『…チケット、チケット』
鞄の中から貰ったチケットを取り出す。普通はQRコードをかざしてからチケットが発券されるらしいけれど、今回は関係者用チケットなので貰ったチケットを直接入り口スタッフに見せ無事に開場入り。
『西スタンド…ってこっちか』
小さく独り言を言いながらチケットと座席を睨めっこ。会場内に入って目を見開く。すごい。ハート型になってる!!と大きい声を出しそうになってグッと堪えた。生で見る彼らのライブ会場は息を呑むものがあって、手をぎゅっと握る。
『西スタンド、G列、10番……え、』
チケットに記載された座席を探し出し、身体がピタッと止まった。まさかのスタンド席最前。見晴らしが良いにも程がある。待って待って、私こんな良い席で良いの??混乱する頭を整理する暇もなく、ゆっくりと座席に座ってスマホを取り出した。

凛
ねぇ、待って、スタンド席の最前列って。これ、めっちゃ良い席なんじゃないの?なにこれ?大丈夫??
連絡したのはもちろん高橋くん。ここには彼のファンが大勢いる。わからないだろうに少しビクビクしながらスマホの画面を隠してLINEを送った。開演まであと30分。準備もしているだろうし私のメッセージは見れないかもしれないけど、さすがの私もこの状況にそわそわしてしまって落ち着かない。
ペットボトルのお茶を一口飲み、きょろきょろと周囲を見渡すとスマホが震えた。

恭平
お、スタンド最前やったん?俺からファンサもらい放題やな

凛
いや、高橋くん絶対座席知ってたでしょ

恭平
ん〜?どうやったかな?
ま、凛さん見つけられたら手振るな
チケットをくれた高橋くんは絶対この座席ってわかっていただろうに。良い席すぎて申し訳ないと思いつつ、ありがとう、頑張ってね。とメッセージを返した。
座席がどんどん埋まっていき、ほぼ満席。ちらほらとペンライトをつける人たちが増え、初めて見た光景に『綺麗…』と独り言が漏れた。約束したし、と恥ずかしい気持ちもありながら私も紫色を照らす。どうしよう、ドキドキしてきた。
ペンライトを両手に握りながら、開演時刻になると暗転。映像が流れ出した瞬間、会場中が夢中になった。
『……わぁ、』
大きな歓声を上げることができない環境なのがもどかしいと思っているのは、きっとここにいる全員で。ステージからジェット機が出てきたと思えば、そこから降り立つメンバーたち。キラキラした衣装を見に纏った高橋くんに私の目は釘付けになった。
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『…すごかったな、』
規制退場のため、アナウンスを聞きながらへたりと座席に座り込む。彼らのパフォーマンスに圧倒され、ファンへのサービスも盛りだくさん。私はずっと高橋くんを目で追ってしまって、胸がドキドキ。…と、共に少しざわつく何かを感じて。アイドルをしている高橋くんを初めて目の前にしたから、なんというか、なんとも言えない気分だ。
『どうしよ、』
ライブが終わったらすぐに感想送ろうと思ったのに。スマホを握りしめながらなんて送ったら良いか迷っていると退場のアナウンスが入ったので重い腰を上げる。会場を出たらバス乗り場まで歩き、すぐに数台あるシャトルバスへと乗り込んだ。
『……アイドルだったな』
私の小さな独り言はライブの感想を楽しそうに話すファンの子たちの声にかき消された。わかってたはずなのに。高橋くんはアイドルだって。今をときめく人気アイドルだって。わかってたのに。
脳裏に浮かぶのは一緒にご飯を食べて美味しいと笑った高橋くん。夜中にコンビニに行くのを不機嫌そうな顔で咎めた高橋くん。ライブチケットを恥ずかしそうに渡してくれた高橋くん。今まで接してきた彼の顔が次々浮かんで、泣きたくなる気持ちを抑え込む。
あぁ、どうしよう。
高橋くんって本当にアイドルだったんだ。
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