グラスにたくさんの氷を入れて、お土産にと持ってきたレモン酒を注いだ。凛さんはソーダ割り。マドラーでかき混ぜ、美味しそう!と目を輝かせてる彼女を盗み見た。
『じゃあ…高橋くんのツアー完走まで頑張れ!ってことで、』
「あはは、頑張れなんや」
『もう、いいでしょ、はい、かんぱーい!』
「乾杯〜」
ごくごくと飲み込むと爽やかなレモンの旨みが広がる。ん、うまい。凛さんも美味しい〜!と嬉しそうで一安心。用意してくれたつまみを食べつつお酒も進む。何だかんだでこうやってサシ飲みするんは初めて。まだ数回会っただけやのに、安心感があるのは自分の家の間取りとほぼ同じ空間だからなのか、はたまた相手が凛さんだからなのか。
『どうですか、初めてのデビューツアーは?』
「インタビューの人やん」
『印象に残ってる場所はありますか?』
「取材せんといてよ」
あはは、と楽しそうに笑いながらグラスに口をつける彼女を見つめる。すっぴんやといつもよりちょっと幼いな、とか。突然きた俺が言うのもなんやけど、長めのTシャツにショートパンツ姿でおるんは油断しすぎとちゃう?なんて。
『あれ、高橋くん明日仕事?だよね?』
「んー、昼から」
『あ、そうなんだ』
「凛さんは?休み?」
『うん、休み〜!だからたくさん飲んじゃいそう』
凛さんって酔ったらどうなんねやろ?なんて思ってしまう俺は下心が隠しきれてない。だってしゃあないやん、って誰にでもない自分に言い訳したり。いつからか凛さんとの連絡を優先してる自分に気づいて、ツアーでいろんなとこ回ってもお土産コーナーでは凛さんのこと考えて。それってなんか"特別"ってことだっていうのは馬鹿な俺でも知っとる。
『高橋くん、実家帰る時間とかあるの?』
「ツアー初日大阪やったからその時ちょっとだけ実家帰ったくらい」
『そっかぁ、忙しいとなかなか帰れないもんねぇ』
「凛さん、兄弟おるん?」
『急だね』
「いや、そういえば聞いたことなかったなぁと思って」
連絡先を交換してからたわいも無い話をしつつ、今思えば凛さんのことちゃんと知らへんなぁって。知りたいことがたくさんあって質問攻めの俺に疑問も持たず、お酒を飲みながら話が弾む。
『そっか、高橋くんお姉ちゃんいるんだ』
「そう。まぁ、仲は普通やけど」
『なんかわかる、高橋くん弟気質なとこあるもん』
「え?どこ?」
『ん〜上手くいえないけど、なんか、こう可愛がられる要素ある』
「じゃあ、凛さんも可愛がってくれる?」
ちょっとあざとく凛さんの顔を覗き込みながらそういうと、わかりやすく顔を赤くして反応する彼女に心の中で笑みを浮かべる。…あかん、手出してしまいそう。
『じゅ、十分可愛がってる方だと思いますけどね…!』
「あっはっは!!焦りすぎやって」
『高橋くん、今日なんか意地悪!年上をからかっちゃいけないんだよ!』
「はいはい、すんません」
『生意気〜!!もっと飲みなさい!!』
俺の空いたグラスにお酒を注いで、口を尖らす凛さん。アルコールのせいか普段よりも砕けた感じで話せているのが嬉しい。自分の家のように、むしろ自分の家以上にくつろいでソファーに深く座ると、視覚の端に見えた一冊の旅行本。
「凛さん、旅行でも行くん?」
『ん?ああ、9月の初めに休暇取れたから一人旅でもしようかなぁって』
「仙台?」
『そう〜。東北行ったことなかったから』
"仙台"と書かれた旅行本をペラペラとめくる。あ、ずんだシェイク。そういえば、俺らのツアーも次は仙台。あれ、9月の初めってもしかして?
「9月の何日に行くん?」
『9月9日から2泊3日で行く予定』
「マジか」
『え、なんかあった?』
スマホのスケジュールを開くと9月9日仙台公演の文字。凛さんの様子からして、ツアー日程とかぶってることは知らなさそう。
「俺も、その日仙台おるで」
『え、』
「9日からツアー、仙台公演」
『えっ!うっそ!?あ、だからホテル予約するの大変だったんだ…』
どこも予約埋まっててさぁ、と苦笑いしてる凛さん。同じ日に同じ場所におるって分かっただけでなんか嬉しいのはなんでやろ。俄然、次の公演が楽しみになった。
「どこ回るとか決めたん?」
『いや、1人だし気になったところをゆるく旅行しようかなぁと』
「牛タンはマストやな」
『当たり前でしょ〜』
スマホのスケジュール画面を閉じて、連絡アプリを開く。マネージャーに「一生のお願いがあります」とメッセージを送って、返信を待つ。普段の俺やったらこんなことせんのに。ちょっと酔ってんのかな?と思いながらも楽しそうに笑う凛さんから目を離せずにいた。
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