19.
「シュウくんはさ…FBIになったの?」
「ああ。」
「そっかぁ…やっぱりすごいねシュウくんは」
「お前は…どうして辞めたんだ?」
「……なんで知ってるの?久しぶりに会ったのに?」
私の質問に、シュウくんは小さく笑うだけだ。答えは教えてくれないのか。
「………自分の無力さが、嫌になったから…かな。」
3年前のあの事件が、いつまでも私を縛り付ける。
重くなりそうになった空気を壊そうと、はは、と笑って誤魔化すと、また頭を撫でられた。
「名前、」
私の名前を呼ぶシュウくんの声。それはとても静かで、強かだ。
「お前、FBIに来るか。」
「…………………………………………は?」
ど、どういう意味…?
スピードを落とし始めた列車。窓の外へ目を向けたシュウくんは、立ち上がった。
「直に、列車が近くの駅へ停る。俺と会ったことは伏せておいてくれ。」
「ああ…うん、それはいいけど……いや、え?」
「気をつけて帰れ。」
「いや……ちょ、シュウくん??」
なに?どういうこと?冗談なのなんなの?
そしてシュウくんは先に部屋を出て行ってしまった。
……………………いや、意味がわからん。
シュウくんの言う通り、本当に近くの駅へと停車したらしい。
部屋の外の様子を恐る恐る確認してから廊下へと出て、人が集まっているであろう5号車の方へ早足で向かい、人並みに合流して駅へ降り立った。
先に降りていたらしい蘭ちゃん達を遠目に見掛け、そちらへ向かおうとした瞬間見えた姿に足が止まる。
降谷くん……と、一瞬しか見えなかったけど隣にいる金髪の美女。外国人…?
……………別に、なんとも思ってないけど。気になると言えば嘘になる。いや、嫉妬とかそんなんじゃない、決して。
ただ。警察関係の人間ではなさそうな相手の隣にいる姿を見て、ああ、やっぱり前言っていたどこかの組織への潜入中なんだな、とか、この列車には何かしらの意図で乗ってたんだな、とか。
……正直、デートか?ってのも一瞬過ぎったけど。
だって一緒にいるのがまさか女性だと思ってなかったし。しかも美女。列車内で見かけた時、近くにいたのは男性だったはずだし…シュウくんと雰囲気が似ていた人。
……………私が例え彼に未練を持っていたとしても、私達の関係はとうに終わっているんだから、あの人が誰と何しようが別にいいんだけど。
はぁ…と一つ溜め息をつくと、ほんの小さく笑う声が聞こえた気がして、ばっとそちらを振り向くと、ほんの少し離れたところで、すっかり沖矢さんの姿をしたシュウくん(…で、いいんだよね?)がいた。
……めっちゃ顔顰めて溜め息ついた気がする…変なとこ見られたな。まあいいや。
バイバイとシュウくんに小さく手を振って、私は人混みをすり抜けて蘭ちゃん達との合流を目指した。
「蘭ちゃん、園子ちゃん、世良ちゃん!」
「あ!名前さん!」
「も〜どこ行ってたんですか?」
「ごめんごめん、途中まではちゃんと哀ちゃん見付けて一緒にいたんだけどね。皆と合流する前に様子見に行ったらなんかはぐれちゃって…」
園子ちゃんの問いに誤魔化しながら答えている中、世良ちゃんは何かを考え込んでいるようだった。手に持った帽子を眺めて。
「世良ちゃん、どうかした?」
「いや…なんでもないよ。」
「そう?」
ベルツリー急行の乗客の波に流されるままに歩いていく。
結局さっきの事件はどうなったのかなとか、終着駅だったらしい名古屋まで行けなかったのは少し残念だけど何かしら観光して帰れたらいいな、とか、ぼんやりと考えながら歩いていると、ふと、視線を感じた。流れるように自然とそちらへ視線を向けると、交わる。
―――降谷くんだ。
連れらしかった美女の姿が見えないが、きっと近くにはいるだろう。
ほんの、数秒だと思う。お互い視線を外せなくて、でも何かを伝えるわけでもなく。
ただ、今のこの気持ちのモヤモヤを発散させたかった。哀ちゃんのこともあるし、色んなことがわからないままだったし、それに、降谷くんのことも。
ふつふつと込み上げる感情に任せて、私は八つ当たりとも言える渾身のあっかんべーをお見舞してみせた。
降谷くんは驚いたように目を瞬かせる。無性に恥ずかしくなってしまったが、後悔はしてない。すぐに視線を逸らし、早足で逃げるように歩いた。
もう姿は見えていないだろうか。…怖いからもうちょっと逃げよ。
「あ、名前さん。」
聞き覚えのありすぎる子供の声。姿を目にした瞬間私は駆け寄り、ふにふにの両頬を両手でぎゅむっと摘んだ。
「コ〜〜ナ〜〜ン〜〜く〜〜〜〜ん??」
「ご、ごべんばばい……」
「謝るってことは、勿論ちゃーんと説明してくれるんだよね?約束したもんね?」
にっこりとコナンくんに笑顔を向けたが、コナンくんは目を背けた。そんな怖い顔した覚えないぞこら。
私はコナンくんのおてて握って歩き出した。話すまで離さない、の意味を込めて。
「―――なんで、私に哀ちゃんのことお願いしてきた?」
雑踏に紛れそうな程の小さな声で隣の少年に声をかける。
コナンくんはそれでも聞き取れたようで、落ち着いた声色で答えてくれた。
「名前さんを巻き込むつもりはなかったよ。でも、守る為に少しでも不安要素を取り除きたかった。名前さんは、元警察官だし、正義感が強いのは知ってたから。」
「………なんでこういう事件が起こってるか、は、言うつもりがないってことね。」
今度は、何も答えてくれなかった。そこで黙りを決め込むのね。
一つ息を零していると、それから…とコナンくんは真っ直ぐ前を向いたまま話し始めた言葉。
「…昴さんが、名前さんは信頼出来るし頼っていいと思う、って。いざとなったら自分がいるからって言ってたよ。」
「…………………え?」
「名前さん、昴さんと知り合いなの?」
「……昴さんって、もしかして、沖矢さん…?」
「そうだけど…知り合いじゃないの?」
「あー……まぁ知り合いと言えば、知り合い、かな。そういうコナンくんも、沖矢さん知り合いなんだね?」
「僕は、その…昴さんが今、新一兄ちゃんの家で暮らしてて…」
「え、なんで?」
「昴さんが住んでた家が火事にあって、その事件の時にたまたま会ったんだけど…新一兄ちゃんの家今ほとんど空き家だし、どうかなっていう話になって…」
「そう、なんだ…?」
火事って…シュウくん大変だったんだな……ていうかシュウくん一体どういうつもりで私が信頼出来るなんて言ったの?
……そうなると、シュウくんがこの列車に乗ってる理由は正直よく分からないけど、コナンくんの知り合いで今回の事件に関わってる…?ということは、コナンくんって沖矢さんが何者か知ってるってこと……?
え、そうじゃないと、工藤くんの家がいくら空き家だからって、見ず知らずの人にどうぞ、なんて出来ないよね…?
「………コナンくんさ、ホントに何者なの?」
「え」
私の質問に少し焦ったような反応をしてこちらに向いた視線。じと、と見下ろすと、すぐ逸らされてしまった。
「ぼ、僕ただの小学生だよ…?」
「それ、通用すると思ってる?」
「なんのこと…?」
「もう………」
どいつもこいつも秘密ばっかり。巻き込む癖に、何も教えてくれない。どいつもこいつも……ろくな野郎いないな。
何度目かの溜め息をつき、あともうひとつ、と言った私に、コナンくんは恐る恐るこちらに視線を向けた。
「結局、殺人の犯人誰だったの?トリックは?」
「え、ああ……」
そこは予想してなかったのか、少しだけ安堵した表情を浮かべ、今回の事件についてコナンくんは説明してくれた。
相変わらずすごい推理力だね、と伝えると、毛利さんの推理なんだと言われた。…なるほど?さすが名探偵。
「あ、そうだ……名前さん、」
「ん?」
「あの……安室さんに、気をつけた方がいいよ。」
「…………どういう意味?」
「……とにかく、忠告したから!」
それだけ言ったコナンくんは、私の手を振り切って走り出してしまった。まぁ一通り話聞けたからいいけど。
それにしても、気をつけた方がいい、か。…悪い人だと思われてる可能性大だな。潜入捜査官としては、大正解かもしれないけど。
本当に、一体何をしているんだか。
短く鳴った携帯に、手を伸ばす。
たった一言。それだけが書かれたメール。
『話がある』と、ただそれだけ。
嫌な予感がした。一体何の話があるというんだ。
こちらが聞きたいことは沢山あるけど、向こうが話したいことが、思いつかない。
私の八つ当たりに対することなら、わざわざこんな言い方はしないだろう。聞きたいことがある、と言われる方がまだわかる。
嫌な予感が拭えないまま、私はこの降り立った駅周辺で軽く観光をしてから、東京へと戻ったのだった。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
帰ってきた。我が家だ。泊まってから次の日に帰ってもよかったのだが、そこまで遅い時間じゃなかったしと無理矢理帰ってきたら、随分遅い時間になってしまった。
……やっぱり泊まればよかったかな。
魂が抜けてしまいそうな程溜め息を吐き、荷物を下ろしてソファにダイブした。疲れた。長かった。
殺人事件も起こるし、よく分からないけど怪しい事件も起こるし、一度お祓いにでも行った方がいいんだろうか…と思い立つくらいに、最近何かによく巻き込まれる。
はあ、と一つ息を吐き、写真立てに飾られた皆の写真が目に入り、手に取った。
「ただいま。」
いつものように声を掛け、元の場所に置こうと思った、が、目に入った人物を思わず凝視する。
―――降谷零。
当時から、時々よくわからないところはあったけど、ここまでではなかったはずだ。やっぱり、公安という組織がそうさせているのか。言えないことが、多くなる。
警察官のデータベースからも消される。そんな部署だ。
それでも、自分の目的の為に、国家の為に、日本の為にと闘う彼の邪魔をしたくなくて、離れた。
自分から離れたのに、未だに引き摺っているのが本当に馬鹿みたいだ。いや、本当に今となっては終わったことで、再会するまではそんなに思い出すことはなかったんだよ。………たまに思い出してたけど。
彼の闘いの邪魔はしたくない。それでも、こんな私でも守りたい正義があるんだと、列車の中で思い知った。それが、もしその正義が彼の邪魔になってしまう時は、私はどうするのが正解なのだろう。
自分の正義は、捨てることが出来ない。
それなら。結局私は、降谷くんの邪魔になってしまうのか。
「……はぁ、馬鹿らしくなってきたな。」
考えても、仕方ない。答えは出ているじゃないか。
私は、どうやっても、正義は捨てることができないんだ。彼とさよならした時、私にとって“彼の邪魔にならない”ということが、きっと正義だった。それが自己満足だとしても。今もそれは変わらない。けど。彼の行動が私の正義とぶつかるのならば、潔くぶつかるしかない。
そうでなくては。私は、彼に、彼らに顔向け出来ない。
どこかで小さく、音がなった。
鞄に入れたままだったらしい携帯が、着信を告げている。
こんな時間に掛けてくるなんて一人しか思い浮かばない、という予想通り。
“安室透”と表示されたそれに、一つ深呼吸をしてから通話をタップした。
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「シュウくんはさ…FBIになったの?」
「ああ。」
「そっかぁ…やっぱりすごいねシュウくんは」
「お前は…どうして辞めたんだ?」
「……なんで知ってるの?久しぶりに会ったのに?」
私の質問に、シュウくんは小さく笑うだけだ。答えは教えてくれないのか。
「………自分の無力さが、嫌になったから…かな。」
3年前のあの事件が、いつまでも私を縛り付ける。
重くなりそうになった空気を壊そうと、はは、と笑って誤魔化すと、また頭を撫でられた。
「名前、」
私の名前を呼ぶシュウくんの声。それはとても静かで、強かだ。
「お前、FBIに来るか。」
「…………………………………………は?」
ど、どういう意味…?
スピードを落とし始めた列車。窓の外へ目を向けたシュウくんは、立ち上がった。
「直に、列車が近くの駅へ停る。俺と会ったことは伏せておいてくれ。」
「ああ…うん、それはいいけど……いや、え?」
「気をつけて帰れ。」
「いや……ちょ、シュウくん??」
なに?どういうこと?冗談なのなんなの?
そしてシュウくんは先に部屋を出て行ってしまった。
……………………いや、意味がわからん。
シュウくんの言う通り、本当に近くの駅へと停車したらしい。
部屋の外の様子を恐る恐る確認してから廊下へと出て、人が集まっているであろう5号車の方へ早足で向かい、人並みに合流して駅へ降り立った。
先に降りていたらしい蘭ちゃん達を遠目に見掛け、そちらへ向かおうとした瞬間見えた姿に足が止まる。
降谷くん……と、一瞬しか見えなかったけど隣にいる金髪の美女。外国人…?
……………別に、なんとも思ってないけど。気になると言えば嘘になる。いや、嫉妬とかそんなんじゃない、決して。
ただ。警察関係の人間ではなさそうな相手の隣にいる姿を見て、ああ、やっぱり前言っていたどこかの組織への潜入中なんだな、とか、この列車には何かしらの意図で乗ってたんだな、とか。
……正直、デートか?ってのも一瞬過ぎったけど。
だって一緒にいるのがまさか女性だと思ってなかったし。しかも美女。列車内で見かけた時、近くにいたのは男性だったはずだし…シュウくんと雰囲気が似ていた人。
……………私が例え彼に未練を持っていたとしても、私達の関係はとうに終わっているんだから、あの人が誰と何しようが別にいいんだけど。
はぁ…と一つ溜め息をつくと、ほんの小さく笑う声が聞こえた気がして、ばっとそちらを振り向くと、ほんの少し離れたところで、すっかり沖矢さんの姿をしたシュウくん(…で、いいんだよね?)がいた。
……めっちゃ顔顰めて溜め息ついた気がする…変なとこ見られたな。まあいいや。
バイバイとシュウくんに小さく手を振って、私は人混みをすり抜けて蘭ちゃん達との合流を目指した。
「蘭ちゃん、園子ちゃん、世良ちゃん!」
「あ!名前さん!」
「も〜どこ行ってたんですか?」
「ごめんごめん、途中まではちゃんと哀ちゃん見付けて一緒にいたんだけどね。皆と合流する前に様子見に行ったらなんかはぐれちゃって…」
園子ちゃんの問いに誤魔化しながら答えている中、世良ちゃんは何かを考え込んでいるようだった。手に持った帽子を眺めて。
「世良ちゃん、どうかした?」
「いや…なんでもないよ。」
「そう?」
ベルツリー急行の乗客の波に流されるままに歩いていく。
結局さっきの事件はどうなったのかなとか、終着駅だったらしい名古屋まで行けなかったのは少し残念だけど何かしら観光して帰れたらいいな、とか、ぼんやりと考えながら歩いていると、ふと、視線を感じた。流れるように自然とそちらへ視線を向けると、交わる。
―――降谷くんだ。
連れらしかった美女の姿が見えないが、きっと近くにはいるだろう。
ほんの、数秒だと思う。お互い視線を外せなくて、でも何かを伝えるわけでもなく。
ただ、今のこの気持ちのモヤモヤを発散させたかった。哀ちゃんのこともあるし、色んなことがわからないままだったし、それに、降谷くんのことも。
ふつふつと込み上げる感情に任せて、私は八つ当たりとも言える渾身のあっかんべーをお見舞してみせた。
降谷くんは驚いたように目を瞬かせる。無性に恥ずかしくなってしまったが、後悔はしてない。すぐに視線を逸らし、早足で逃げるように歩いた。
もう姿は見えていないだろうか。…怖いからもうちょっと逃げよ。
「あ、名前さん。」
聞き覚えのありすぎる子供の声。姿を目にした瞬間私は駆け寄り、ふにふにの両頬を両手でぎゅむっと摘んだ。
「コ〜〜ナ〜〜ン〜〜く〜〜〜〜ん??」
「ご、ごべんばばい……」
「謝るってことは、勿論ちゃーんと説明してくれるんだよね?約束したもんね?」
にっこりとコナンくんに笑顔を向けたが、コナンくんは目を背けた。そんな怖い顔した覚えないぞこら。
私はコナンくんのおてて握って歩き出した。話すまで離さない、の意味を込めて。
「―――なんで、私に哀ちゃんのことお願いしてきた?」
雑踏に紛れそうな程の小さな声で隣の少年に声をかける。
コナンくんはそれでも聞き取れたようで、落ち着いた声色で答えてくれた。
「名前さんを巻き込むつもりはなかったよ。でも、守る為に少しでも不安要素を取り除きたかった。名前さんは、元警察官だし、正義感が強いのは知ってたから。」
「………なんでこういう事件が起こってるか、は、言うつもりがないってことね。」
今度は、何も答えてくれなかった。そこで黙りを決め込むのね。
一つ息を零していると、それから…とコナンくんは真っ直ぐ前を向いたまま話し始めた言葉。
「…昴さんが、名前さんは信頼出来るし頼っていいと思う、って。いざとなったら自分がいるからって言ってたよ。」
「…………………え?」
「名前さん、昴さんと知り合いなの?」
「……昴さんって、もしかして、沖矢さん…?」
「そうだけど…知り合いじゃないの?」
「あー……まぁ知り合いと言えば、知り合い、かな。そういうコナンくんも、沖矢さん知り合いなんだね?」
「僕は、その…昴さんが今、新一兄ちゃんの家で暮らしてて…」
「え、なんで?」
「昴さんが住んでた家が火事にあって、その事件の時にたまたま会ったんだけど…新一兄ちゃんの家今ほとんど空き家だし、どうかなっていう話になって…」
「そう、なんだ…?」
火事って…シュウくん大変だったんだな……ていうかシュウくん一体どういうつもりで私が信頼出来るなんて言ったの?
……そうなると、シュウくんがこの列車に乗ってる理由は正直よく分からないけど、コナンくんの知り合いで今回の事件に関わってる…?ということは、コナンくんって沖矢さんが何者か知ってるってこと……?
え、そうじゃないと、工藤くんの家がいくら空き家だからって、見ず知らずの人にどうぞ、なんて出来ないよね…?
「………コナンくんさ、ホントに何者なの?」
「え」
私の質問に少し焦ったような反応をしてこちらに向いた視線。じと、と見下ろすと、すぐ逸らされてしまった。
「ぼ、僕ただの小学生だよ…?」
「それ、通用すると思ってる?」
「なんのこと…?」
「もう………」
どいつもこいつも秘密ばっかり。巻き込む癖に、何も教えてくれない。どいつもこいつも……ろくな野郎いないな。
何度目かの溜め息をつき、あともうひとつ、と言った私に、コナンくんは恐る恐るこちらに視線を向けた。
「結局、殺人の犯人誰だったの?トリックは?」
「え、ああ……」
そこは予想してなかったのか、少しだけ安堵した表情を浮かべ、今回の事件についてコナンくんは説明してくれた。
相変わらずすごい推理力だね、と伝えると、毛利さんの推理なんだと言われた。…なるほど?さすが名探偵。
「あ、そうだ……名前さん、」
「ん?」
「あの……安室さんに、気をつけた方がいいよ。」
「…………どういう意味?」
「……とにかく、忠告したから!」
それだけ言ったコナンくんは、私の手を振り切って走り出してしまった。まぁ一通り話聞けたからいいけど。
それにしても、気をつけた方がいい、か。…悪い人だと思われてる可能性大だな。潜入捜査官としては、大正解かもしれないけど。
本当に、一体何をしているんだか。
短く鳴った携帯に、手を伸ばす。
たった一言。それだけが書かれたメール。
『話がある』と、ただそれだけ。
嫌な予感がした。一体何の話があるというんだ。
こちらが聞きたいことは沢山あるけど、向こうが話したいことが、思いつかない。
私の八つ当たりに対することなら、わざわざこんな言い方はしないだろう。聞きたいことがある、と言われる方がまだわかる。
嫌な予感が拭えないまま、私はこの降り立った駅周辺で軽く観光をしてから、東京へと戻ったのだった。
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
帰ってきた。我が家だ。泊まってから次の日に帰ってもよかったのだが、そこまで遅い時間じゃなかったしと無理矢理帰ってきたら、随分遅い時間になってしまった。
……やっぱり泊まればよかったかな。
魂が抜けてしまいそうな程溜め息を吐き、荷物を下ろしてソファにダイブした。疲れた。長かった。
殺人事件も起こるし、よく分からないけど怪しい事件も起こるし、一度お祓いにでも行った方がいいんだろうか…と思い立つくらいに、最近何かによく巻き込まれる。
はあ、と一つ息を吐き、写真立てに飾られた皆の写真が目に入り、手に取った。
「ただいま。」
いつものように声を掛け、元の場所に置こうと思った、が、目に入った人物を思わず凝視する。
―――降谷零。
当時から、時々よくわからないところはあったけど、ここまでではなかったはずだ。やっぱり、公安という組織がそうさせているのか。言えないことが、多くなる。
警察官のデータベースからも消される。そんな部署だ。
それでも、自分の目的の為に、国家の為に、日本の為にと闘う彼の邪魔をしたくなくて、離れた。
自分から離れたのに、未だに引き摺っているのが本当に馬鹿みたいだ。いや、本当に今となっては終わったことで、再会するまではそんなに思い出すことはなかったんだよ。………たまに思い出してたけど。
彼の闘いの邪魔はしたくない。それでも、こんな私でも守りたい正義があるんだと、列車の中で思い知った。それが、もしその正義が彼の邪魔になってしまう時は、私はどうするのが正解なのだろう。
自分の正義は、捨てることが出来ない。
それなら。結局私は、降谷くんの邪魔になってしまうのか。
「……はぁ、馬鹿らしくなってきたな。」
考えても、仕方ない。答えは出ているじゃないか。
私は、どうやっても、正義は捨てることができないんだ。彼とさよならした時、私にとって“彼の邪魔にならない”ということが、きっと正義だった。それが自己満足だとしても。今もそれは変わらない。けど。彼の行動が私の正義とぶつかるのならば、潔くぶつかるしかない。
そうでなくては。私は、彼に、彼らに顔向け出来ない。
どこかで小さく、音がなった。
鞄に入れたままだったらしい携帯が、着信を告げている。
こんな時間に掛けてくるなんて一人しか思い浮かばない、という予想通り。
“安室透”と表示されたそれに、一つ深呼吸をしてから通話をタップした。
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