君さえ


このいとおしいまどろみよ(fgo/岡田以蔵)


※もしも現パロいぞうさんがすごく運転上手だったら、な夢小説
※現パロ/雰囲気土佐弁


 ──いつの間に、私は眠ってしまっていたのだろう。
 ふと意識が浮上して、瞼が自然と持ち上がる。寝起きのぼやけた視界に映るのは、夜の闇と、ガラスの向こうに浮かぶ白や橙の光たち。ぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、右から左へと流れていくそれらをぼんやりと眺めていると、ふと右隣から声が聞こえた。

「……目ぇ、覚めたんか」

 私の鼓膜を優しく叩く、ガラの悪い、それでもどこか静かな声。──ああ、彼の声だ。それを理解した瞬間、私は今自分がどこにいて、何をしていたのかを思い出した。
 背中を預けているシートに、自分の左肩から右腰にかけてを支えるシートベルト、時折聞こえるエンジン音。
 左側の窓へと向けていた顔を、声の聞こえた右隣へと移す。首を傾けて寝ていたからだろう、右の首筋がわずかに痛みを訴えた。

「………いぞ、さん」

 もう随分鮮明になった視界の向こうにいるのは、ハンドルを握り真っ直ぐに前を見つめている彼の姿。その向こうに、すれ違い通り過ぎて行く対向車線の車の姿も見えた。フロントガラスの向こうから忍び込んでくる街頭の白い光の中に、彼の瞳きらりと輝いて見えた。

「よう寝よったな。じきに着くぞ」

 久しぶりに休日が被ったから、少しわがままを言って彼と遠出をして、そしてその帰り道。車に乗り込んで、そこからしばらくの記憶はある。今回こそは最後まで起きていようと思っていたのに、やはり途中で眠ってしまったみたいだ。

「……起こしてくれて良かったのに」
「すやすや気持ちよさげに寝ちょったけぇの」

 こちらには視線をやらず、くつくつと笑いながら彼は言う。前の時にも同じような会話をしたなぁ。これが恒例行事になってしまうのだろうかと、私はほんの少しの心配と喜びを抱いてみたりした。

「今日はよお動き回ったし、疲れとんじゃろ。着いたら起こしちゃるき、もうちっくと寝ちょれ」

 彼、岡田以蔵という人は、『静か』という言葉とはあまり結びつかない存在だ。例えば幼馴染の彼と話している時など、子犬かと思ってしまうほどにうるさ……賑やかになる。彼の前でそんなことを口にすると絶対に怒られるので、心の中で呟くだけに止めてはいるが。
 何故突然そんな話を始めたのかといえば、そんな普段の言動や雰囲気とは打って変わって、彼の運転が酷く『静か』だからだ。安全運転で、尚且つ上手い。助手席に乗っていると、いつの間にか眠ってしまっているぐらいに。
 クラクションをかき鳴らしてカーチェイスをしていた方が納得出来るというのに、一体なぜこんなにも運転だけは静かなのか。彼と彼の運転を知る全ての人が抱いている疑問である。
 無論私もその例に漏れないのだが、

「………ん、なんじゃあ」

 運転席の彼をじっと見つめていると、ふと満月の瞳がこちらへ向けられた。その視線に射抜かれると、一瞬心臓が変に叫ぶ。決して恐怖ではなく、これはきっと。

「まさか、わしに見とれちゅうがか?」

 にや、と意地悪く彼が笑ったのが薄明かりのしたでもよくわかった。ああもう、本当にいい性格をしているなこの人は。

「……ちゃんと前見て運転してくださーい」

 ぷい、と視線を再び左側の窓へと向けて、私はふて寝の姿勢に入る。それがただの照れ隠しだということぐらい、彼にはきっと気づかれている。頭が悪いと彼は自称しているけれど、こういう変な時だけやけに察しがいい。
 右から左へと流れていく街灯と、静かな車内に時折聞こえるエンジン音、タイヤの音、対向車線の車の音、彼の呼吸音。寝るつもりなんて無かったのに、ゆるゆると意識が緩んで解けていく。瞼が落ちて、そして世界は完全な闇に包まれた。

 薄れていく意識の中に、かちかちというウインカーの音と、微かな彼の笑い声が聞こえた。


2019/4/28

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