幼馴染の弟君からのグレードアップ?



「息抜きできました?」
「…おかげさまで」


今日は朝からドラマの撮影。そして奈那ちゃんの引越し日。どうにもこうにもそわそわしてるのがマネージャーさんにバレて、休憩時間に自宅へ戻りたいとお願いしたのはついさっきのこと。絶対に1時間で戻れるなら、という条件付きで自宅に戻り、奈那ちゃんの引越しが無事に完了したことを確認できて一安心。



「顔、ニヤけてますもんね」
「いや、ほんま、どうしよう、俺」
「現場着くまでにはどうにかしてください」
「うわ、辛辣」


引越し先を決めた時、マネージャーには「親戚の子と同居する」と伝えて。伝えたんやけど、即「彼女ですか?」と聞き返されて、めちゃくちゃ慌てた。
その様子から意味ありげに笑われて「…彼女、ではないねんけど」と濁したのも気にせず「あぁ、片思い的なアレですか」と笑うマネージャーを前に自分が情けなくなった。特に文句も言われず了承されたのは奇跡に近い。
あの日、姉ちゃんと奈那ちゃんが大阪に帰ってきた日から、こんなことになるなんて思ってもみなかった。

.
.
.
.
.
.
.

「駿、夏美、ちょっときて」


奈那ちゃんが俺の家に来て驚いたあの日。何故か同居話が持ち上がり、心底自分の姉のテキトーさに呆れていたら、ほぼ強制的に姉に呼ばれリビング近くの洗面所へと押し込まれた。


「駿、よく聞きや」
「何やねん」
「今、あんた人生で1番のチャンスやねんで?」
「はぁ?」
「はぁ?とちゃうわ!この際やから言うけどな?あんたいつまで初恋拗らせる気なん?」
「ぬぁっ!?はぁ?!はつ、初恋?!」


姉の言葉に思わず大きな声をあげそうになったけど、すぐ近くに奈那ちゃんが居ることを思い出し、必死に声を抑えた。


「あんたが奈那のこと、ずーっと好きなん知ってんで」
「え、いや、」
「なんなら元カノも奈那ちゃんと雰囲気似てるっていう拗らせ具合やもんな」
「や、なんで、それ、えぇ?」


バクバクする心臓と共に、身体中変な汗が止まらない。いや、ほんま何なん、この人ら。いや、俺の姉ちゃんやねんけど。


「奈那なぁ、震えててんで?」
「え?」
「昨日、隣に空き巣入ったって電話で喋ってた時声震えてとって怖い思いしたんよ。夜もな、怖かったんかあんまり寝られへんかったみたいで」


姉の言葉を聞いて、奈那ちゃんが怖い思いをしたという事実に胸が痛む。


「好きな人、そんな危ない場所に住まわせたまんまでえぇの?次は奈那の家が狙われるかもしれへんねんで?」
「そりゃ、どうにかしたいとは思うけど…」
「「せやったら、一緒に住んだらえぇやん」」


姉2人のぴったりな声にうなだれる。今、奈那ちゃんが求めている物件は、俺が探して迷っている物件と条件がぴったり合う。わかってる。けど、さすがに一緒に住むんは、こう、色々と、問題が…


「奈那もはよ引っ越したい気持ちはあんねん。でもセキュリティー良いとこやと家賃高いやん、都内」
「まぁ、せやね…」
「駿と一緒に住んだら家賃も割り勘…いや、あんたアレやろ?住宅補助でるんちゃうん?」
「いくらかは…っていうか、別に家賃はさぁ、元々全額自分で払う予定やったし、」
「あー、じゃあ、あれや。少し奈那に多めに家事やって貰うことにして、その代わりに奈那は家賃なしで同居!これが1番えぇやん?」


えええええ、という自分の声が脳内に響く。もはや何で俺の密かな初恋を姉達が知っているのかとか吹っ飛んで。確かに一刻も早く奈那ちゃんには安心できるところに住んで欲しい。でも、同居?俺と?


「あれやで、一緒に住んだら疲れて帰ってきた時に"駿くん、おかえり"って言うてくれるんやで?」
「…え、」
「うわっ、きっしょ、すぐニヤけるやん」
「っな!姉ちゃんの奈那ちゃんの真似が下手くそすぎて引いただけやし!」


一瞬、ほんまに一瞬だけ。その光景を想像してニヤけてしまった。いやだって、そんなん控えめに言って最高すぎるやん。


「奈那ちゃん、可愛いからすぐ彼氏できて一緒に住むことになるやろうなぁ?」
「せやなぁ、奈那は家庭的で家事上手やし、嫁にしたいって言う男はいっぱいおるやろうし?」
「彼氏できて一緒に住むってなったら、奈那ちゃんすぐ結婚してまうかもなぁ?」
「そうなったら、駿ももう1ミリも可能性なくなるな、どんまい」


煽られていることはわかってる。わかってんねんけど、今手を伸ばせば届きそうな距離にいる奈那ちゃんが他の男と一緒に住む?結婚?…想像しただけではらわたが煮え繰り返しそうや。


「…でも、奈那ちゃんは俺と住むの嫌かもしれへんやん」
「それはあれやん、必殺技あるやろ」
「必殺技?」
「奈那はあんたのお願いする目に弱いねん、昔からそうやったやろ」


そこからの展開は凄まじく。意を決してお願いしたら、奈那ちゃんはぎこちなく申し訳なさそうな顔で渋々承諾してくれた。
え、ほんまに一緒に住めるん?色んな意味で俺大丈夫やろか?と今更ながらに混乱する俺に、姉ちゃんがコソッと耳打ちをする。


「ま、幼馴染の弟くんから抜け出せるように頑張りや」
「…余計なお世話や、あほ」


恩人のお姉さまに何言うとんねん!ってどつかれたのは言うまでもない。

>> list <<