「…って、2人ともどこ行ったのよ…!」
コナンくんと蘭ちゃんが会場から抜け出したのを追いかけるように私も会場から飛び出してきたのだが…2人の姿が見えず、勘だけを頼りに探している。
けれど今のところ見当たらない。ど、どうしよう。
適当に歩いていると、デッキに出てきてしまった…この辺にいたらいいんだが。
「…ん?」
デッキから見えた救命ボートに、誰かが乗ってる…?
見覚えのあるドレス。あの、赤いドレスは…
「ら、蘭ちゃん!?」
なんでこんなところに。すやすやと眠っているところを見ると、どこも怪我はなさそうだし、恐らくキッドに眠らされたのだろう。
…ということは、やっぱりあの蘭ちゃんはキッド…え、いつから?いつから入れ替わったの?
いやいやそんなことよりも、目の前の蘭ちゃんをなんとかしないと…
「蘭ちゃん、蘭ちゃん!」
「んー…」
少し反応はするものの、起きる気配はない…
早くボートから出してあげたいけど、私1人では蘭ちゃんを持ち上げることが出来ない。誰か呼んで来なくちゃ。
それにしても、2人は本当にどこに行ってしまったんだろう。
辺りをうろうろしている刑事さん達が見え、声を掛けようとしたが、喉まで出かけた言葉を飲み込んだ。
あの刑事さん達はこの近くでキッドを探してるんだから、このままいくと蘭ちゃんはすぐ発見されるだろう。
でも私が呼びに行ったとして、私がキッドと疑われる確率は高いだろうし、その当の本人であるキッドは、いついなくなるかわからない。目当ての物を手にしたんだから、あとは逃げるだけだろうし…
すやすやと気持ちよさそうに眠っている蘭ちゃんを見つめ、ごめん、と心の中で呟いて、私は再び2人の捜索に掛かった。
蘭ちゃんには今度お詫びしよう…と心に決めた。
極力刑事さんに見つからないように、と歩き回っていると、少し奥まで来てしまったようで、目の前の扉には、機関室と書かれていている。
「…いやいや、まさかこんなところにいるわけ…」
Uターンして別のところへ…と振り返った瞬間、船の動く音ではないドンッという大きな音が機関室内から聞こえた。
え、まさか、ほんとにここにいるとかじゃないよね…?
そうじゃなかったら、何か機関室であったってこと…?
ドアの前で少し立ち尽くし、そっとドアに耳を寄せれば、中から何か声が聞こえる。
ガコンガコンという音が大きくてあまり聞き取れないが、誰かがいることは確か。
私はそっと、扉を開いた。
「…パーティーを台無しにして悪かったって…」
「今更何を…」
「い、いた…!!」
対峙し合っている2人を発見して、思わず声を上げてしまった私に、視線が向けられる。
「え、名前、ねーちゃん…!?」
「おやおや、こんなところまで私めを捜しに来てしまったのですか?お嬢さん。」
「…やっぱり、キッド…」
コナンくんは驚いた顔をしていて、キッドはいつものポーカーフェイスで、不敵に笑った。
蘭ちゃんの姿からキッドの声がするのは、すごく違和感がある。
するとキッドは、何かを思い出したかのような素振りをして、コナンくんへと声を掛けた。
「あ、そうそう、この服を借りて救命ボートに眠らせてる女の子…早く行ってやらねーとカゼひいちまうぜ?
オレは完璧主義者なんでね」
「な!?」
「ちょ、キッド…!?」
ドレスの襟元からブラを見せてきたキッドに驚愕した。ちょっと、何を考えているの…!?
そう思ったのも束の間、突然カッと光を放つ閃光弾。
視界がひらけた頃にはキッドの姿が消え、開かれたドアから遠ざかる足音が聞こえる。
「くそっ!!逃がすか!!」
すぐに追いかけようとしたコナンくんの周りにひらひらと落ちてきた、蘭ちゃんと同じドレスと下着。
それを抱えてコナンくんはドアへ向かって走り出した。
「ちょ、コナンくん!?」
「あ、名前ねーちゃん、話は後で…!!」
「コナンくん、人の話を…っ!…あー」
階段を駆け上がっていき姿が見えなくなったコナンくんに言いそびれてしまった。
蘭ちゃん服着てたよって。
キッドには言いたいことが山ほどあるけど、どうせもう逃げてしまっただろうし、とりあえずドレスを抱えて行ってしまった少年を追いかけ、眠り姫の様子を見に行かないと。
私がデッキに上がった頃、蘭ちゃんが丁度救出されていて、コナンくんは救い出された蘭ちゃんと、抱えているドレス達を見比べていた。
うん…なんかごめんね、コナンくん。
ようやく目を覚ました蘭ちゃんは、どこも怪我はなく安心した。
蘭ちゃん自身は、いつの間にか眠らされてしまっていたようで何も覚えていなかったが。
そっと蘭ちゃんにごめんねと謝れば、ものすごくキョトンとされた。そりゃ何がごめんなのかわからないだろう。
その後、キッドが逃走用に用意したと思われるハンググライダーが発見されたが、彼本人は船内のどこにもいなかった。
ようやく東京港に到着した、Q.セリザベス号。
警察から事情を色々聞かれたが、夜遅くなったということで、早めに切り上げてもらえた。
『漆黒の星』をキッドから守ったお手柄な少年は、東京港に集まっていた記者陣に囲まれ写真を取られインタビューされていた。
蘭ちゃんはキッドに眠らされたということもあり、事情聴取をまだしていた。
ようやく記者陣から解放されたコナンくんに、そっと駆け寄った。
「コナンくん。」
「名前ねーちゃん…どうしたの?」
「話は後で、って言ったのはコナンくんでしょ?」
「あ…そうだったっけ…?」
「ねぇコナンくん、よくキッドが蘭ちゃんに変装してるって分かったね。」
「え…こ、小五郎のおじさんがこっそり教えてくれて…!」
「ふーん、そっかぁ。コナンくんお手柄だったねぇ。」
「そ、そんなことないよ…?
それより、名前ねーちゃんも、キッドが蘭ねーちゃんに変装してるって分かったんだよね?」
「ん?私のは勘っていうか、たまたまというか…。」
「それに、ボクたちがいた場所にも来ちゃったし…」
「うーん…たまたまというかなんとなくというか?」
「やっぱり名前ねーちゃんの勘って、すごいんだね…」
「そうかな?」
コナンくんの目の前にしゃがみ込み、目線を合わせて、じっと顔を見つめた。
「じゃあ、この勘も当たってるのかな?」
「へ…?」
そっとコナンくんのメガネを取れば、コナンくんはギョッとした顔をする。
うん、やっぱり似てる。私が知ってる探偵に。
「コナンくんが普通の小学生じゃないっていう勘…かな?」
「ぼ、ボク…普通の小学生だよ…?」
「ふーん?」
「め、メガネ返して、名前ねーちゃん…!」
「ごめんごめん。はい、メガネ。」
「あ、ありがとう…」
「ふふ、可愛いなぁコナンくん。」
頭をわしゃわしゃと撫でれば、やめてやめて!と抵抗するコナンくん。うん、可愛い。
「コナンくーん!帰るよー!」
「は、はーい!またね、名前ねーちゃん!」
「うん、またね。……探偵くん。」
走っていく小さな後ろ姿を眺めていると向こうから蘭ちゃんが手を振ってくれたから、手を振り返した。
私のこの勘は、果たして本当に当たっているのだろうか。
その答えが分かるのは、いつになるだろうか。
なんて、ね。
今回は、白を纏った彼にちゃんと会うことがあまり出来なかったけど、"本当の彼"に会いたくなった。
言いたことはあるけれど。
私も帰ろう。
白に想いを馳せながら、まだ少し騒がしい港を後にした。
next.
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