君さえ


自殺愛好家の供述(bnst/太宰/死ネタ)


※ツイッターでの #12のワードパレット タグで書かせていただいた文
※死ネタ/悲恋/現代文

ワード:暗黒01-葬送/灯火・灯籠/勿忘草


 私が口癖のように「死にたい」と呟けば、すかさず「生きてください」と云ってくれる人がいた。私が川を流れてみたり、首を吊ろうとしてみたりすれば、慌てて駆け付けてくれる人がいた。案の定自殺が失敗して不貞腐れている私を見て、酷く安堵した表情を浮かべてくれる人がいた。今まで出会ったほとんどの人は、そんな反応なんて最初の数回だけしか見せてくれなかったというのに、その人は、彼女は、何度繰り返しても飽きることなく私のために走って、泣いて、笑ってくれた。

 それを煩わしいと思わなくなったのは、いつからだろうか。
 自殺を試みる度に、それを心待ちにするようになったのは、いつからだろうか。

 実は自殺未遂の何度かは君の反応を見たくて行ったことなのだと云えば、彼女は怒るだろうか。それとも、馬鹿なんですかと呆れるだろうか。笑ってくれるだろうか。

 彼女のその真っ直ぐな優しさが自分だけに向けられたものではないことぐらい、理解していた。きっと誰よりも私がそれを知っていた。自殺未遂を繰り返すのが私ではなく、別の人だろうと、彼女はそれを必死に止めようとしただろうから。
 彼女のような人を、きっと世界は『善人』と呼ぶのだろう。真っ白で、真っすぐで、優しくて、柔らかくて、温かい。私とはあまりにもかけ離れた存在。

 ああ、全く。佳人薄命だなんて言葉を作ったのは一体どこの誰なのだろうか。

 青く澄み渡った空は、まるで彼女が人々に「泣かないで」と云っているかのように眩しかった。見上げるのも億劫なほどに。
 その下を行く、黒い列。喪服の行進。──彼女の、葬送。
 私はそれを少し離れた場所から眺めていた。白い百合の花が揺れているのが、微かに見える。ああ、またひとり、彼女の遺影の前で泣き崩れた。善人であった彼女を慕う人は多い。多すぎると云ってもいいぐらいに。遺影の周りを真っ白な色がこれでもかというほどに覆い尽くしているのが、その証拠だ。

 咽び泣く誰かの声を遠くに聞きながら、私は空を仰いでふと思う。
 これからどうやって自殺を試みていこうかと、考える。

 まだ試していない方法は沢山あるし、失敗してしまった方法をもう一度試す必要もある。けれど、そこに彼女の存在がもうないのだと思うと、なんだか胸のあたりが酷く心許なくなった。まるで、二度と塞がる事の無い穴が開いてしまったかのように。

 その穴を今まで埋めていたその人は、今はもう棺桶の中。二度と目覚めることのない眠りの中で、朽ち果てるその時を静かに待っている。

 ああ、なるほど。何かが私の中ですとんと腑に落ちた。

 どうやら、私は伝えなければいけなかったことを彼女に伝え損ねてしまったようだ。

 はてさて、これは困った。死人に口なしとは云うけれど、生き人もまた死人に言葉を伝えられないのだから、結局、生き人にも口はない。

 風船を飛ばせばいいだろうか。灯籠を流せばいいだろうか。したためた手紙を焚き上げればいいだろうか。どれもいまいちピンとこない。

 ……そうだ。私が直接彼女に会いに行けばいいのではないだろうか。

 それが一番の名案に思えたけれど、やっぱり私は考え直す。きっとそんなことをすれば彼女に今までにないほど怒られるだろうし、そもそも私と彼女の行きつく先が同じとも思えない。なんて残念なことだ。仕方が無いから、風船を飛ばして、灯籠を流して、彼女の墓前に勿忘草でも献じよう。きっとそんなものでは届かないのだろうけれど。

 まったく。こんなことになるなら、もっと早くに気が付いて、彼女と心中をしておけばよかった。まあ、気が付いていたところで、きっと私はそんなことは出来なかったのだろうけれど。

 本当に、なんて面倒くさいんだろう。この恋とか愛とか言うものは。
 本当に、なんて残酷な人なんだろう。こんなものだけを私に残していくなんて。

 君は善人だと云ったけれど、訂正させてもらうよ。

 君は私にとって、とっても酷い悪人だ!


2019/6/5

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