真凛ちゃんの「奈那と駿、一緒に住んだらえぇやん」の一言に固まる私と駿くんをよそに、何やら他のみんなは大盛り上がり。
「せやなぁ、奈那ちゃんも一緒やったら家事できない駿の一人暮らしも安心やし」
「こっちも駿くんおったら、セキュリティ万全なところで安心やわ」
いやいやいや、お母さんたち何言うてんの!って突っ込む間もなくキャッキャと盛り上がっているから私も駿くんも口がポカーンと開きっぱなしだ。
「さっき言うててん。駿、家事なんてもっぱらできひんし、一人暮らし心配でしかないわぁって」
「奈那と一緒に住めば駿はある程度の家事分担できるし、奈那はセキュリティ万全なところに住めるしwin-winやん」
「ねぇちゃんたち、ホンマ何言うてんの…」
『セキュリティ万全なところに住めるのは魅力的だけど、さすがに家賃払えないよ、無理無理』
私がそう言うと、一瞬何かを考えた真凛ちゃんが急に「駿、夏美、ちょっと来て」と駿くんと夏美ちゃんを連れて洗面所へと向かった。
「奈那ちゃんが駿と一緒に住んでくれたら私も少しは安心できるねんけどなぁ」
『いやいや、流石に一緒に住むのはねぇ』
「でも奈那、ホンマに引っ越すならセキュリティしっかりしたところにせんと。また怖い思いするかと思うと私も安心できひんわ」
残された母たちとコーヒーを飲みながら、チラッとテーブルの上にある紙を見る。どうやら駿くんが住む家の候補の賃貸情報らしい。全てが2LDK、駅徒歩圏内、セキュリティ超万全。家賃の金額に飲んでいたコーヒーを詰まらせそうになった。…芸能人すっげぇや。
「奈那、家賃の心配ならいらんで」
『え、なに、真凛ちゃん』
洗面所から戻ってきた道枝3姉弟。駿くんがどう見てもやつれている。家賃の心配がいらないとは?と頭にハテナを浮かべていたら真凛ちゃんが続けてこう言った。
「今、駿にも話してんけど。奈那が家事多めにやってくれるんやったら家賃出さんでええって」
『え?ん?どういうこと??』
「駿も奈那と一緒に住むの、OKやって」
『えええええええええ!!?嘘でしょ!!??』
驚きのあまり、椅子から勢いよく立ち上がる。先程まで断固拒否していたはずの駿くんが何故!!と視線を送ると少し気まずそうに苦笑いをしている。…昔から姉に逆らえないもんね…
『いや、ちょっと駿くん一旦冷静になろ??』
「奈那が落ち着きぃや」
『真凛ちゃん、さすがにこの件に関しては姉の権力使っちゃまずいって!』
「家賃なしでセキュリティバッチリの家住めるんやで?しかも都内で駅から徒歩数分。こんな好条件ないで?」
『いや、でもさすがに駿くんと一緒に住むのはさぁ…』
困ったなぁとため息をつくと、まさに叱られた子犬のような顔をした駿くんと目が合う。
「奈那ちゃんは俺と一緒に住むの嫌なん?」
『…いや、駿くんが嫌とかではなく』
「これからデビューして仕事忙しくなるし、家事苦手やから、一人暮らしちょっと不安やねん」
『う…!』
「奈那ちゃん、おってくれたら嬉しいねんけど…あかんかな?」
私よりはるかに長身なはずなのに、うるっとした瞳に見つめられると私は弱い。昔からこの顔の駿くんに弱いのだ。何度お菓子をあげて怒られたことか。
『でも、ほら、さすがにさ?私とはいえ女と一緒に住むのは、事務所的にNGでは…?』
「親戚ってことにしたらえぇよ、な」
『真凛ちゃんママ、楽しそうに言うね…』
5対1という圧倒的に不利な戦い。駅徒歩圏内、2LDK、2階以上のセキュリティ万全なマンションに家賃なし。家事なら1人分も2人分もそう変わらない。どうしよう、どう考えても好条件すぎる。
「このマンション、奈那ちゃんの会社から近いんよな?」
『駿くんがなぜ、それを…!』
「あと、バルコニー付きやで、ここ」
『うわぁ、いいねぇ、バルコニー…って違う違う。ちょ、駿くん、ちょっと、きて!』
駿くんの腕を引っ張ってリビングから出てドアを閉める。ふぅっと一呼吸おいて彼を見上げた。
『本気で言ってる?』
「本気やで」
『真凛ちゃんや夏美ちゃんに強制されて…って言うなら、私からしっかり断るし』
「まぁ、初めは何言うてるんって思ったけど。よぉ考えたら俺にとっても家事してもらえるんはありがたいし」
『…確かに、私も家賃なしはめちゃくちゃありがたいけど、』
「それに、」
少し声が低くなった駿くんを改めて見つめたら、彼は照れくさそうにこう言った。
「奈那ちゃんがまた一人暮らしして怖い思いするかも、と思ったら心配して仕事に集中できひんもん」
その言葉に何故か胸がドキリとして、顔に熱が集まる。慌てて手で顔を覆うと、駿くんは不思議そうにしていた。あなた、自分の顔面の良さを自覚してください…
『本当に、本当にいいの?』
「うん、俺は大歓迎」
まさかまさかの展開。
わたくし、晴れて?駿くんと同居する運びとなりました。
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