たくさんの言い訳を並べて

休日なのに珍しく早く起きた。うーんと伸びをして、リモコンに手を伸ばす。6月も下旬に入り、これからさらに暑くなるのかと思うとシンドイなぁなんて天気予報を見ながら考える。


『お、洗剤が特売』


朝食を食べながらチラシアプリでスーパーのチラシチェック。一人暮らしも4年経つと板についてきて、休みの日の特売は欠かせない。今日は洗剤とティッシュペーパーが安いらしい。これは買うしかない。


▽ ▽ ▽ ▽


特売だからと買いすぎてしまったようにも感じるけど、まぁ使うものだし、と自分を納得させる。洗剤のほかにもお肉がタイムセールしてたりと今日はラッキーデーだった。もう、お昼時。さて、お昼ご飯はどうしよう。


『…にしても、重いな』


洗剤にティッシュペーパー、食品も買ったから両手に袋。しかもかなり重い。早起きして朝食が早めだったからかお腹が鳴った。今猛烈に白ごはんが食べたい。白ごはんにあったおかずは何だろう…と考えながらやっと着いた自宅マンションのエントランスを通る。


『…おかず、何が良いかなぁ』


エレベーターがくるのを待つ。特売で買ったお肉があるから、それを調理しよう。味付けは、

「凛さん?」

『…ん?』


頭の中が昼食メニューでいっぱいだったのに、名前を呼ばれた。誰?と思いながら顔を上げると、ちょうど降りてきたエレベーターの中に数週間前、夕食を共にした彼が立っていた。


『あ…高橋くん』

「また会ったなぁ」


ふにゃとした笑顔を向けられ私も笑みを返す。彼は白Tシャツにジーンズ姿。足がすらっとしていて、見るからにスタイルが良い。羨ましい。


「荷物多ない?」

『今日、特売日で買いすぎたの』

「よぉ持って帰れたね」

『多分明日は筋肉痛』


あはは、と笑う高橋くんだけど、何だか顔は疲れている。忙しいのかな、と思っていたら彼の方から「俺、今日朝の5時に帰ってきてさっき起きたんよ」と一言。


『え、朝の5時?!』

「そー」

『帰ってきてから寝た?』

「まぁ、それなりに。で、腹減ったからコンビニ行こ思って」


今から数時間前に帰ってきたという彼に驚きの声をあげる。多忙だろうと思っていたけど、ここまでとは。


『ちゃんと寝れる時に寝て、食べれる時に食べるんだよ』

「…オカンみたいやな」

『そこはせめてお姉ちゃんと言って欲しい』


高橋くんと会って喋るのは3回目。なのに、わりとテンポよく会話が展開されていくのは彼のどことなくフワっとした雰囲気からなのか。見た目はめちゃくちゃ今どきのちょいチャラ目な感じなのに、喋ってみるとぽわぽわしている。


『じゃあ、』

「ちょい、ちょい、待ち」

『ん?』


気合を入れて重たい袋を持ちエレベーターに乗り込もうとしたら、高橋くんに止められた。疑問に思った瞬間、両手がフッと軽くなる。彼が私の重たい荷物を持ってくれたのだ。


「重いやん、玄関まで送ったるよ」

『え、良いよすぐだし』

「ええねん、ええねん。ほら8階押しや」


そう言われてボタンを押す。申し訳ないけど正直腕が限界だったのでめちゃくちゃ助かる。ありがとう、と伝えたら言い終わった後に「ぐー」と情けないお腹の音が響き渡った。


「…今のは凛さんのお腹の音やんな」

『高橋くんのお腹では?』

「濡れ衣や」

『すいません、私のお腹です』


恥ずかしくて手で顔を覆う。高橋くんの顔は見えないけど、くくくと笑っている声が聞こえた。恥ずかしい。


「凛さん、昼どうするん?」

『んー、特売のお肉で何か作ろうかと思ってたんだけどね』


そう言いながら高橋くんの顔を見た瞬間ピンときた。美味しく白ごはんを食べるならこれしかない。


『…生姜焼きにしよ』


以前生姜が好きだと言っていた高橋くんの顔を見ていたら思いついた。うん、これはもう決まりだ。生姜焼きで白米を食べる。付け合わせは昨日作ったポテサラとテキトーに味噌汁で良いだろう。うわ、絶対美味しい。脳内ですでに美味しいであろう生姜焼きを想像していたら、再び「ぐー」とお腹の音。


『…今のは高橋くんのお腹の音だよね?』

「凛さんとちゃうん?」

『濡れ衣』

「はは、ごめん、俺や」


笑いながらさっきと同じやりとりをしていたら、あっという間に自宅ドアまで到着。よいしょ、と高橋くんが持っていた重たい荷物を置く。こんなに腕が細くてもやっぱ男の子なんだよなぁなんて思ってたら「ん?」と不思議がられる。


『ごめんね、コンビニ行くところを』

「ええよ別に。まぁ凛さんのせいで、生姜焼きモードになったけど」

『生姜焼きモードって』

「下のコンビニで生姜焼き売っとったっけ?」

『んー、見たことない、けど』


下のコンビニはよく利用するからそれなりにお弁当の種類も把握している。生姜焼き、あったっけなぁ。無かったような気もする。無かったらまた高橋くんショックを受けるんじゃないだろうか。


『…あのさ、』

「ん?」

『…良ければ、食べてく?生姜焼き』


数週間前のデジャヴだ。つい言ってしまったのは、私が彼を生姜焼きモードにしてしまったから。コンビニには売ってないだろうから。疲れてそうな様子が気になったから。…なんて勝手に頭の中でたくさんの言い訳を考えた。



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