23.
今日も色々あったし、午後の合気道訓練も疲れた。武道訓練は男女別れるので班の皆とは別々だ。
さっきまで寮の友達と話していたのだけど、皆それぞれ部屋へ戻っていったり、彼氏に電話しに行ったりして解散したのだ。
寮へ来てしまったら、男子と会うことはほとんどないから班の皆とも会わないし………暇だな。
私も彼氏が出来たら、皆みたいに電話したりするんだろうか。……彼氏、か。
正直、あんまり恋というものがわからない部類の人間だ。好きって、なんだろう。じんぺーやけんちゃんに抱いている好きとは、多分別物なんだろうな、とは漠然と思う。
じんぺーは昔ちーちゃん――けんちゃんのお姉さんのことが好きだったみたいで何回も告白?してたらしいけど、今ではよくわからない…好きな子いるのかな…?
けんちゃんはもっとわからない。女の子皆大好き、って感じだ。特定の彼女を見たことが殆どない。
そう考えると、彼女がいる伊達くんは凄いな。
…じゃあ、ゼロくんとヒロくんはどうなんだろう…?
一人考え事をしていても仕方ないし暇だし、散歩でもしようと着替えて外に出ることにした。
門の所まで来たら、人影を感じてそちらを向けば、伊達くんが座っていた。
「え、伊達くん?」
「…苗字か。どうしたんだ?」
「暇だったから散歩。伊達くんこそ何してるの?こんなとこで。」
「いや何、似たようなもんだ。……髪下ろしてるの初めて見たな。」
「あ、そうだっけ…?いつも束ねてるからね」
「女はすぐ雰囲気変わるからすげーな」
「そう…?」
なんとなく伊達くんの横に腰を下ろした。勿論、聞きたいことがあったからだ。
「…昼間の続き聞いていい?」
「だろうと思ったよ」
そう言って伊達くんはまた照れ臭そうに笑った。そして私の質問に、ちょっとずつ答えてくれる。彼女はどんな子なのか、出会いの話とか…そんな質問をたくさんした。
「…って、聞きすぎだろ」
「いいじゃん、素敵だなって思って。あと、昼間の疑問が解けたよ」
「疑問?」
「うん。彼女と同じ、見た目のせいで変に絡まれてるゼロくんがほっとけないんだなってことが分かった」
「まぁ…そうだな」
そして、伊達くんは優しく笑った。本当に彼女のことが大事なんだろう。いいな、そういう関係。
「苗字はいないのか?」
「いないよーよくわかんないし」
「何がだ?」
「恋とかそういうの。どーいうのが恋?」
「あー…なるほどな」
少し考える素振りをした伊達くんは、私の顔を覗き込み笑ってこう言った。
「まだガキだな」
「ちょっと!」
まぁ笑ってくれたからいいけど。
伊達くんが、さっき何か考え込んでる顔してたから。
「……伊達くん、なんか悩んでる?」
「ん?何だよ急に」
「いや……さっき、そんな顔してた気がして」
「………そうだなぁ……」
伊達くんは、空を見上げた。私も釣られて、空を見上げる。すっかり日が暮れて、綺麗な月夜だ。
すると誰かの足音が聞こえた。ゆっくりそちらへ視線をやると、やってきたのはゼロくんだった。
「あれ」
「降谷…」
「伊達班長…それに、苗字さんか」
「?何その反応…」
「いや…髪下ろしてるの初めて見たから…」
「伊達くんと同じこと言うじゃん?」
……そんなに違う…?学校の規定上、女子の髪型はショートか、長ければ束ねることになっている。なので私はいつも適当にヘアゴムで纏めているのだが、まぁ確かに寮を出る時から戻ってくるまで解く事がほとんどないから、見る機会はあんまりないだろう。
「何してるんだ?2人で…」
「んーお話?」
「まぁ間違いじゃねーな。どっか行くのか?」
「ちょっとコンビニに行こうと思って」
「あ、私も行きたい」
「じゃあ俺も」
私達は三人でコンビニへ向かうことになった。
入学してから、じんぺーもけんちゃんもいない状況で班のメンバーと一緒なことがなかったので、とても新鮮だ。
「昼間は道場で悪かったな…ちと言い過ぎた…」
「いやいや…」
伊達くんとゼロくんの後ろをついて歩いていると、昼間の剣道訓練での話になったようだ。私が知らない話だな、とぼんやりとしながら話を聞いていたが、どうやら伊達くんのお父さんの話のようだ。
「俺の親父の事なんざお前らには関係ねぇのにな…」
「確かお父さんも警察官だったよな?」
「ああ…交番勤務の巡査長!ヒョロっとして見た目は弱そうだったけど、俺は尊敬してたよ…親父が非番だったあの日まではな…」
伊達くんのお父さんは、悪い奴らに舐められないように、ちょっと強そうに見えるからといつも爪楊枝を咥えていたらしい。それに憧れた伊達くんと一緒にお父さんがコンビニへ入ったその直後、事件は起こったそうだ。
「返り血を浴び興奮した男が木刀片手に『金を出せ』と飛び込んで来たんだよ!当然店内はパニックだったけど俺は怖くなかったよ。相手は1人…きっと警察官の親父なら何とかしてくれる…そう信じてた俺の眼に映ったのは――土下座して犯人に懇願する情けねぇ親父の姿だった…何とか親父に本気を出させようと俺も向かってったが…」
そして、伊達くんのお父さんが警察官だと知ってしまった犯人は、伊達くんのお父さんに何度も木刀を振り下ろした――
「そうこうしている内にパトカーのサイレンが聞こえて、男はコンビニから出ていったが…親父は1年間入院する羽目になり、その怪我が元で警察官を辞める事になっちまったんだよ…」
目の前でお父さんが殴られているというのはどれほど怖い事だろう。――強くて尊敬していたお父さんに失望してしまった伊達くん、か。
「後に知った事だが、あの事件は縄張り抗争に負けた暴力団員が逃亡資金欲しさに起こした犯行で、その後も違う店で傷害事件を起こしていたそうだ…つまり、あの日親父が強くて男を捕まえていたら、被害者を誰1人出すことなく、正義は遂行されたというワケだ!」
伊達くんが幼い頃にそんな事件に巻き込まれていたとは…伊達くんのお父さんがどんな人かは分からないが、本当にそうだったんだろうか。何か真相があったりしないのかな…だって、伊達くんが尊敬するようなお父さんだったんだから。
しかし、昼間伊達くんが絡まれていたゼロくんを助けた時、爪楊枝を咥えていた男子に当たりが強かったのはお父さんが原因だったのか、と合点がいった。
話を聞いてる間に、コンビニへ着いていた。
早く買い物を済ませて戻ろう、という伊達くんの言葉を聞き、門限があったんだと思い出した。普段夜外出しないので忘れかけていた。
ゼロくんは歯磨き粉を買いに来たらしい。私も店内をふらっと歩き回っていると、期間限定発売のお菓子が目に入り、手に取って二人に合流しようとした、その時。店内に入ろうとしている男の手にしているライフルが見えた。え、と思ったその瞬間、自動ドアが開き入ってきた男二人組。ライフルを持った男が天井に向かって発砲した。
店内にいた客達は皆集められ一箇所に座らされ、犯人によって全員のスマホを回収されてしまった。
犯人は二人組のようだが、レジのお金を盗んでいく素振りもない。奴らの目的は何…?まるで何かを待っているような。
囁くような声で、伊達くんがゼロくんに声をかけた。一人ずつ相手にすれば制圧できる、と。だが、ゼロくんの言う通り、犯人の様子がおかしいのだ。
「なぜ犯人はレジの金を奪ってすぐに逃走しないんだ…今なら確実に逃げれるのに」
「さぁな、奴らにも何か都合があるのかもしれんが、今はこの人質を全員助けるのが最優先!まだ拘束されていない今が大チャンスなんだよ!!」
「まって伊達くん、もし2人組じゃなかったらどうす…」
「おい、何をコソコソ喋ってる…」
ゴッと鈍い音がして、伊達くんの体が倒れる。ライフルで殴られたのだ。新たに来た、犯人――店員によって。
「殺すぞてめェ」
「そろそろおっぱじめるか」
今伊達くんを殴り付けた店員の他にも、ぞろぞろと仲間が揃っていく。やっぱり他に仲間がいたんだ。
私達は両手を結束バンドで拘束されてしまい、口にガムテープを貼られた。そして奥の部屋へと誘導される。
行く道中、犯人の一人が座っている目の前のパソコンの画面が見えた。どうやらATMの防犯カメラの映像のようだ。
そして私達は、部屋に閉じ込められてしまった。
隣に座っているゼロくんが、何やらゴソゴソしている。どうしたんだろうと手元を見てみると、なんと伊達くんの靴紐を解いて抜いていた。そして、伊達くんの結束バンドにその靴紐を通し、擦る。摩擦熱で…ってところなのかな。すごい。少しして、本当に切れてしまった。
解放された伊達くんは私達のテープを剥がしてくれた。
「やるな降谷!」
「ぷは、助かった〜」
「皆の拘束も解いてくれ!」
「よろしく伊達くん」
ゼロくんと私の拘束を伊達くんが解いてくれて、捕まった他の人達のも手分けして解いていく。ゼロくんは扉が開くかを試してみたようだが、鍵が掛かっているようだ。
「……鍵穴あったらピッキングできるんだけどな」
「え?」
「ん?」
「ピッキングなんて出来るのか…?」
「え、うん、まぁ…じんぺーの受け売りだけど…」
ドアノブに鍵穴がなく、恐らく外側からしかかけられないのだろうな、と思い独り言のように口にした言葉を聞き、キョトンとした顔をゼロくんがこちらに向けた。
じんぺーからだと聞いたゼロくんは納得したような顔をする。
「しかし犯人達の狙いは何なんだ?」
「さっき防犯カメラの映像見てたよ。多分ATMの」
「ATMの現金補充の金だよ!防犯上、補充のタイミングは誰にも知らされていないけど、ATMの防犯映像で大まかな収支をチェックしていれば予想はつく…残り100万以内になった所で立て続けに仲間に引き落とさせれば、銀行から現金補充に飛んでくるってワケさ!」
「なるほど…店員もグルじゃなきゃできねぇ犯行だな…でも何で奴らは顔を隠してねぇんだ?店員なんてサングラスすらしてねぇし…」
「事が済んだら皆殺しにする気なのかも…」
「うわ、最悪…」
私達の会話を聞いていた他の客達がざわめき出す。そりゃそうだ、コンビニに気軽に買い物に来ただけなのにこんなことに巻き込まれるなんて思いもしないだろう。
伊達くんが皆に、なんとかしてやる!と宥めているが。これからどうしたもんか。
「とにかくここから脱出する方法を考えないと…」
「そうだね…せめてじんぺー達にでも連絡出来たらいいんだけど…」
辺りに何かないか探していたゼロくんが、何かを見つけたらしい。
「どうしたの?」
「ああ、配電盤があったんだ。もしかしたら、助けが呼べるかもと思ってね」
「え?」
「幸い、ヒロと松田、萩原の3人が出掛けているし、帰ってくる時ここの近くを通る可能性は高いだろ?」
「うん…でも、どうやって…?」
「まぁ見てて」
そしてゼロくんは、配電盤を操作し始めた。ある一定のリズムで。これって―――
暫くすると、店内が騒がしくなった。何事…!?
すると、ガチャっとドアが開き、現れたのはヒロくんだった。
「待たせたな零!」
「景光!」
「ほんとにヒロくん来た…」
「な、何で?」
「看板のモールス信号を受けて犯人達を制圧しに来たんだよ!力じゃなく…数でね」
店内では、複数集まっていた犯人達を取り押さえる、同期生達に溢れていた。勿論、じんぺーとけんちゃんもいる。
「なるほど…警察学校の学生に客を装わせてここに集結させたのか…」
「こりゃまた明日鬼塚教官に大目玉だな…」
「あはは、ほんとだ!でも助かった〜」
「まぁ、班長の親父さんがやろうとした事をやったまで…そうだよな?萩!」
「ああ!」
じんぺーに呼ばれたけんちゃんは、昔、伊達くんのお父さんの例の事件があった時コンビニにいて見ていたんだと言うことを話し出したのだ。
「い、いたのか?あの現場に!?」
「班長は血まみれの親父さんに気を取られて気付かなかったかもしれねぇけど、あの後男の仲間が数人店内に入ってきて…」
警察が来るからと、その犯人を連れて逃げ出した――
「親父さんは気づいてたんだよ…近くの車にその男の仲間が大勢潜んでいるって。だからその男を捕まえたとしても、仲間に加勢に入られたら勝ち目がないし、店内で乱闘になり万が一立て籠もられたりしたら、店内にいた客達に危害が及ぶ。あの時子供の俺や、妊婦さんや老人や、女子学生とかたくさんいたからねぇ…警察の到着がかなり早かったから、多分、親父さんが通報し、警察の仲間が駆けつけるまでその男を奥まで入れず店先で足止めしたかったんだよ!」
そうか。だから。やっぱり伊達くんのお父さんは――
「だからあの土下座は、命乞いなんかじゃなく…ここだよ班長!」
けんちゃんが、伊達くんの胸を拳で叩く。
「誰も傷付けてたまるかっていう、警察官のハートが、そうさせたんじゃねーの?」
胸が、熱くなった。
「…やっぱり伊達くんのお父さんは、自慢のお父さんだったんだね」
かっこいい、警察官だったんだ。私も、そんな警察官になれたらいいなと思った。尊敬してると、自慢だと思われるような、そんな、警察官に。
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今日も色々あったし、午後の合気道訓練も疲れた。武道訓練は男女別れるので班の皆とは別々だ。
さっきまで寮の友達と話していたのだけど、皆それぞれ部屋へ戻っていったり、彼氏に電話しに行ったりして解散したのだ。
寮へ来てしまったら、男子と会うことはほとんどないから班の皆とも会わないし………暇だな。
私も彼氏が出来たら、皆みたいに電話したりするんだろうか。……彼氏、か。
正直、あんまり恋というものがわからない部類の人間だ。好きって、なんだろう。じんぺーやけんちゃんに抱いている好きとは、多分別物なんだろうな、とは漠然と思う。
じんぺーは昔ちーちゃん――けんちゃんのお姉さんのことが好きだったみたいで何回も告白?してたらしいけど、今ではよくわからない…好きな子いるのかな…?
けんちゃんはもっとわからない。女の子皆大好き、って感じだ。特定の彼女を見たことが殆どない。
そう考えると、彼女がいる伊達くんは凄いな。
…じゃあ、ゼロくんとヒロくんはどうなんだろう…?
一人考え事をしていても仕方ないし暇だし、散歩でもしようと着替えて外に出ることにした。
門の所まで来たら、人影を感じてそちらを向けば、伊達くんが座っていた。
「え、伊達くん?」
「…苗字か。どうしたんだ?」
「暇だったから散歩。伊達くんこそ何してるの?こんなとこで。」
「いや何、似たようなもんだ。……髪下ろしてるの初めて見たな。」
「あ、そうだっけ…?いつも束ねてるからね」
「女はすぐ雰囲気変わるからすげーな」
「そう…?」
なんとなく伊達くんの横に腰を下ろした。勿論、聞きたいことがあったからだ。
「…昼間の続き聞いていい?」
「だろうと思ったよ」
そう言って伊達くんはまた照れ臭そうに笑った。そして私の質問に、ちょっとずつ答えてくれる。彼女はどんな子なのか、出会いの話とか…そんな質問をたくさんした。
「…って、聞きすぎだろ」
「いいじゃん、素敵だなって思って。あと、昼間の疑問が解けたよ」
「疑問?」
「うん。彼女と同じ、見た目のせいで変に絡まれてるゼロくんがほっとけないんだなってことが分かった」
「まぁ…そうだな」
そして、伊達くんは優しく笑った。本当に彼女のことが大事なんだろう。いいな、そういう関係。
「苗字はいないのか?」
「いないよーよくわかんないし」
「何がだ?」
「恋とかそういうの。どーいうのが恋?」
「あー…なるほどな」
少し考える素振りをした伊達くんは、私の顔を覗き込み笑ってこう言った。
「まだガキだな」
「ちょっと!」
まぁ笑ってくれたからいいけど。
伊達くんが、さっき何か考え込んでる顔してたから。
「……伊達くん、なんか悩んでる?」
「ん?何だよ急に」
「いや……さっき、そんな顔してた気がして」
「………そうだなぁ……」
伊達くんは、空を見上げた。私も釣られて、空を見上げる。すっかり日が暮れて、綺麗な月夜だ。
すると誰かの足音が聞こえた。ゆっくりそちらへ視線をやると、やってきたのはゼロくんだった。
「あれ」
「降谷…」
「伊達班長…それに、苗字さんか」
「?何その反応…」
「いや…髪下ろしてるの初めて見たから…」
「伊達くんと同じこと言うじゃん?」
……そんなに違う…?学校の規定上、女子の髪型はショートか、長ければ束ねることになっている。なので私はいつも適当にヘアゴムで纏めているのだが、まぁ確かに寮を出る時から戻ってくるまで解く事がほとんどないから、見る機会はあんまりないだろう。
「何してるんだ?2人で…」
「んーお話?」
「まぁ間違いじゃねーな。どっか行くのか?」
「ちょっとコンビニに行こうと思って」
「あ、私も行きたい」
「じゃあ俺も」
私達は三人でコンビニへ向かうことになった。
入学してから、じんぺーもけんちゃんもいない状況で班のメンバーと一緒なことがなかったので、とても新鮮だ。
「昼間は道場で悪かったな…ちと言い過ぎた…」
「いやいや…」
伊達くんとゼロくんの後ろをついて歩いていると、昼間の剣道訓練での話になったようだ。私が知らない話だな、とぼんやりとしながら話を聞いていたが、どうやら伊達くんのお父さんの話のようだ。
「俺の親父の事なんざお前らには関係ねぇのにな…」
「確かお父さんも警察官だったよな?」
「ああ…交番勤務の巡査長!ヒョロっとして見た目は弱そうだったけど、俺は尊敬してたよ…親父が非番だったあの日まではな…」
伊達くんのお父さんは、悪い奴らに舐められないように、ちょっと強そうに見えるからといつも爪楊枝を咥えていたらしい。それに憧れた伊達くんと一緒にお父さんがコンビニへ入ったその直後、事件は起こったそうだ。
「返り血を浴び興奮した男が木刀片手に『金を出せ』と飛び込んで来たんだよ!当然店内はパニックだったけど俺は怖くなかったよ。相手は1人…きっと警察官の親父なら何とかしてくれる…そう信じてた俺の眼に映ったのは――土下座して犯人に懇願する情けねぇ親父の姿だった…何とか親父に本気を出させようと俺も向かってったが…」
そして、伊達くんのお父さんが警察官だと知ってしまった犯人は、伊達くんのお父さんに何度も木刀を振り下ろした――
「そうこうしている内にパトカーのサイレンが聞こえて、男はコンビニから出ていったが…親父は1年間入院する羽目になり、その怪我が元で警察官を辞める事になっちまったんだよ…」
目の前でお父さんが殴られているというのはどれほど怖い事だろう。――強くて尊敬していたお父さんに失望してしまった伊達くん、か。
「後に知った事だが、あの事件は縄張り抗争に負けた暴力団員が逃亡資金欲しさに起こした犯行で、その後も違う店で傷害事件を起こしていたそうだ…つまり、あの日親父が強くて男を捕まえていたら、被害者を誰1人出すことなく、正義は遂行されたというワケだ!」
伊達くんが幼い頃にそんな事件に巻き込まれていたとは…伊達くんのお父さんがどんな人かは分からないが、本当にそうだったんだろうか。何か真相があったりしないのかな…だって、伊達くんが尊敬するようなお父さんだったんだから。
しかし、昼間伊達くんが絡まれていたゼロくんを助けた時、爪楊枝を咥えていた男子に当たりが強かったのはお父さんが原因だったのか、と合点がいった。
話を聞いてる間に、コンビニへ着いていた。
早く買い物を済ませて戻ろう、という伊達くんの言葉を聞き、門限があったんだと思い出した。普段夜外出しないので忘れかけていた。
ゼロくんは歯磨き粉を買いに来たらしい。私も店内をふらっと歩き回っていると、期間限定発売のお菓子が目に入り、手に取って二人に合流しようとした、その時。店内に入ろうとしている男の手にしているライフルが見えた。え、と思ったその瞬間、自動ドアが開き入ってきた男二人組。ライフルを持った男が天井に向かって発砲した。
店内にいた客達は皆集められ一箇所に座らされ、犯人によって全員のスマホを回収されてしまった。
犯人は二人組のようだが、レジのお金を盗んでいく素振りもない。奴らの目的は何…?まるで何かを待っているような。
囁くような声で、伊達くんがゼロくんに声をかけた。一人ずつ相手にすれば制圧できる、と。だが、ゼロくんの言う通り、犯人の様子がおかしいのだ。
「なぜ犯人はレジの金を奪ってすぐに逃走しないんだ…今なら確実に逃げれるのに」
「さぁな、奴らにも何か都合があるのかもしれんが、今はこの人質を全員助けるのが最優先!まだ拘束されていない今が大チャンスなんだよ!!」
「まって伊達くん、もし2人組じゃなかったらどうす…」
「おい、何をコソコソ喋ってる…」
ゴッと鈍い音がして、伊達くんの体が倒れる。ライフルで殴られたのだ。新たに来た、犯人――店員によって。
「殺すぞてめェ」
「そろそろおっぱじめるか」
今伊達くんを殴り付けた店員の他にも、ぞろぞろと仲間が揃っていく。やっぱり他に仲間がいたんだ。
私達は両手を結束バンドで拘束されてしまい、口にガムテープを貼られた。そして奥の部屋へと誘導される。
行く道中、犯人の一人が座っている目の前のパソコンの画面が見えた。どうやらATMの防犯カメラの映像のようだ。
そして私達は、部屋に閉じ込められてしまった。
隣に座っているゼロくんが、何やらゴソゴソしている。どうしたんだろうと手元を見てみると、なんと伊達くんの靴紐を解いて抜いていた。そして、伊達くんの結束バンドにその靴紐を通し、擦る。摩擦熱で…ってところなのかな。すごい。少しして、本当に切れてしまった。
解放された伊達くんは私達のテープを剥がしてくれた。
「やるな降谷!」
「ぷは、助かった〜」
「皆の拘束も解いてくれ!」
「よろしく伊達くん」
ゼロくんと私の拘束を伊達くんが解いてくれて、捕まった他の人達のも手分けして解いていく。ゼロくんは扉が開くかを試してみたようだが、鍵が掛かっているようだ。
「……鍵穴あったらピッキングできるんだけどな」
「え?」
「ん?」
「ピッキングなんて出来るのか…?」
「え、うん、まぁ…じんぺーの受け売りだけど…」
ドアノブに鍵穴がなく、恐らく外側からしかかけられないのだろうな、と思い独り言のように口にした言葉を聞き、キョトンとした顔をゼロくんがこちらに向けた。
じんぺーからだと聞いたゼロくんは納得したような顔をする。
「しかし犯人達の狙いは何なんだ?」
「さっき防犯カメラの映像見てたよ。多分ATMの」
「ATMの現金補充の金だよ!防犯上、補充のタイミングは誰にも知らされていないけど、ATMの防犯映像で大まかな収支をチェックしていれば予想はつく…残り100万以内になった所で立て続けに仲間に引き落とさせれば、銀行から現金補充に飛んでくるってワケさ!」
「なるほど…店員もグルじゃなきゃできねぇ犯行だな…でも何で奴らは顔を隠してねぇんだ?店員なんてサングラスすらしてねぇし…」
「事が済んだら皆殺しにする気なのかも…」
「うわ、最悪…」
私達の会話を聞いていた他の客達がざわめき出す。そりゃそうだ、コンビニに気軽に買い物に来ただけなのにこんなことに巻き込まれるなんて思いもしないだろう。
伊達くんが皆に、なんとかしてやる!と宥めているが。これからどうしたもんか。
「とにかくここから脱出する方法を考えないと…」
「そうだね…せめてじんぺー達にでも連絡出来たらいいんだけど…」
辺りに何かないか探していたゼロくんが、何かを見つけたらしい。
「どうしたの?」
「ああ、配電盤があったんだ。もしかしたら、助けが呼べるかもと思ってね」
「え?」
「幸い、ヒロと松田、萩原の3人が出掛けているし、帰ってくる時ここの近くを通る可能性は高いだろ?」
「うん…でも、どうやって…?」
「まぁ見てて」
そしてゼロくんは、配電盤を操作し始めた。ある一定のリズムで。これって―――
暫くすると、店内が騒がしくなった。何事…!?
すると、ガチャっとドアが開き、現れたのはヒロくんだった。
「待たせたな零!」
「景光!」
「ほんとにヒロくん来た…」
「な、何で?」
「看板のモールス信号を受けて犯人達を制圧しに来たんだよ!力じゃなく…数でね」
店内では、複数集まっていた犯人達を取り押さえる、同期生達に溢れていた。勿論、じんぺーとけんちゃんもいる。
「なるほど…警察学校の学生に客を装わせてここに集結させたのか…」
「こりゃまた明日鬼塚教官に大目玉だな…」
「あはは、ほんとだ!でも助かった〜」
「まぁ、班長の親父さんがやろうとした事をやったまで…そうだよな?萩!」
「ああ!」
じんぺーに呼ばれたけんちゃんは、昔、伊達くんのお父さんの例の事件があった時コンビニにいて見ていたんだと言うことを話し出したのだ。
「い、いたのか?あの現場に!?」
「班長は血まみれの親父さんに気を取られて気付かなかったかもしれねぇけど、あの後男の仲間が数人店内に入ってきて…」
警察が来るからと、その犯人を連れて逃げ出した――
「親父さんは気づいてたんだよ…近くの車にその男の仲間が大勢潜んでいるって。だからその男を捕まえたとしても、仲間に加勢に入られたら勝ち目がないし、店内で乱闘になり万が一立て籠もられたりしたら、店内にいた客達に危害が及ぶ。あの時子供の俺や、妊婦さんや老人や、女子学生とかたくさんいたからねぇ…警察の到着がかなり早かったから、多分、親父さんが通報し、警察の仲間が駆けつけるまでその男を奥まで入れず店先で足止めしたかったんだよ!」
そうか。だから。やっぱり伊達くんのお父さんは――
「だからあの土下座は、命乞いなんかじゃなく…ここだよ班長!」
けんちゃんが、伊達くんの胸を拳で叩く。
「誰も傷付けてたまるかっていう、警察官のハートが、そうさせたんじゃねーの?」
胸が、熱くなった。
「…やっぱり伊達くんのお父さんは、自慢のお父さんだったんだね」
かっこいい、警察官だったんだ。私も、そんな警察官になれたらいいなと思った。尊敬してると、自慢だと思われるような、そんな、警察官に。
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