ィンバー脱出


あの後、リノアの知り合いで森のキツネというレジスタンスの首領宅に一旦避難する事になった。大統領が襲われ、今街中にガ兵が行き来している。顔がわれてしまった私達が今出て行けば、取り押さえられるのが目に見えている。余熱(ほとぼり)が冷めるまでやっかいになる事にした。
首領宅の二階に通され、壁に背を預けたりベッドに寝転んだり、皆各々で体を休めながら、キスティスが事の経緯を説明した。

「サイファー、どうなるのかしら」
「もう殺されてる可能性もあるな」
「そんなにあっさり言わないでよ。なんか、あいつ…かわいそう」

キスティスの言葉に冷静に返すスコール。だが、リノアはそれを可哀想と言った。

(サイファーが可哀想…か。でも、それが普通の感覚なのかもしれないな)

「ねえ、どうしてサイファーは死んでるかもって思うの?」
「…ガルバディア大統領と魔女は手を組んだ。その大統領をサイファーは襲った。魔女にとってもサイファーは敵だ。だからサイファーがあの後始末されたとしても不思議じゃない」
「そうだとしても!生きててほしいって思うよ!」
「…期待しなければどんな事でも受け入れられる…傷が浅くてすむ。まあ、あんたが何を望んでも俺には関係ないけどな」
「……やさしくない。やさしくない!!」

呆れた様に悪かったな、と呟くスコール。
確かにスコールの言葉は冷たいのかもしれない。でも可能性としてはあってもおかしくない事。そういう最悪の状態を常に意識していなくてはいけない。SeeDは…私情に流されてはいけない。
それから首領が常駐部隊のガ兵以外は引き上げた事を知らせてくれた。ティンバーを出るなら今しかない。1階に降り、スコールが先頭をきって出ようとした時、キスティスが声をかけた。

「班長!行くあてはあるの?」
「とにかく街を出ればいいって問題じゃないもんね」
「…どこか心当たりがあるのか?」
「ガーデン関係者心得第8条7項」

所属ガーデンに帰還不能等の緊急時、ガーデン関係者は速やかに最寄のガーデンに連絡すべし。候補生の時に叩き込まれる項目の一つ。でも8の7と言われてすんなり出てくる生徒は少ないだろう。

「…最寄のガーデン」

だが、さすがスコール。SeeDになって1日で任務を任されるだけある。すんなりと答えを導き出したみたいだ。

「Very good!ここからならガルバディア・ガーデンね」
「ガルバディア・ガーデンか。…苦手なんだよね…」
「ふふ、そんな事言ってられないわよ」
「そうなんだけどさ〜」

はぁ〜、と溜息を吐くとキスティスはクスクスと笑った。
列車で学園東へ向かい、そこから西に行ったところにある森を通ってガルバディア・ガーデンへ向かう事に決定し、私達は匿ってくれた首領さん達にお礼をして、学園東方面行きの列車ホームへ向かって走った。
街に出れば、ガ兵がこちらに向かって走ってくる。見つかったか?!と、思ったがそれはガ兵に変装しているリノアの仲間でワッツという人だった。彼の情報だと、もうすぐ学園東行きの列車が出て、それから一時列車が閉鎖されるそうだ。そうなる前にティンバーを出なくてはならない。ワッツと別れ、ホームに向かって走った。

「リノア、スコール班長!俺だ!」
「ゾーン!」

駅のホームへ続く渡り通路の前に立っていた老人が声をかけて来た。ゾーンと呼ばれたその人もリノアの所属するレジスタンスのメンバーの様だ。

「学園東行きの列車に乗るんだろ?でも、パスは手に入らないぞ」
「しっぱ〜い!」
「無理矢理にでも乗り込むさ」
「そんな事しなくていい。騒ぎは起こすな。へへん!ゲットしといたぞ、みんなのパス」

ポケットから出した数枚のパスチケット。それを順に渡していくゾーンさん。リノアにティンバー班の3人に、そして―。

「最後の一枚は俺の…」

そういった時、私達と目があった。ビックリした表情をするゾーンさん。そりゃそうだろう。いきなり二人増えてる?!って思ったに違いない。

「私は大丈夫だよ。何とかするから」
「何とかって……あなた、まさか」

呆れた顔になるキスティス。

「キスティスも一緒にどう?」
「あんな事できるのは、あなたくらいよ。私は別の方法を考えるわ」
「それなら、あんたはこれを使いな」

ゾーンさんがそう言って手に持っていた最後のチケットをキスティスに渡した。

「受け取れないわ。あなたのパスでしょ?」
「うっ!」

いきなりお腹を押さえ、道の端で蹲りだしたゾーンさん。

「イテテテテ!腹が痛い!イテテ…早く行け!列車が出発するぞ」
「…ありがとう」
「ゾーン。また会うんだからね。ちゃんと、生きてないとダメだからね。一緒にティンバー独立させるんだから」
「わかってるって。便所にでも隠れてるさ。早く行けよ」

ゾーンさんの言葉に押されて、リノア達はホームに向かって走り出した。

「アンタ、どうするつもりだ?」
「フフ、心配しないで。すぐに追いつくから」

そう言うと、スコールは何も言わず皆の後を追った。

「……本当にどうするんだ?まさか、走って行くつもりか?」
「さすがにそれはしんどいから嫌よね」
「じゃあ…どうするんだ?」
「そりゃ…乗るしかないわよね」
「でも、パスは―」

ニヤリと笑って、私は手持ちの万能薬を一つ渡して、街の外へと足を進めた。



***



「う〜〜ん!風が気持ちいい!」

背伸びをして佇む。オーベール湖を背にした草原で目的のものが見えるまで待っていた。

(…サイファー…あいつの事だ…きっと、なんとかする)

自分に言い聞かせる。彼もSeeD候補生。自分勝手な所はあるが、その行動力はSeeDに匹敵するものだ。だけど、最後に見た彼の姿が不安を過ぎらせる。哀しく微笑んだ…彼の顔。
そう思った時、ティンバーから汽笛の音が聞こえた。最後の列車が出たんだ。私は準備体操を始めた。

「さて、――いきますか!」



***



『ティンバー発、学園東行き列車まもなく発車いたします』

アナウンスと共に、列車がゆっくりと発車しだした。

「なんとかなったな」
「ゾーンさんのおかげだわ。ちゃんとお礼しなくちゃ」
「ゾーンはね、えっちい写真が大好きよ」
「覚えとく」

クスクスと笑うリノアとキスティス。セルフィは一人客室の方へ行き、ゼルは端の方で蹲って一言も喋らない。それに…ファーストネームは一体どうやって…。

「ねえ、ファーストネームはどうするつもりなんだろう?」
「大丈夫よ。もうすぐ来るから」
「…来る?」

キスティスの言葉に俺もリノアも意味が分からないでいた。

「ねえ!あそこにいるの、ファーストネームじゃない?」

客室前の廊下にいたセルフィが声を上げた。俺達やさっきまで端で蹲ってたゼルが駆け足でセルフィのもとに行き、彼女が指す窓の外に目をやると、確かに150メートル程離れた場所にファーストネームの姿があった。

「あんな所でなにを…」
「見ていれば分かるわ」

キスティスがそう言うと、窓の外のファーストネームがこちらに向かって走り出すのが見えた。

「え…まさか」

どんどん近づいてくるファーストネームの姿。でも列車は走ったままだ。

「え、え?!本気?!」

ゼルやリノアがあたふたしてる姿を見て、キスティスはクスクスと笑っている。そう思っていると、ダッシュで列車に近づいたファーストネームが地を蹴り、俺達の車両の上に飛び上がった。俺達の姿を確認したファーストネームが一瞬笑ってVサインをしたのが見えた。次の瞬間、頭上でカタンという音が聞こえる。

「無事に乗れたみたいね」
「いやいや、無茶しすぎだろ!失敗したらケガだけじゃすまないぜ?!」
「そうね。だからマネしちゃだめよ?」
「いや、しねーだろ」
「え〜!頑張ればできそうだと思うんだけどな〜」

セルフィの言葉にゼルが必死で止めに入った。その横でリノアがクスクスと笑っている。

「ファーストネームって…すごいね!」
(凄い…確かに、そうだな。…SeeDとして褒められるのかと問えば、どうか分からないが…)

学園東到着のアナウンスが聞こえて来たのは、それから程なくしてからだった。

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