「……そんなに美味いか?」
「うーん…」
いつものお昼時間。私は腕を組んで机の上の朝貰ったお弁当箱を見つめ唸っていた。
今日は、いつも一緒に食べているエビちゃんがいない。というのも、別に病気で欠席…というのではなく、彼女曰く息抜き…つまりサボリだ。
エビちゃんは昔からサボリの常習犯らしく、先生達には問題児扱いされていたもののここ最近はサボることもあまり無くなっていたのだが、「ずっと学校に篭ってると鬱になる!」と言って、3時間目が終わってから姿を消している。実は共犯にならないかと私も誘われたのだが、今日は5時間目の英語で当てられるので断った。今頃、沖奈でショッピングを楽しんでるのかな…
というわけで、今日のお昼は1人で食べることになったわけで。ちなみに隣人の一条くんはバスケ部の顧問の先生に呼ばれたらしく、居ない。
「一人で食べてもつまんないよー…」
ため息をつき、机に突っ伏す。周りからはクラスメイトの楽しそうな声。別にクラスのみんなと仲が悪いってわけじゃないんだけど特別仲が良いってわけでもない。やはり女子はそれぞれグループが出来ており、談笑しながら弁当をつついている。そんな中にいきなり今日だけ一緒にお昼食べさせてーというのも、少々勇気がいるしその場の和やかな雰囲気を壊しかねない。かといって男子のグループと一緒にっていうのは論外だし…
2組の千枝ちゃんと雪ちゃんの所に行こうかな…とどうするか考えを巡らせつつ、机に突っ伏したまま何気なく顔を横に向けると、窓の外の空模様が変わってきていた。午前はどんより曇っていたのに、雲の切れ間から青空が覗いてきている。テレビでは午後から雨が降ると言っていたけれど、どうやら今日はお天気お姉さんの予報ははずれらしい。
「……よーしっ! 決めた!!」
勢いよく立ち上がると、私の声とガタッと揺れた椅子に周りのクラスメイトが何事かとこちらを振り向いた。しまった、大きい声出しちゃった…
弁当箱を掴み、突き刺さる視線から逃げる為そそくさと教室を後にする。
向かうは屋上!天気予報では雨だと言っていたし、きっと今は誰もいないに違いない。一人でのんびり晴れてゆく空を見ながらお弁当なんていうのも、たまにはいいよね!
屋上の扉を開けると、生ぬるい風が横を通り過ぎ校舎の中へ流れていった。
予想通り、屋上は誰もいない。ふっふっふー、独り占めだ!
ま、といってもお弁当食べるだけなんだけど…
フェンス近くに腰を下ろし、さて食べよう!とお弁当の包みを解いていた時。キイ、と屋上の扉が音を立てた。
「……藤田?」
「あ、やっほー」
屋上にやってきたのは瀬多くんだった。…どうやら私と同じ事を考えていたらしく、手には弁当の包があった。
「今日は花村達とは一緒じゃないの?」
「たまには、一人でのんびり食べるのもいいかと思って」
「ふーん……あ、じゃあ私お邪魔かな?」
「いや、いい。最初にいたのは藤田だし」
私の隣にストン、と瀬多くんが座るのと同時に、風が優しく吹いて彼の前髪をふわりと舞い上げた。……あ、瀬多くんの額初めて見たかも。
しかし……キレイな髪の毛だよなぁ。サラサラしてるし。男にしておくのがもったいない……絶対女の子で長髪だったらモテるね!……って、瀬多くんもともとモテ男くんだったか。
なんてあほなことを考えていたら、こちらに顔を向けた彼の目とぱっちり視線が合った。
「……何?」
「髪の毛キレイだなあって」
「は?」
思っていたことを素直に伝えたら、何言ってんだコイツみたいな呆れた顔をされた。
「ね、ちょっと触ってみても良い?」
「嫌だ」
「ケチー」
口を尖らせる私を無視して、お弁当を食べ始める瀬多くん。
私も自分の分の弁当箱の蓋を空けて、肉じゃがを口に運ぶ。この前花村との話で出てきてから彼の作った肉じゃがが食べたくてリクエストしたのだ。
……うん、味が染みててやっぱり美味しい〜!ついつい顔が緩んでしまう。
肉じゃがに舌鼓を打っている途中、ふと視線を感じてそちらを見ると瀬多くんとまた目が合った。
「……藤田ってさ、」
「うん?」
「顔に出やすいタイプだな。美味い物を食べると特に」
「え、そんなに顔に出てる?」
「ああ。美味しくて幸せ〜って顔してた、今」
そ、そんなに顔に出てたかな……確かに、美味しいものを食べてる時が一番幸せだけどさ!
「……そんなに美味いか?」
「うん! そりゃもう!」
「……そ、そうか」
「瀬多くんのお弁当、本当に美味しいからさ! やっぱ顔に出ちゃうのかなー」
えへへへ、なんて笑って頭を掻く。ほんと瀬多くんのお弁当は美味しい! 毎日彼の料理が食べられる菜々子ちゃんと堂島さんが超羨ましいよ!
……って、いや私も今はほとんど毎日食べてるか。
瀬多くんは何故か目を丸くしてこちらを凝視していた。え…私なんか変なこと言ったっけ…
「藤田、」
瀬多くんが何かを言いかけようとした瞬間、
ポツ…
ポツ…
ザーーーーー
「!?」
「ギャアアアア降ってきた!!」
突然のバケツをひっくり返したような雨に、急いで屋上の入り口の扉へ走る。
校舎の中に入った時には私も瀬多くんも全身びしょ濡れだった。
そして、ついさっきまで食べていたお弁当も…突然の豪雨で雨水が混入+慌てて走ったせいでぐっちゃぐちゃ…流石に食べたらまずそうだ……ううまだ半分しか食べてなかったのに私の肉じゃがああ…!!
「…また、作ってやるから」
無惨な姿のお弁当を持って俯いていた私の言わんとしたことが伝わったのか、瀬多くんは苦笑いを浮かべつつもそう言ってくれました…
(ああ…おなかへっ、…へっくし!)
(天気予報はやっぱりちゃんと見た方がいいな…)
(お天気お姉さん、私が間違ってました疑ってゴメンナサイ…)