よく話しかけてくる人だな、とは思ったけど…
「こんばんは、名前嬢?」
まさか目の前で車を運転しているのが彼だなんて、
誰が思うというのだ。
「な、なにやってるの?黒羽くん…」
私は目の前で車を運転している彼の背に向かって問いかける。
私とコナンくんを送ってくれていた刑事さん。なんとなく見たことある人だとは思っていたけれど、まさかキッドがその人に変装して、しかも車を運転して送ってくれているなんて思いもしないじゃない。
コナンくんが降りてからよく話しかけて来るなとは思った。不快とかではなく、なんとなくそう思っていたが、ほんの少しの違和感を感じてきたところ、彼がネタばらしをしたのだ。
「今は怪盗キッドとお呼びいただけると。それに、呼び方が戻っておられますが?」
「あ、ごめ…いや、そうじゃなくて。え、なんで運転してるの?」
「あぁ、免許はあるから安心してください。」
「いや、あの…え?」
全然頭が追いつかない…あれか、海外で免許取ったとかそういうやつ?てかなんで変装して運転してるの?動揺しまくりの私の頭には今の状況が全く理解が出来なかった。
「それより、なんではこちらの台詞です。
こんな夜中に女性一人で外を出歩くとは、感心しませんね?」
「ご、ごめんなさい…」
「そんなに、」
車がゆっくりと止まる。いつの間にか、私の家の目の前だった。
運転席からゆっくりと振り向いたキッドは、変装したままの姿だけれど、彼本来の声で言った。
「オレに会いたかった?」
ドキリとした。
彼にはなんでも見透かされているような気がした。
私の考えていることは、すべて分かっているとでもいうような。
私は、彼に会いたかった。
"本当の彼"じゃない、白を纏った"彼"に。
「ごめん、なさい…」
迷惑をかけてしまったかもしれない。
来ない方がよかったかもしれない、そう思って俯くと、彼の手がそっと、私の頭に触れた。
「謝ることねーよ。」
「え…?」
「心配はするけど、オレに会いたいと思って来てくれたことは、嬉しかったんだからさ。」
そう言ってにっと笑った彼は、いつもの快斗くんだった。
それが嬉しくて、笑みが零れた。
「…さすがにQ.セリザベス号には来ねぇよな…?」
「ううん、ちゃんと招待されてるから行くつもりだけど…ダメかな?」
「そっか…じゃあ、いいとこ見せねーとな!」
ダメだと言われるかと思ったのに、快斗くんが何故かやる気を出すから、驚いた私は思わず笑ってしまった。
彼が、彼でよかったと思った。
車のドアを開けてくれ、キッドのエスコートで車を降りた。
「それでは、よい夢を。」
キザな台詞を言って私の手の甲に口付けるから、顔に熱が集まる。
頭を撫でて、おやすみ、という彼に見送られ、私は自宅へと入った。
私が入るのを見届けてくれてから、キッドは再び車に乗って行ってしまった。
彼には本当に、驚かされてばかりだ。
寝る支度を済ませ、ベッドへと入る。
いつまでも覚めない熱を感じながら、私は眠りについた。
―――4月19日 横浜港 Q.セリザベス号
パーティーに参加すること自体が久しぶりだが、お気に入りの、母親がデザインしてくれたスカイブルーのドレスを身に纏い、私はQ.セリザベス号に乗船した。
「名前ー!こっちこっち!」
「園子!」
「わぁ、名前ちゃんのドレス綺麗!ね、コナンくん!」
「う、うん、ほんと…綺麗だね。」
「ありがとう蘭ちゃん、コナンくん。これね、母がデザインしてくれた物なの。」
「おば様さっすがねー。アンタによく似合ってるわ。」
「ふふ、ありがとう。」
そういう蘭ちゃんも園子も、ドレスがよく似合っている。やっぱりかわいいなぁなんて思っていると、史郎おじ様が壇上のマイクの前へ立ち、開会の挨拶が始まった。
「―――我が鈴木財閥も今年で60周年…これもひとえに、皆様のお力添えの賜物でございます。
今夜はコソドロの事など忘れて、500余名が集まった優雅かつ盛大な船上パーティーを、ごゆるりとお楽しみください…」
「その前に…」
「え?」
史郎おじ様の挨拶に続き壇上へと登場した、朋子おば様。相変わらず美人だ。
「今夜は特別な趣向がこらしてあります。
乗船する際に皆様にお渡ししたこの小さな箱…さぁお開けください。」
箱…そう言えば何か渡されたんだったわ。記念品か何かかと思っていたけれど...
「それは愚かな盗賊へ向けた私からの挑戦状…」
「えっ」
こ、これは!?と驚きの声が辺りから聞こえる中、私自身も驚きを隠せずにいた。だって、これは。
「そう…我が家の象徴であり、怪盗キッドの今夜の獲物でもある…『漆黒の星』ですわ!!
もちろん本物は一つ…それを誰に渡したかを知っているのも私一人…後はすべて、精巧に造られた模造真珠というわけです。
さぁ皆さん、それを胸にお着けください!
そしてキッドに見せつけてやるのです!!
盗れるものなら盗ってみなさいとね!!」
どれが本物か彼に判別できたらの話ですが…と言う朋子おば様に、笑いが起こる。
「う、うそぉ…」
「やるじゃない園子のお母さん!」
なんてすごいことをする一家なんだほんとに、と改めて思った。さすが大財閥。考えることが違う。
蘭ちゃんの言う通り、確かにやるじゃない!という感じなのだが、多少複雑な気持ちはある。彼はどうするんだろうと。
でも彼のことだから、きっと何か考えがあって、いつものようにキザに現れ、すごいショーを見せてくれるんだろうと。
そう、どこか確信していた。
next.
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