どれくらい飛んでいたんだろう。
辺りは暗くて、あまり人気のない場所。
キッドはゆっくりと降り立った。
見渡せばそこは木々に囲まれ、少し大きめな池がある。
水面には星と月の光が反射してキラキラとしていた。

「綺麗…」
「あまり知られていない場所なんですが。
気に入ったならなにより。」

すっかり恭しいいつものキッド口調に戻った彼は、池を眺めている私の隣へと並んだ。

「…ここ、星がよく見えるんだね。」
「街明かりがないので、星がはっきり見えるようですね。」

星を見上げて、手を伸ばす。こぼれ落ちそうな星空。
大好きな、夜空。
都内にも、こんな場所があったんだ。

「星が、届きそう。…なんて、届くわけないんだけど。」
「さて、それはどうでしょう。」
「え…?」

私と同じように空に手を伸ばすキッド。
ワン、ツー、スリーと数えれば、キッドの手元に光が灯った。それは、魔法のようだった。

「え…っ」
「星の煌めきが似合う貴女に、これを。」
「な、なに…?」

手を取られ、掌に握るように乗せられた何か。
そっと手を開けばそれは、見覚えのある―――

「『星の涙』…?」
「ご名答。」
「なんで…」
「…私が探しているものではありませんでしたから。」

彼はずっとポーカーフェイスで何を考えているかわからない。
今もそうだ。
でもさっき…。少しだけポーカーフェイスが崩れたとき、本気で私を守ろうとしてくれたような、そんな風に見えた。

「あの、さっきは、ありがとう。」
「いえ、名前嬢を巻き込んでしまいましたが。」
「……あの、」

隣にいる彼を見上げる。…似ている。彼に。
似ているだけではない、きっとそうだと、私はどこか確信していた。
暗闇ではあまりわからなかったけれど、今は月明かりに照らされている。それに、こんなに近くにいたら、わかってしまった。けれど、口にしていいのかがわからなかった。何故怪盗をしているの?なんて、気軽に聞けることではない。

「……さっきの、は…」
「…こういうことをしていると、同じような輩に狙われることだってある、ということです。」

じゃあ、なんで。そう口を開きかけた。
シルクハットの下から覗く、柔らかな笑顔に、言葉が詰まった。

「…少し、お喋りがすぎました。貴女の前では、つい饒舌になってしまうようです。」
「………き…」
「ここを通れば道に出ます。そこを右に曲がってまっすぐ行けば、大通りに出る。」
「……………。」

貴方は何も、話してはくれない。
当たり前だ。こんな関係のない私に、何を話すっていうの。
でも、私は―――

「送って行きたいのは山々ですが、やり残したことがありますので。お気を付けて、名前嬢。」

私の手を取り、再び手の甲に触れた唇。
あっさりと離れてしまった温もり。離れていく距離。
私は、その背中に抱きついた。

「…っ…どうしました?」
「………く、ろば…くん……」

私は、その名を口にした。
彼にそっくりな彼の、ううん、きっと、彼の本当の名前を。




next.



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