瞬間、私の耳元へそっと囁いた。
またお会いしましょう、名前嬢。
彼は確かに、そう言った。
ポンッと音を立て、辺りはさっきまでの夜の暗さを取り戻した。
しかし、消えたのは光だけじゃなかった。

「きっ、消えた!?」

白が、消えた。
辺りを見渡しても、警察のヘリのレーダーで上空を探しても姿を発見することができず、キッドは私達の前から完全に姿を消した。
騒然とする中、空からひらりと落ちてきた1枚のカード。

「こ、これは!!」

『4月19日
横浜港から出航する
Q・セリザベス号船上にて
本物の漆黒の星を
いただきに参上する

怪盗キッド』

紛れもなく、キッドからの予告状。
そう記されたカードに添えられているピンクのバラは、この前快斗くんにもらったのと同じバラだった。








私は、中森警部の意向で、コナンくんと一緒に刑事さんの車で送ってもらっていた。

「ねぇコナンくん、なんであそこにいたの?」
「いや、その…」
「もしかして、キッドの謎解いちゃった!とか?」
「こ、小五郎のおじさんが解いてるのを聞いて、キッド見てみたい!って思って、そ、それで…!」
「そっかぁ…でも、皆が心配するから、夜中に勝手に出てきちゃダメよ?」
「は、はーい」

コナンくんが謎を解いてここまで来てしまったのか、だとしたらあのそっくりな彼と何か関係があるのか、なんて思ったけれど、そんなことないか。子供のような理由でここへ来た彼を疑ってしまうなんて、と思うとおかしくてちょっと笑っていると、今度はコナンくんが尋ねてきた。

「名前ねーちゃんは、なんであそこに来たの?」
「私?」
「なんか、キッドと知り合いみたいだったし…」

この子はなんでそんなことがわかったんだろう。
そんな素振りを見せていただろうか?

「キッドに会うのは初めてじゃないんだ。何回か会ったことあってね。
私、キッドのことを前から探してたから。」
「どうして…?」
「うーん。捕まえようとか、どうしようとかそういうのじゃないんだけど…気になるから、かな?」
「き、気になる…?」
「そう。私ね、小さい頃にも、そう、コナンくんと同じくらいの頃にキッドに会ったことがあるの。まぁ、それが、実は初恋なんだけどね。」
「は、初恋…!?」
「そう。だからついつい探しちゃうのかな?なーんて。」

私の話を聞いていたコナンくんは少し難しい顔をして考え込み出した。
なにをそんな考え込んでいるんだろうと思っていると、運転してくれていた刑事さんが、着きましたよ、と声をかけてくれた。
外を見たら、ポアロと書かれたお店の前で、その上には毛利探偵事務所と書かれていた。

「ありがとうおじさん!」
「どういたしまして。」

お礼を言って車を降りたコナンくん。家に入るまで見送ろうと私も車を降りた。

「あ、名前ねーちゃん、」
「ん?」
「危ないから、あんまりキッド探さない方がいいよ!」
「…え?」
「じゃあね!おやすみなさい!」
「お、おやすみ…」

そう言ってコナンくんは階段を上がって行った。
危ないって、なんだ。どういうことなんだろう?
そりゃ、一応犯罪者?なわけだから危ないって、そういうことなのかしら。
今度は私が考え込む番だった。
行きましょうか、とまた声をかけてくれた刑事さんに返事をして、私は車へと乗り込んだ。







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