「…園子?」
「ん?園子、どうしたの?」
「見当たらないのよ、姉キの姿が…まさかまだ家に…」
「そんな、まっさかーいくら綾子さんでも…」
そう言って園子が携帯で家にかけると、どうやら綾子さんが電話に出たらしい。もう出ちゃったの?と言っている声が携帯から微かに聞こえるが、出航時間はもちろんとうに過ぎているし…確かに綾子さんは園子と違っておっとりしているけれど、まさかまだ来ていなかったとは。
「え?そこにパパいるの?」
「!?」
「え、史郎おじ様もいるの?」
「そ、そうみたい…どゆこと!?」
コナンくんが近くにいた人に声をかけて、走って会場を出て行ってしまう。まさか、キッドが変装して…?
きっとコナンくんは、キッドを捜しに行ったんだろうけれど…大丈夫かしら。
コナンくんは少し経っても戻ってこなかった。
私の横では、蘭ちゃんがそわそわと心配そうにしている。
「コナン君どこ行ったんだろう…」
「確かに遅いわね…」
「…もしかしたら、怪盗1412号に捕まってるのかも…ちょっと私、コナン君捜してくる!」
「お、おい蘭!」
「すぐ戻るから!」
「ちょっと、蘭!?」
「蘭ちゃん!…行っちゃったわね…。」
「ったく、これだからガキンチョはー!」
キッドが何か危害を加えることはないと思うから、そんな心配はしていないけれど…迷子になったら大変だもんね。
なんて思っていたが、どうやら迷子になったのは蘭ちゃんの方かもしれない。
しばらくして、コナンくんが1人で会場へと戻ってきたのだ。
「ええっ怪盗1412号がもうこの船に乗り込んでる!?
パパに変装して!?」
「まあ…」
「さっきトイレで見つけたんだ!園子ねーちゃんのお父さんの服と、変装に使った道具をね!今、刑事さん達が調べてるよ!」
やっぱり…きっと、出航の時間を遅らせる、とか言って鈴木邸に電話を掛けたんだろうけど…よく考えるわね。さすがというか何というか。
「それより蘭ねーちゃん、どこ行ったの?」
「ああ…蘭ならお前がなかなか戻って来ねーから、捜しに行ったぞ…もしかしたら怪盗1412号に捕まってるかもしれねーって…」
「1412号じゃない…奴の名前は怪盗キッドだ!!ややこしいからまちがえんでください!!」
突然現れ、キッドの呼び名を大声で注意してきた中森警部に、小五郎おじ様がたじろいだ。
「な、中森警部…」
「ん?誰かと思ったら名前ちゃんじゃないか!君はほんとに、キッドが現れるところによく来るんだな…」
「はは…たまたまですよ。」
捜しに来てるなんて言ったら絶対に怒られる…もちろん、今日は招待されていたから本当にたまたまだが。
「…名前ちゃん、知り合いか?誰なんだあの人…」
「えっと、私の友人のお父さんで…」
「彼は警視庁の中森警部…怪盗キッド専任の刑事さんですわ…」
「あ、朋子おば様。」
「彼もあなた同様、我が家の秘宝『漆黒の星』を守ってくださる頼もしいナイトの一人…」
「しかしですなー奥さん…今夜集まったこの500人を超える客は全員、問題の黒真珠を胸に着けているんですよ!
しかもたった一つの本物以外はすべて精巧に造られたニセモノ…どれが本物か教えていただかないと守りようが…」
「精巧に出来ているといっても所詮、模造品…よーく見定めれば多少数は絞れますわ…中には私が着けている様な光沢が鈍くて冴えない物や…あなたが着けているような、輝き過ぎて安っぽい失敗作も混ざってますので…」
「はぁ…」
確かに、私が着けている黒真珠も、2人や他の人達が着けているのとは、少し違う気がする。
それにしたってすごい数だ…見極める方も大変だろう。
どれが本物か、キッドはもうわかっているんだろうか…?
「しかしこの群衆を一人一人チェックするってーのは…」
「では一つとっておきのヒントを…
60年前、祖父を魅了した、あのピーコックグリーンの光沢を持つ黒真珠に、最も相応しい方にお預けしてあります…偶然にもそれに値する人物は、500人中たった一人だけ…」
相応しいって、どういうことなんだろう...?
小五郎おじ様が言うように、女性っていうのもわかる気がするけれど、朋子おば様が言うように男性でも似合う人は確かにいる気がするから、性別は関係ないんだろうか…?
「おお!やっぱり毛利さんだ!!」
そんな小五郎おじ様を呼ぶ声に振り向くと、そこにいたのは旗本グループの次男、シェフの旗本祥二さん。
そして三船電子工業の若き社長、三船拓也さんまで現れた。
何度かパーティーで見かけたことのある面々だ。
黒真珠を付けていなかった拓也さんは小五郎おじ様に言われて、ハンカチで真珠を胸元へと付けた。
綾子さんの婚約者である雄三さんは、綾子さんが来ていないことを残念そうにしている。
「よぉ、えらく久しぶりじゃねぇか。」
「あ…ご無沙汰してます、拓也さん。」
後で挨拶に行こうかなと皆の様子を眺めていると、こちらに気付いた拓也さんが声をかけてくれた。
彼に最後に会ったのはいつのパーティーだっただろうか。
「今日、夕花さんは来てねーのか?」
「はい、今日は。多分今はパリ辺りにいるかと…」
「相変わらず忙しそうな人だな。」
「ええ。ほんとに。」
「それより名前、ちょっと見ねー間に綺麗になったか?」
「えっ?」
そう言った拓也さんは私の頭に手を乗せて、目線を合わせるように屈む。大人の色気を感じるような笑みで見つめてくる彼の肩を、そっと押した。
「もう、からかわないでくださいよ。」
「別にからかってねーよ。」
「名前ちゃん、三船さんとも知り合いなの?」
「あ、蘭ちゃんおかえり。そう、何度かパーティーで会ったことがあって。」
いつの間にか帰ってきた蘭ちゃんに声をかけられ、近かった拓也さんとの距離が少し空いた。
蘭ちゃんは方向音痴らしく、やっぱり迷子だったようだ。
「まぁいい。今度飯でも行こうぜ。」
「はは、考えておきます。」
手を上げて離れていく拓也さんに手を振る。肩に手を置かれ、振り返ると蘭ちゃんがとても真剣な顔をしていた。
「ど、どうしたの?蘭ちゃん…」
「名前ちゃん…どういう関係なの?」
「え?だから…パーティーで何度か会ったことが…あって…」
「…それだけ…?」
「そ、それだけ…だけど…」
じっ…と私の目を見つめる蘭ちゃん。
蘭ちゃんって、こんな感じの子だっただろうか…?
いや、出会ったばかりだから、あまり知らないといえばそうなんだけれど。
謎の緊張感を感じていると、蘭ちゃんは突然、にこっと笑ったのだ。
「なーんだ、付き合ってるのかと思っちゃった!」
「…へっ?」
「え、なになに?どうしたの?」
「いやね、名前ちゃんと三船さんがなんだかいい感じだったから、どういう関係なのかなって、気になっちゃって。」
「え、うそ、マジ?どうなのよ名前!」
「ちょ、園子まで…!だからなんにもないって…!」
蘭ちゃんといい園子といい…どうしてそんな考えに至るんだろう…女子ってほんと、そういう話好きだな。と、他人事のように考えていると、マイク越しの大きな声が会場に響いた。
next.
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