一瞬で目が奪われる

2021年も残り1ヶ月を切り、今は仕事終わりに1人でショッピング中。先日出た冬のボーナスで自分へのご褒美と、駿くんに何かクリスマスプレゼントでも…と考えているけれど、何を買ったら良いのやら。


『駿くんの好み…知らないしなぁ』


メンズものも置いてあるお店や雑貨、アクセサリーなど色々見てもコレ!ってものに出会えない。自分へのご褒美のクリスマスコフレはしっかりGetしたけれど、駿くんへのクリスマスプレゼントが見つからず歩き回っていると、あっという間に真っ暗になってしまった。


『一緒に買い物行ければ簡単だけど、無理だしなぁ』


デビューしたばかりで人気絶頂の駿くんと一緒に買い物なんて無理な話で。同居話が出た時に「一緒に外に出歩かない」というルールを自分に課した。どこで誰に撮られるかわからないから。


『…コーヒーでも飲むか』


冷たい風に当たって体も冷えてしまったので、マフラーをしっかり巻き直してから某コーヒーショップへと足を進める。
引っ越してから、もう少しで1ヶ月。駿くんは相変わらず忙しくていまだにホテル暮らし。年明けに少しだけお休みがあるようで、その日に一気に自宅へ荷物を運ぶ予定らしい。今は年末恒例の歌番組に引っ張りだこなので、たまーに自宅に顔を出してくれる程度で正直一緒に住んでる感じはない。


『カフェラテのホットひとつと、ベーコンとほうれん草のキッシュひとつ』


コーヒーショップに入り、注文をしてカフェラテとキッシュを受け取る。今日は仕事が忙しくて昼ごはんが少し遅れたため夜になってもそこまでお腹が空かないから、キッシュを晩御飯代わりに。窓側のカウンター席が空いていたのでカバンを置き、温かいカフェラテを一口飲み込めば寒さが少し和らいだ。


『クリスマスプレゼントねぇ…』


キッシュを咀嚼しながらスマホと睨めっこ。恋人とも友達とも言えない私と駿くんの関係性でクリスマスプレゼントは何をあげたら良いのだろうか。そもそも渡して迷惑…ではないよな?と不安に襲われる。
こういう時は救世主!と駿くんの姉、真凛ちゃんに相談メールを送った。即既読になったと思ったら返信内容は私をさらに悩ませるもので。


『"奈那からのプレゼントなら、そこら辺の小石でも喜ぶよ" って…』


弟に対して当たりの強い真凛ちゃんのアドバイスは残念ながら役に立たなかった。うーん、と悩みながらスマホで検索しているとブブブ、とバイブ音が鳴り着信の表示。…駿くんからだ。


『もしもし?』

〈奈那ちゃん、前見て〉

『前?』


不思議に思いながら、視線を前に向けると窓ガラス越しに見えたロングコート姿の駿くん。え!!と大きな声を出しそうになり、慌てて口元を押さえた。


『びっ、くりした…』

〈あはは!俺もビックリしてんで、コーヒー買って外出たら奈那ちゃんおるんやもん〉

『駿くん、仕事は?』

〈ん?これから取材と打ち合わせ。今、マネージャーさん待ち。奈那ちゃんは?仕事終わったん?〉

『うん。仕事終わって、ボーナス出たから自分へのご褒美と駿くんへクリスマス、…あ』


駿くんへクリスマスプレゼントを、と言いそうになり慌てて口を閉じる。別にサプライズ、ってわけじゃないけどなんだか恥ずかしくて。急に黙った私に駿くんも不思議に思ったのか〈ん?俺が何?〉と聞き返されてしまった。


『えっと、あの…つかぬことをお聞きしますが…』

〈え?どしたん?〉

『…駿くん、今何か欲しいものある?』

〈…ほしい、もの〉


私の急な質問をゆっくり繰り返した彼は、私が先ほど言おうとしていたことを理解した様子で。え〜?何、急に?と言いながら少しふにゃっとした笑顔が窓ガラス越しに見えた。うん、駿くんへのクリスマスプレゼント買おうとしてるのバレちゃったな。


〈え、アレやんな?あの、俺の勘違いやったら恥ずかしいねんけど…〉

『いや、多分駿くんの考えであってます…』

〈え〜そんな、なんか気ぃ使わんでえぇのに〉

『なんか恥ずかしいから、とりあえず何欲しいかだけ教えてもらっても良いですか…』

〈はは、急な敬語!〉


ケラケラ笑って楽しそうな駿くんとは反対に、私は恥ずかしさで顔を覆う。悩んでもわからないんだから、もう本人に聞いてしまえ作戦だ。


〈あ、マネージャーさんきた〉

『え!?』


パッと顔を上げると目の前の道路には黒いバンが停まっていて。マネージャーさん、タイミング悪いよ〜!!と思いながらも、お仕事だから仕方ない。


〈強いて言えば、〉

『ん?』

〈寒いから、マフラー欲しいな〉

『マフラー…』


窓ガラス越しに見える駿くんが、ふわっと笑ってこちらを見ている。なんだか時が止まったかのように私はただ見つめ返すことしかできなくて。


〈じゃあ、仕事行ってくるな〉

『あ、うん、行ってらっしゃい…』

〈いってきます。奈那ちゃんも気をつけて帰るんやで。家着いたらメールしてな?〉


駿くんが小さく手を振って、車に乗り込んだのを見送る。そっか、マフラー。マフラーなら駿くんに似合うのが見つかりそう。そう思いながらスマホをテーブルに置き、少し冷めたカフェラテを飲み込んだ。



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