なんで―――自分でも不思議だった。

どこにいるのかなんてわからないのに。
でも、私は部屋から飛び出していた。
息を切らしながら、足がもつれそうになりながら、階段を駆け上がる。

いる、そんな気がしたんだ。
彼が、屋上にいる。そんな予感が。




バンッと音が鳴るほど勢いよく屋上のドアを開ける。
静かな屋上。人がいる気配はない。

「…いない、か…」

そう簡単に見つかるわけないか。警察がなかなか捕まえられないんだもの。当たり前だ。そう、自分に言い聞かせる。

息を整え屋上を進み、手すりの所まで来た。辺りはキラキラとしたネオンが輝いている。彼はもうこのネオンの中へと消えていったかもしれない。
ずっと握り締めていたままだったハートのエースを見ると、少しだけ折れていて、強く握りすぎたかも、と苦笑した。
はあ、とひとつ溜め息を吐く。最近の私は、どうも変だ。彼のことばかりを考えて。でも、気になってしょうがないのだ。彼のことが。



「―――こんなところに迷い込んでしまいましたか?お嬢さん。」
「………っ…!!」

心臓が飛び出るかと思うくらいの衝撃。
なんで。なんで。
背中へと投げかけられたこの声は、きっと、探していた人物のものだろう。本当の声かはわからないが、でも、この口調はきっと彼のものだ。

「…きっ、ど…」

声が震える。足が竦みそうだ。振り返ることを躊躇っている。

「私めをお探しですか、名前嬢。」

驚きで振り返る。星空の下、視界に映ったのは白。
自分の耳を疑った。何故―――

「どうして、私の名前を…?」
「さて、どうしてでしょう。」
「…誤魔化す、か…」
「何故、貴女は私を探すのです」
「え…」

質問で返されたその答えは、私にもわからない。
何故、だろう。…ただ、貴方に…

「…貴方に、会いたくて…」
「……それは光栄です。」

私の目の前まで歩いてきた彼は、白のグローブを纏った手で私の手を取り、そっと手の甲に口付けた。
熱くなる頬。ほんとにキザだ。彼は。
貴方は…誰なの…?
そう、口を開きかけた、その時。


パァァンと鳴り響く音。私と彼の間を掠めた何か。
それは非現実的で、テレビ等でしか聞いたことのないような音。
目の前の彼の頬に、紅い、血が―――

「危ねぇ!!!!」
「…っ…!!!」

再び聞こえた音―――銃声が鳴り響く。
キッドに抱きしめられるように庇われた私は、状況がわからずに頭がショートしそうだった。
銃を撃ってきたであろう方向に撃ち返すキッド。
同時に私達は煙に包まれた。

「な…っ…!」
「静かに。舌噛まねぇようにしろよ。」
「え、ちょ…っ」

突如来た浮遊感。バンジージャンプでもしたかのようなその感覚はあながち間違いではなくて。
私は落ちていた。キッドに抱えられながら。

「………っっ……!!!」

言葉にならない声。
私が悲鳴を上げるよりも先に、キッドはお得意のハンググライダーを出した。
飛んでいる。空を。変な感覚だ。あまりの衝撃に、まだ心臓がばくばくと暴れている。

「大丈夫か?」
「…、だい、じょぶ、です…」
「………悪い、巻き込んじまって。」
「え…?」

聞こえるか聞こえないかというくらい小さく彼は呟いた。

さっきのは、なんだったんだ。彼が狙われているの…?
警察ではない、何かに…?
彼は、どんなことに巻き込まれているんだろう。


そして、私は、

いつもの恭しい言葉遣いじゃなくなった彼と、
―――彼を、重ねていた。





next.



<< title >>