「ついたぞ!!!ユバ!!!」


誰よりも先に船から降りたのは、船長であるルフィだ。広大な大陸に沿い海から大きな河を渡り辿り着いた対岸。そこには、砂に覆われ瓦礫だらけの町があった。

「リーダーを探すか!!どの辺にいるんだ!?」
「違うのルフィさん。ここは、まだユバじゃないわ。ここから半日北西に砂漠を歩かなきゃ。」
「半日も!!?」

ビビは地図を広げて説明をしてくれる。ここは『緑の町エルマル』という所らしい。ルフィの言う通り、名前にあるような緑が全く見えないその町に、今はね、とビビが少し翳りを見せた表情を浮かべた。また、この顔だ。

「うおーっ何だこりゃあカメか!?アザラシか!?」

河から突然クオーという鳴き声と共に現れたのは可愛らしい見た目の動物。

「え、可愛い!」
「クンフージュゴン!!」
「クンフー!?」
「だめよウソップさん近づいちゃ!!」

あんな可愛い見た目からクンフーだなんてまるで結び付かない名前に首を傾げていると、あっという間に、ウソップはボコボコにやられていた。

「強いから」
「う、ウソップ!!」
「敗けんな。」

ガッツポーズを決めているクンフージュゴン。そ、そんなに強いの…?すると今度は、うおーっという雄叫びが聞こえてきた。

「あっちで勝ってるヤツいるけど。」
「勝ってもダメっ!!勝負に敗けたら弟子入りするのがクンフージュゴンの掟なの!!」
「武闘派だな。」
「可愛いのに武闘派………」

この世界は面白くて可愛い生き物が多いな…可愛いは正義だ。間違いない。
ルフィは弟子入りしたクンフージュゴンに構えを教えているようで、知らぬ間に物凄く弟子が増えていた。え、いつの間にこんなに出てきたのこの子達。
何がなんでも着いて来そうなクンフージュゴン達をチョッパーがなんとか説得して、私達の食料と引き換えに引き下がってお見送りをしてくれた。可愛いけどさすがに大所帯になりすぎるもんね…。

「しかしこの国のジュゴンは変わってんなァ、ビビちゃん。河に住んでた。」
「……ううん、海よ。」
「?」
「………太古の昔からこの国をずっと潤してきた大いなる“サンドラ”も、近年ではかつての勢いを失って、下流に海の侵食を受けているの。」
「…じゃあ、さっきジュゴン達のいた辺りの河の水は…」
「海水よ。飲み水にも畑にも使えない水。」
「それで枯れたのか?この町は…」
「……いいえ。まれに降る雨水を確実に貯えることで、町はなんとか保っていたわ。つい最近まで、この辺りは緑いっぱいの活気ある町だった。」
「ここがねェ…」
「だけど…ここ3年、この国のあらゆる土地では一滴の雨さえ降らなくなってしまった…」

さっき私達がいた港町、『ナノハナ』という町は、隣の『カトレア』というオアシスのお陰で無事なのだとビビは言った。けれどそんな国の大事件の中、一ヶ所だけいつもより多く降る土地があるという。
それが、王の住む宮殿のある首都『アルバーナ』。それは王の奇跡と言われていたけれど、それはある事件が起きるまでの話。
語られたのは、耳を疑う嘘みたいな本当の話―――

「“ダンスパウダーが”…!?」
「ええ。」
「なんだ、知ってんのか?」
「…別名は、“雨を呼ぶ粉”。」
「雨を呼ぶ粉!?」
「雨を…?どういうこと?」

昔どこかの雨の降らない国の研究者が造り出したそれは、人工的に雨を降らすことが出来る粉だとナミが説明してくれる。ルフィとゾロさんは原理をあんまり理解出来なかったみたいだけど、要はそういうことらしい。
ウソップの言う通り、そんなこの国にもうってつけの粉が何故事件になってしまったのか。その奇跡のような粉には大きな落とし穴があったのだ。

「風下にある隣国の“干ばつ”!!!……わかる?“人工降雨”はつまり、まだ雨を降らすまでに至らない雲を成長させ雨を落とすというものだから…」
「そうか…!!放っときゃ隣国に自然に降るハズだった雨さえも奪っちまってたわけかっ!!」
「そんな…」
「そう…それに気づいたその国はついに戦争を始め、たくさんの命を奪う結果になった…以来、世界政府では“ダンスパウダー”製造・所持を世界的に禁止しているの。」
「……使い方一つで幸せも悪魔も呼んでしまう粉か…」
「その“ダンスパウダー”が大量に港町に運び込まれた時、国では王の住む町以外は全く雨が降らないという異常気象……!!」
「王を疑うのが普通だよな。その粉で国中の雨を奪ってやがるんだと…」

ルフィはビビのお父さんが悪いと見当違いなことを言っているけど、サンジくんのツッコミ通り、ビビのお父さん…アラバスタ国王は、ハメられたのだ。その頃から、クロコダイルの作戦は始まっていた――

「当然、王にはさっぱり身に覚えのない事件だったけど…たたみかける様に、知らぬ間に宮殿には大量の“ダンスパウダー”が運び込まれていた。全てはクロコダイルの仕組んだ罠…!!!彼の思惑通り…反乱は起きた!!!町が枯れ、人が飢えて、その怒りを背負った反乱軍が、無実の“国”と戦い殺し合う…!!!国の平和も…王家の信頼も…雨も…!!町も…そして人の命までも奪って、この国を狂わせた張本人が、クロコダイルなの!!…なぜ、あいつにそんなことをする権利があるの!?」
「………」

ビビの、苦しみが、怒りが、心を揺さぶる。時々見せた翳りのある表情の理由が少しわかった気がする。
彼女は、その全てを背負っていたのか。

「…私は!!!あの男を許さないっ!!!」

ビビの悲痛な叫びの直後、枯れてしまったこの町の瓦礫がすごい音を立て崩れた。何事かとそちらを向けば、ルフィ、サンジくん、ウソップが砂塵の中から歩いてくる。ゾロさんの、ガキだな、という言葉で、彼らの仕業だということがわかった。

「………?」
「……あんた達、一体何を……!!」
「…さっさと先へ進もう。ウズウズしてきた。」

………ルフィ。いつも太陽のように眩しく笑う彼のこんな表情は、私の少ない彼の記憶の中では見たことがない。唇を噛んでいたビビの背に手を当て、行こう、と声を掛けた。
早くこの戦争を、止めに行こう。







―――砂漠の旅は、想像を絶するものだった。

今まで体験したこともない暑さ、とにかく続く砂、砂、砂。太陽は容赦なく照りつけ、暑さからか水を取り合うような無駄な喧嘩が起こり、休憩をしようとした時にワルサギという鳥に荷物を持っていかれ、ルフィがどこからか引き連れてきた大きすぎるトカゲ、それと女好きのラクダ(ナミによってマツゲと名付けられた(名前のセンス))。ビビと交代しながらナミの後ろでそのマツゲに乗り、少しだけ楽になったけれどそれでもどこまでも続く砂漠に圧倒される。
盛り沢山すぎることが起こるこの砂漠を越える旅は、夜になり、ようやく一段落つこうとしていた。

「夜になっちゃったわね…」
「しかし何だこの昼と夜との温度差は。」
「………砂漠の夜は氷点下まで下がるから。」
「ニッキシッ!!!氷点下ァ!!?」
「聞いた事はあったけど、こんなに寒くなると思ってなかったわ…」

昼と夜の温度差に、体がすっかり参りそうになる。後どのくらいで着くのだろうかと考えていると、ビビが声を上げた。

「あそこ!!明かりが見える!?」
「着いたのか!?“ユバ”に!!」

前方は砂が舞っていて余り見えず、ぼんやりと何かがあるのがわかる。地響きが鳴り、風が強い。通常のことではないらしく、ビビが異変を感じたようだ。

「砂嵐っ!!!」
「!!?」
「ユバの町が、砂嵐に襲われてる!!!」

目の前で、これほどの砂嵐を見ることなど滅多にないだろう。それほど巨大な砂嵐が、一つの町を覆っている。
やがて過ぎ去り、月が砂に覆われた町を照らした。オアシスと言われるこの“ユバ”の町は、先程私達が立ち寄った“エルマル”という町とあまり変わらない。

「砂で地層が上がったんだ…オアシスが飲み込まれてる…!!!」
「旅の人かね。…砂漠の旅は疲れただろう。すまんな、この町は少々枯れている………」

砂に覆われたこの町にぽつんと現れた人影。砂を掘り起こしているらしいその人は、痩せ細ったご老人だ。

「だが、ゆっくり休んで行くといい…宿ならいくらでもある…それが、この町の自慢︎だからな…」

ご老人は今にも倒れてしまいそうな程ふらふらな状態で、先程の砂嵐でまた埋まってしまったオアシスを取り戻そうとしているようだった。ビビは王女とバレないように顔を隠しながら、反乱軍の居場所をご老人へ問い掛けたが、鋭い目付きで睨まれてしまい、反乱軍へ入りたい輩かと怒鳴られ何故か樽が飛んで来て何事だと必死で避ける。そしてご老人は、また再び砂を掘り起こしながら呟いた。

「…あのバカ共なら…もう、この町にはいないぞ…!!」
「なんだとォ〜〜〜〜っ!!?」
「そんな…!!!」
「…たった今…この町に砂嵐が来たが、今に始まったことじゃない。3年前からの日照り続きで砂は乾ききって、この町はひんぱんに砂嵐に襲われる様になった!!!少しずつ少しずつ蝕まれて、過去のオアシスも今じゃこの有り様さ。」

オアシスと呼ばれる場所がこれだけ枯れて砂に埋もれてしまうなんて、どれほどの砂嵐に襲われてきたのだろう。この土地は。

「物資の流通もなくなったこの町では、反乱の持久戦もままならない…反乱軍は、『カトレア』に本拠地を移したんだ…」
「『カトレア』…!!?」
「どこだビビ、それ近いのか!!?」
「…………!!『ナノハナ』の隣にあるオアシスよ。」
「『ナノハナ』!!?」
「おい…!!おれ達ァ何のためにここまで」
「ビビ……!?…今…ビビと…!?」
「!!」

ルフィがうっかりビビの名前を呼んでしまったせいで、ビビの正体に気付かれてしまい、ルフィは慌てて誤魔化そうとして墓穴を掘った。(ルフィ…)

「ビビちゃんなのか…!?そうなのかい!!?」
「…………え!?」
「生きてたんだなよかった……!!私だよ!!わからないか!?無理もないな、少し痩せたから」
「…………!!トトおじさん…………………!?」
「そうさ……」
「そんな…!!」
「トトおじさん?」
「私はね…ビビちゃん!!国王様を…信じてるよ…!!あの人は決して国を裏切る様な人じゃない…!!!そうだろう!!?」

トトおじさんと呼ばれたその人は、ビビの肩を掴み、涙ながらに国王を信じてると力強く話す。

「…反乱なんてバカげてる…!!…あの反乱軍(バカども)を…頼む!!!止めてくれ!!!!もう君しかいないんだ!!!」
「おじさん…………!?」

この、トトさんが一体誰なのか、ビビとどういう知り合いなのかはわからないけれど、あんな悲惨な事件があっても、まだ国王をこんなにも信頼してくれる国民がいる。そんな素晴らしい国なのに。

「…たかだか3年…雨が降らないから何だ…!!!私は国王様を信じてる…!!!まだまだ国民の大半はそうさ…!!何度もねェ…何度も…何度も止めたんだ!!!だが、何を言っても無駄だ…反乱は止まらない。反乱軍(やつら)の体力も、もう限界だよ…」

トトさんは涙を流し、震えている。
雨を奪われ、反乱が起き、国が奪われた。誰も悪くないのに、敵はただ一人だというのに。

「次の攻撃で決着をつけるハラさ。もう、追いつめられてるんだ…!!死ぬ気なんだ!!!」
「!!」
「頼むビビちゃん…あのバカどもを止めてくれ!!!」

なんという、悲劇だろう。

「トトおじさん、心配しないで。」
「………ビビちゃん………」
「反乱は、きっと止めるから!」

ビビは、笑った。その笑顔が、無理をしているものだと私達にはわかり、彼女の優しさが、とても痛ましい。
何故、本当に心優しい彼女が、こんなにも辛い思いをしなければならないのだろう。





――私達は先を急がねばならない。
けれど、砂漠を越え疲れきった体を休める為、トトさんに案内された宿で仮眠をとる事になった。

「いや〜〜諸君、今日は、まーお疲れ様!!とりあえず少し寝て体力を回復しようじゃないか。明日のためにおやすみーっ!!」
「おめェは今まで寝てただろうが!!」

すっかり元気になっているウソップが意気揚々と慰労の言葉を述べ、それにゾロさんがツッコんだことからチョッパーをも巻き込んだ枕投げが始まった。サンジくんはいつの間にかビビが寝るはずのベッドへ入り添い寝を目論んでいて、ウソップの抜け目ないツッコミでサンジくんも枕投げに参戦。賑やかすぎるこの面々の様子に、枕を顔面で受けてしまったビビは、少しだけ気が抜けたように笑った。

「ねえビビ、サンジくんじゃなくて私と一緒に寝る?」
「え?」
「名前まで何言ってんのよ。」
「たまにはいいかなって。」
「じゃ、じゃあおれも…」
「おめェはダメだろ!!!」
「サンジくんも来たらベッド狭いしね。」
「いやそういう問題じゃないわよ。」
「あはは!チョッパーならいいよ!」

笑う私におれか!?って驚くチョッパー、悔しがるサンジくん、呆れた顔のウソップとゾロさん、ナミ。皆、気を使ってるわけじゃないけれど、考えていることはきっと同じ。ビビの気が、少しでも休まればいい。
いつもだったらこの中に混ざり賑やかなはずのルフィは今ここにはいない。外でまだ砂を掘っているトトさんのところにいるようだ。

そして私達は、それぞれのベッドで眠りについた。明日からきっと、戦いが始まる。今よりももっと大変な戦いになるだろう。この国の行く末を、悲劇にしてはいけない。この戦争が、早く終わりますように。ただそう願って、夢の淵へと落ちていくのだ。





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