ガーデンへ続く


駅に着く前に列車から飛び降り、一足先に森の入り口で皆を待っていた。久しぶりにやった無賃乗車。SeeDになってからはこれが初めてだけど、候補生時代はこんなこともちょくちょくやっていた。勿論バレた事は一度もない。これは自慢。

「あ、きたきた。おーい!」

駅からぞろぞろと降りてきた人達を確認して、私は大きく手を振った。それに応えてくれたのは、ブンブンと手を振って飛び跳ねてるセルフィのみ。

(もうちょっと反応してくれてもいいじゃないか…)
「ファーストネーム凄かったよ〜!今度やり方教えて〜」
「セルフィ、ファーストネームを調子にのらすような事言わないの」

コツンとセルフィの頭を叩くキスティス。

「……」
「…なによ、スコール。本当にSeeDかよみたいな目して」
「…別に」
「(別にじゃないでしょ…絶対)ま、いいけど。じゃあ行こうか」

先頭きって、私は森の中へと足を運んだ。学園東の駅の西にあり、ガルバディア・ガーデンへと続く森。森と言ってもそれほど大きくはない。普通に歩いて15分もあれば抜けられる森だ。舗装されている、とまでは行かないが、人が3人程並んで歩けるくらいの道もちゃんとある。皆、黙ったまま森を歩いていた。

「ガルバディア・ガーデンはもうすぐよ!」

キスティスが森の先を指して言った。モンスターにも出会わずここまで順調に来ている。

「今更だけどさ〜、ガルバディア政府からよくない連絡入ってるかもよ。いきなり捕まっちゃって、世界に放送されちゃったりして」

セルフィの言葉もあながち否定できない。ガルバディア・ガーデンはガルバディア政府との繋がりが強い。多分、知らせももう届いているはずだ。

「そんときゃ、そん時でいいだろ!早く行こうぜ!オレ、バラム・ガーデンの様子が知りたいんだ。…ガーデンに何かあったらオレのせいだ…」

歩いてたゼルの足が止まった。俯き、拳を握って震えている。私達がガーデンから来たことを言ったのはゼルだから、責任を感じてるんだろう。

「な、あの大統領、ガーデンに報復するかな?」
「かもな」
「…だよな。で、でもよ、バラム・ガーデンにはSeeDも大勢いるもんな!ガルバディア軍に負けたりしないよな?」
「ガルバディア軍の戦力にもよるだろ?」
「そうだけどよ…」

あくまで冷静にゼルの言葉に応えるスコール。でも、それが彼女の癇に障ったらしい。

「素晴らしいリーダーね。いつでも冷静な判断で仲間の希望を否定して楽しい?」

スコールにつっかかるリノア。

「ゼルはあなたの言葉が欲しいのよ。大丈夫だ、とか、頑張れとか。そういう言葉があればゼルだって…」

それを顔を背けて聞いているスコール。聞き流してる、訳じゃないと思う。

「そういう言葉が、仲間の勇気や元気になるんだから。それくらい分からない!?」

顔を背けて何も言わないスコールに次第に腹を立てたのか、リノアが声を荒げた。

「ねえ、スコール!」

そろそろ止めに入ろうとした時、いきなりスコールが頭を抱えだした。

「―ッ」
「スコール!?」

私の呼びかけに答えもせず、スコールは膝を付いた。そのまま倒れそうになるのを、懐にもぐりこんで受け止めた。

「うっ…」
「あ…あたしも……」

スコールと同じ様に、いきなりその場に倒れ込んだキスティスとセルフィ。

「どうしたの?!」
「きっと…あっちの世界に行ったんだと思う」
「あっちの世界?」


***



「そんな事があったの…」

ゼルの話によると、ティンバーへ向かう列車の中で同じ様な事が起こったらしい。ラグナ・キロス・ウォードというガルバディア兵が出てくる夢。その夢をその場に倒れたみんなが見ていた…という事があった、と。特に体に異変が起きることもなく、本当にただ夢を見るだけだが、どうしてこんな事が起きたのかは分からないみたいだ。
兎に角、3人が起きないと先に進めない。目覚めるまで、私達も小休憩を取ることとした。木の幹にスコール達を凭れ掛けさせ、私もその場に座り込んだ。
静かな森の中。時々鳥の声が小さく聞こえる程だ。

「ファーストネーム…」
「ん?なに?」
「ファーストネームはどう思ってるの?」
「どうって…サイファーの事?それともガーデンの事?」
「両方…」

真剣に私の顔をみて言葉を待つリノア。

「…SeeDとしてなら、私はスコールと同じ意見だよ」
「SeeDとしてなら?じゃあ、ファーストネーム自身は?」
「私自身は…やっぱり無事でいて欲しいって思うよ。サイファーも、あいつならなんとかするって思うし、ガーデンも何かあっても皆がいるからって思う。…でもね、私達はSeeD。任務において、私情を持ち込んではいけないの」
「そうだとしても、気持ちは抑えられるものじゃないでしょ?誰かを心配したり、助かって欲しいって思う気持ちは」
「…でも、それをしなくちゃいけないの」

納得できない顔のリノアを諭す様に言葉を続けた。

「仲間を信じてない訳じゃないんだ。ただ、最悪の状態を意識し、そうならない為に今何をすべきか考える冷静な判断をもっていなきゃいけない。常に生死が付きまとうSeeDの任務で、私情は自分だけじゃなく仲間まで巻き込んでしまうから。それは、レジスタンスに属してるリノアにも分かるでしょ?」
「……うん」
「スコールも、そういう意味で言ったんだと思うよ。彼、言葉少なくて冷たく感じられるかもしれないけど、決してそれだけじゃないと思うんだ」

彼の言葉は自分に言い聞かせている様にも聞こえるから。

「…でも、リノアのそういう気持ち…素敵だと思うよ」
「え?」
「素直でまっすぐで…その心が気持ちを奮い立たせる事も事実だし」

そうだよね、とやっとリノアが笑った。

「スコールも、ファーストネームくらいフォローできる言葉があればいいのに…」
「フォローする…スコール」

諭す様に、優しく語るスコールを想像して…思わずプッと吹いてしまった。ゼルも同じ事を考えてたのか、俯いたまま肩を震わせている。

「なんか…今のスコールからは想像できないね」
「オレ、なんか鳥肌立ってきた」
「そこまで?」

アハハと3人で笑った。緊迫した空気が続いていて、いい感じに力が抜けたみたいだ。

「今の話はスコールには内緒ね」
「言わないよ。言ったら凄い睨まれそう」
「いや、あいつなら呆れた目で見てきそうだぞ」

ふと横をみると、安らかな顔をして眠るスコールの顔がある。本当に、憎らしい程綺麗な顔をしている。私はそんな彼を見て、なぜか笑みがこぼれた。

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