相変わらずの天気が続く。比較的過ごしやすい時期。
次の獲物の下見の為に、学校から帰ってすぐに外へと飛び出した。
この前からずっと頭を過るのは、彼女――苗字名前のこと。
最近までほとんど話したこともなかった、幼馴染みの友人。
前々から少し気になってはいたけど、ただそれだけだった。
数日前、幼馴染みの青子が怪盗キッド――気付かれてはいないが――俺のことを話していたから話に割り込み、いつもみたいに言い合いになりそうになったのを止めに入ったのは苗字さん。
止めに入ったのがちょっと意外で、彼女を見てると目があった。綺麗な顔立ち。でもそれだけじゃなくて。やっぱり可愛いなと思い、少しだけ笑みが溢れる。
気分がよくなったもんだから簡単な手品を披露すると、目をぱちぱちとして俺を見る苗字さん。
心の奥底がざわざわとしたのに気付かないふりをした。
「お近づきの印、っつーことで。」
そう言った自分の真意はわからないが、ただ、もっと知りたいと思った。
いつも通り。
予定通りに忍び込んで、予定通りに獲物を手に入れた。
警備の目を掻い潜りたどり着いたのはビルの屋上。手筈通り。上空には警察のヘリが飛んでいて、ライトが照らされる。
手に入れたばかりの獲物、『楊貴妃の髪飾り』を手に、中央で輝く宝石を見る。残念ながら、これもビッグジュエルではないようだ。やはりそう簡単には手に入らないのか。
予定通りにことを進め、さっさとここから脱出する―――はずだった。
「だ、だれ…?」
聞き覚えのある声。予想外だった。どうしてここに。
振り返るとそこには、思った通り。
俺の―――黒羽快斗のクラスメイトである苗字名前だった。
苗字さんは俺を、『いちよんいちに』と呼んだ。
それはいつだか聞いたことがあった。いつどこで聞いたのか覚えてはいないけど、言葉だけは記憶に残っている。
その時はなんのことだかわからなかったけど、1412号のことを知ってから気付いたのは記憶に新しい。
だが、何故彼女がそれを知っているのか。
考えを巡らせていると、苗字さんはそわそわと辺りを見渡した。ヘリがまた屋上を照らす。気にかけてくれているのか。少しの嬉しさが込み上げるも、ポーカーフェイスを崩さずに、彼女へと近づく。
目当てのビッグジュエルではなかった『楊貴妃の髪飾り』を、苗字さんの髪へそっとつける。彼女は気付いていないようだったが。美しく存在を主張しているそれは、とても似合っていた。
そんな彼女に相応しいと思った白いバラを渡した時、中森警部の叫び声と共にバタバタと屋上に現れる警察。時間切れの合図だ。
「では、また。」
柵の上からトランプ銃を発射させたと同時に飛び降りる。
そして難なく、確保していたルートから脱出したのだった。
何故だか、苗字さんの驚いたような顔が、目に焼き付いて離れなかった。
ずっと気になっていた。
『いちよんいちに』の言葉と、彼女のことを。
昔どこかで逢っていたのか?
その言葉――怪盗キッドと、彼女の関連はなんなのか。
俺の中では、色んな意味で、気になる存在となっていた。
白いバラのように、清純なやつ。
それからここ数日、見かける度にちょっかいを出すようになった。ガキくせーけど。
色んなことを知りたいと、思っちまったから。
楽しみが増えたといえばそうなるが。
だけど、それはそれ。
そればっか考えてっと、大きな失敗に繋がりかねない。
大事なとこはちゃんとしねーと。
準備は整った。
後は明晩に備えるだけだ。
俺はまた、この白を身に纏う。
やるべきことのために。
next.
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