口が滑ってしまったが最後


大阪出張から帰ってきた今日は土曜日。やっと休みだー!と朝寝坊して10時前に起きた。昨夜も安定のオンラインゲームを楽しんで寝たのは遅い時間。もそもそと布団から出て大きな欠伸を一つ。今日は特に予定もないから、忙しさにかまかけてサボっていた部屋掃除でもしよう。


『んー、だんだん暖かくなってきたなぁ』


6月初旬。少し暑さを感じながらも、寒がりな私にとってはこれぐらいが丁度良い。スマホでニュースを見ながら、参考程度に星座占いをチェック。今日のラッキーアイテムはカレーライスらしい。


『…カレーの口になっちゃうよねぇこれ』


最近カレーライス作ってなかったなと思うと共に、食べたくなってしまうのは何故だろう。よし、今夜はカレーに決まりだ!と意気込んで部屋掃除を開始した。


▽ ▽ ▽ ▽


『…なぜ』


夕暮れ時、グツグツと煮えた鍋を見ながらポツリと一言漏れる。一人暮らしだというのに、目の前には鍋いっぱいにあるカレー。忘れていた、私はカレーを作ると作り過ぎてしまうのだ。一人暮らしあるあるなのかもしれないけれど、この量を1人で食べ切るには後何日必要なんだろう。


『んー、でもめっちゃ良い匂い』


食欲を掻き立てるカレーの匂いに気分が弾む。炊飯器でお米も炊いてるし、冷蔵庫にはビールが冷えている!最高!カレーを楽しむ準備はできた!…と思ったのに。福神漬けがないことに気づいてテンションが下がる。


『カレーに福神漬けないのはダメだ…』


早く食べたい気持ちを抑え、仕方なしに下のコンビニへと向かう。そもそもコンビニに福神漬けあるのかな?無かったら10分くらいかかるスーパーか?でも早くカレー食べたい…とぐるぐる独り言を脳内で巡らせ、気づいた頃にはコンビニの入り口。


『お、あった!』

「え、カレーないやん…!」


私の小さな独り言と、誰かの声が被った。福神漬けを手に取り、少し距離があるけれど左側に佇む人に視線を向けた。黒髪、長身…猫背。あの人はもしや。



「え、待ってカレーないん?うそやん、え、無理…」


そう言いながら項垂れている彼をじーっと見つめていると、私の視線に気づいたのか俯いていた顔がこちらに向く。


『「あ、」』


再び声が重なって、時が止まる。この状況的に彼も私のことを覚えていたのだろうか。コーヒーを譲っていただいたのはもう数日前。忘れていても仕方がないけど、次の言葉を発さない私に彼は苦笑いしながら「すんません、」となぜか謝る。


『あー、いえ、別に』


つられて苦笑いで返事をしたところで、思い出した。私は彼にコーヒーを譲っていただいたことのお礼を言っていなかったのだ。相手は忘れているかもしれない、けどお礼はしなくては。


「あの、」

『はい?』

「…コーヒーのおねぇさんっすよね?」


こちらの様子を伺うように捻り出された言葉は、あの彼と目の前の彼が合致したことの証明だ。慌てて、そうです!と言った声が思った以上に大きくてパッと口を押さえる。


「あー、よかった。知らん言われたら気まずーと思っとったから」

『あの時はコーヒーありがとうございました』

「いえいえ」


お互いぺこぺこと頭を下げ合う2人は、店員さんから見たら変な光景なんだろう。お礼も言えて良かった、と満足していたら彼は私の手元をじっと見ている。


「福神漬け、」

『え、あ…夕食にカレー作ったんですけど福神漬け無くて買いに来たんです』


少し恥ずかしくて、笑いながら伝えると目の前の彼は小さく「カレー…」と呟いた。あれ、そういえば。私の聞き間違えでなければ彼は先ほどカレーが置いてないことに心底がっかりしていたのではなかっただろうか。その証明として「カレー…ええなぁ」と独り言が聞こえる。


『…カレー食べたかったんですか?』

「そうっすね、カレーの気分やったんやけど…まさか、売り切れとは」


めちゃくちゃ凹んでる彼を見たら、ついポロッと言ってしまった。


『うちにカレー食べに来ます?』


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