あれから数日が経った。特に変わらない日常。と言っても、少しだけ変わったのは、私の日常に黒羽くんの存在が入り込んできたということ。
数日前までほとんど話すことのなかった黒羽くんと普通に喋るようになったし、彼の隙のないスカート捲りと奮闘したり、彼のマジックに翻弄されたり。
すんなりと私の日常に入り込んできた彼を特に嫌だとは思わなかったし、むしろそれが当たり前のように日々を送っている。

もう一つ、変わったことといえば、彼―――怪盗キッドのことをよく考えるようになったということ。
今まで無知すぎたので調べられる範囲で調べてみたが、本当に謎に包まれた存在のようで、あまり得られるものはなかった。
私が昔出逢った初恋の彼と、この前出逢った彼は別人なのか。同じ人物?だとしたらこの違和感は―――


「今日は水色か。」
「………っ……!!!!!」
「おっと」

また!またやられた…!!そんなに私に隙があるっていうの?そりゃ、窓際でぼーっとしてたら隙があるってことなのかもだけど…!!
反撃した私の攻撃をなんなくかわした彼は本当に憎たらしい。だが私も毎度やられっぱなしではない。反撃からの更に追撃で右手を振りかざした。驚いたのか黒羽くんは目を見開いて少し後ろにかわし、なんと私のその手を掴んだのだ。

「え…っ!?」
「あ…?」

しまった。
振りかざした勢いと突然止められたことによって行き場をなくした力の反動で足がよろめき、前のめりに体が傾く。
やばい。
そう思ってももう遅くて、目の前で私の手を掴んだままの黒羽くん諸共床に倒れ込んだ。

「…いっ…たたた…」

ちょっとだけ膝を打った…痛い。
上体を起こし顔を上げると目の前には黒羽くんがいて、顔が近い上に体が密着している。
固まった私を見た黒羽くんが意地悪く笑って、

「大胆だなー」

なんて言って私の腰を触ってくるもんだから顔面に一発お見舞いしてやった。
ほんのちょっとだけドキッとした私の気持ち返せ。

「ってー…何も殴ることねーだろ?」
「黒羽くんのせいでしょ」
「押し倒してきたのはそっちだぜ?」
「…っ、それは、悪いと思うけど、元はといえば黒羽くんが」
「いつまでやってるの、苗字さん、黒羽くん。」

私と黒羽くんの間に入り込んできたのは怖い顔をした担任。やばい。もう授業始まってる時間だった。
おかげでクラスの皆の視線を集めちゃってるし物凄く冷やかされている。なんだこの羞恥プレイは。
全部黒羽くんのせいなんだから。じとっと黒羽くんを睨むとにやにやと笑って私を見ている。面白がってるな…ほんと、憎たらしいんだから。



「名前!!!!!!」

放課後。青子がすごい勢いで私のところに来て、椅子から立とうとしていた私はその勢いに負けて椅子に逆戻りしてしまった。

「な、なに、青子…どうしたの…?」
「キッドよ!!!!!」
「…え?」
「キッドがまた予告状出したみたいなのよ!!!」

ドキリ。心臓が騒ぐ。

青子にはバレてしまっているのかしら。私がキッドのことを気にしていることを。

「…いつ…?」
「ついさっきみたいよ!さっき職員室行ったらニュースがついてて、そう言ってたわ!
明日の夜、『星の涙』っていう宝石を盗むって!」
「そ、そう…」
「名前も行くでしょ?」

当たり前とでも言うように、青子は私は誘ってくれた。
もしかしたら、また怪盗キッドに―――彼に会えるかもしれない。
会ってどうするかなんてわからないけれど、ただもう一度、彼に会いたいと思った。





―――あっという間に、その時がやってきた。
今日の授業なんて全然耳に入らなかったし、彼のことばかりを考えていた。
気が付けば放課後。
私と青子は都内の博物館へとやってきていた。

『星の涙』―――時価数億円と言われるこの宝石が、今回の獲物。
前回同様、中森警部が忙しなく警備に指示をしている。
相変わらずの熱血ぶり。
そして相変わらずな、外を囲むギャラリー達。
怪盗キッドは派手なのが好きなのかしら。

「警部、もうまもなく予告時間です。」
「よーし、お前ら、厳重注意しろよ!!」
「はっ!」

もうすぐ。
妙に緊張して、心臓が早鐘を鳴らす。
本当にやってくるのか、彼は。
折れないようにと握りしめたのは、彼が残していったハートのエース。
御守りとでもいうかのようにずっと持っていたそれを、胸元で抱きしめるように握る。

ぱっと暗くなる視界。辺りが騒めく。
キッドだ!怪盗キッド!と声が上がる中、なかなか暗闇に慣れない目で彼を探す。

ガシャンッ と大きな音が鳴り、風が吹き込んでくる。窓だ。
外に飛んでいたヘリのライトが部屋を照らし、強い風が吹く。
なんとか目を開けてそちらを見ると、逆光で映るシルエット。
―――知っている。シルクハットに、マント。
黒く映るシルエットは、白―――怪盗キッドだ。

「キッド!!!!!」
「ご苦労様です、中森警部。予告通り、頂戴しましたよ。
このダミーではなく本物の、『星の涙』をね。」
「なにぃ!?奴を引っ捕えろ!!」
「おっと、できるものなら。」

キッドは割れた窓から星が輝く外へと飛び出した。
その場にいた警備員さん皆が窓へと駆け寄るが、姿がないようだ。
彼はどこへ―――?

―――私は、その場から駆け出していた。






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