色々なことがありすぎて、少し疲れた体をリフレッシュさせようと、休みを満喫した。
ショッピングへ行ったり、お気に入りのカフェでのんびりしたり。好きなことを目一杯して、疲れも吹き飛ぶようだった。
彼への心配が完全になくなったわけではないけれど、白い鳩が届けてくれた白いバラのおかげで、随分安心した。
私は単純かもしれない。
家へ帰り、すっかり暗くなってしまった自分の部屋の明かりをつけ、開けたままのカーテンを閉めに向かう。
が、窓に手を掛けようとしたところで手が止まる。見慣れた窓に見覚えのないもの。窓の隙間に挟まっている、何か。
不審に思い、窓からその、メッセージカードのような何かを取る。
カードを開いて、自分の目を疑った。
何故―――
『天を映す鏡が 満天の星に溢れる頃
最も美しい星を頂きに参上する
白薔薇の奇術師 怪盗キッド』
「…っ…なによ、これ…!!」
予告状めいたキザな文章。
ついさっき帰ってきたばかりの私は踵を返し、カードを握り締めたまま再び外へと駆け出した。
言葉の意味はわからないけれど、がむしゃらに走った。
息が切れそうでも、足がもつれそうでも、すぐに、すぐに行かなきゃと思った。
彼にまた会える―――それ以外のことを考える余裕なんてなかった。
ネオンの輝く街を抜けてたどり着いた場所。
それは昨日、キッドに降ろされた場所。
この場所以外考えられなかった。
きっとこの場所に彼が現れると、どこか確信していた。
切れた息を整えようと深呼吸をする。
静かなこの場所に、自分の呼吸の音だけが聞こえる。
彼は、いない。
「……違った…かな…」
握りしめていたカードに目を落とす。
どういう意味なのかがわからない。
私のただの直感は外れたのかもしれない。
なんの根拠もなくて、ただここで、
もう一度、彼に会えると思ったから。
「……え……っ」
目の前にひらひらと舞うように落ちてきた何か。
足元に落ちたそれを拾い上げる。白い、花弁…?
月の光を遮るように影が落ちる。
そっと顔を上げると、月に映された人影。
「……キッ、ド………!」
「最も美しい星を頂きに参上しました。名前嬢?」
しゃがみこんだまま驚きでぽかんとキッドを見上げることしか出来ない私に、彼は僅かに微笑んで恭しく手を差し出した。
そっとその手を取ると少し強い力で立たせてくれ、私の手の甲へとそのまま口づけをする。
相変わらずの、彼だ。
「あ、あの…」
「『あの後大丈夫だったのか』ですよね?」
「……そう。」
「ご覧の通り。ね?」
「…っ…」
ずるい人。私の言おうとすることをさらっと当て、不安に思うことなんてなにもなかったかのように振舞うのだから。
私の手をそっと離した彼は、背を向けるように歩きだし、大きな池の前で立ち止まった。
「さて、ショータイムの前に、私めの戯れ言を少し、お聞きいただけますでしょうか。」
「…は?」
何を言い出すかと思えば。
何を考えているかわからないいつものポーカーフェイスで、彼はぽつりぽつりと、しかしはっきりと言葉を紡ぎ出した。
「昔話をしましょう。むかーしむかし、あるところに、」
「……ふざけてるの?」
「まさか。あるところに……一人の怪盗がいました。」
「………!」
「闇に紛れるのではなく、存在を主張したかのような白を纏ったその怪盗はある日、盗みに入ったパーティー会場から抜ける途中、ある少女に出逢いました。その少女のおかげもあり、怪盗はその場から無事抜け出すことができたのです。感謝の印として、少女に似合う一輪の白いバラを残して。」
フラッシュバックする記憶―――遠い日の、初恋の記憶。
どうして、どうして…?
「そしてその少女は、その怪盗の呼び名であろう、"1412"という言葉を知ったのです。
――それからしばらくが経った頃、その少女は、あるマジックショーのパーティーで、ある少年に出逢いました。」
「……え……?」
マジックショー…
忘れかけていた記憶のピースがはまったかのように蘇る。
そういえば―――
そこそこ裕福な家庭で育った私は、親がパーティー好きということもあってか、幼い頃からよくパーティーへと連れられていた。
初恋の白―――怪盗キッドに出逢ったのも確かそうだ。
あれからずっと、白を纏った彼のことばかり気にしていた私は、母親に教えてもらった『いちよんいちに』という言葉を、ことあるごとに口にしていたのだ。口にしていれば、いつかまた会えるかもしれないと、そう思って。
そんなとき、また連れられて行ったパーティーで、マジックショーをやっていた。
物を出すマジックを見て、彼が差し出してくれた白いバラを重ねた。彼もマジシャンだったのかもしれない、と。
無意識のようにまた『いちよんいちに』と呟いた私に、母は、またなの?というような反応をする。しつこいくらいに口にする私に、親は呆れたような顔をする。変な子だと何度も言われた。そんな対応にも、子供ながらに慣れつつあった。私はきっと変なんだと。
だけど―――
「『いちよんいちに』ってなんだ?」
一人の男の子が、私に問いかけてきた。
next.
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