魔女暗殺計画
あの後すぐ徴集の放送が流れた。ガーデンからの指示が届いたのだろう。ゲート前に集合して数分、ホール側から車が一台、こちらに向かって走ってくる。私達は整列し、車からゆっくり降りてくる人に目を向けた。ガルバディア・ガーデンのドドンナ学園長だ。私達の前で立ち止まった学園長に敬礼をする。リノアも咄嗟に私達の真似をして敬礼をしていた。さっきリノアがスコールに私もSeeDだって事にしといてと言っていたのが聞こえたから、特に気にする事もなかった。
「君達にバラム・ガーデンのシド学園長から命令書が届いている。我々は規定に従い、命令書を確認した。検討の結果、我々は全面的にシド学園長に協力するという結論に至った」
ドドンナ学園長から、現在の情勢説明を受けた。現在魔女は平和使節に任命されているが、それは名ばかり。行われているのは会談ではなく脅迫。魔女は自分達に有利な条件を他国に認めさせ、最終的にはガルバディアによる世界支配が目的である事は明白。そしてそれは我々のガーデンも例外ではない、と。
「事実、既に魔女はこのガーデンを本拠地にすると通達してきている。…我々に残された選択肢はそれほど多くない。我々は君達に世界とガーデンの平和、そして未来を託す」
敬礼の後、学園長は命令書を班長であるスコールに渡した。
「質問は?」
「命令書によると方法は『狙撃』とあります。しかし、我々の中には確実に狙撃できる技術を持つ者がいません」
「その点は心配しなくてもいい。ガルバディア・ガーデンから優秀が狙撃手を出そう。キニアス!アーヴァイン・キニアス!」
学園長がそう呼ぶと、横に広がる芝生の庭に黒いハットにロングコートの男子生徒が寝転んでいた。彼はゆっくり立ち上がり、持っているショットガンを肩に携え、こちらに歩いてくる。180はあるだろう長身の優男風。
「アーヴァイン・キニアスだ。狙撃は彼が完璧にやり遂げるだろう。では、準備が出来次第出発したまえ。…失敗は許されないぞ」
最後に釘をさして、ドドンナ学園長は車に乗り、ガーデン内へ戻って行った。
「バラムのイナカ者諸君、よろしく」
笑みを浮かべたまま、アーヴァインは言った。
(…バカにしてるの?)
彼の発言にちょっとイラッとしたけど、それくらいの事で感情を表に出してはいけないいけない!
「スコール。命令の内容って?」
「次の仕事…いや、これは仕事ではない。バラムとガルバディア、両ガーデンからの命令だ」
狙撃…これから連想されるものは限られている。
(まさかとは思うが…)
「俺達は……魔女を暗殺する」
(…当たりか)
魔女暗殺の言葉に、皆少なからず驚いている様だ。
「方法は遠距離からの狙撃だ。このキニアスが狙撃手を務める。俺たちはキニアスを全面的にサポートする。狙撃作戦が失敗した場合は直接バトルで正面攻撃だ」
「僕は失敗しない。Don't worryだよ」
軽く言うアーヴァイン。
(こいつ、事の重大性わかってないのかな…。ま、ガチガチに緊張されるのも困るけど)
「確実に魔女を倒すべし。これが新しい命令だ。これからガルバディア首都のデリング・シティへ向かう。そこでカーウェイ大佐と会って具体的な作戦の打ち合わせをする」
カーウェイ大佐。その名前が出た時、視界の端でリノアがピクリと反応した様に見えた。
(カーウェイ大佐を知っている?…ま、カーウェイ大佐は事実上ガ軍の最高実力者。レンジスタンスに属しているなら知ってても不思議はないか…)
その時は、余り気に止めなかった。
「さぁ、出発だ」
「じゃあ、デリング・シティまでのパーティーを決めるって事で」
そう言って君と君と君は僕と一緒!…なんて言い始めた。
「こんなもんかな?」
(同じ駅に向かうんだから、別にパーティー分ける必要ないと思うんだけど)
私にリノア、セルフィがアーヴァインと。スコール、キスティスとゼルが。ゼルはアーヴァインを睨んでるし、キスティスは女子一人選ばれなかったからか、普段見せない様な顔をしている。スコールも少し考えた…みたいだが、どうでもよくなったのか一言、勝手に苦労してくれと…。
その言葉にカチンと来たのか、リノアとセルフィはアーヴァインの腕に自らの腕を絡め、先に進んでいってしまった。両手に花とは、まさにこの事。
「私、むかついた」
「アーヴァイン・キニアス。…気にいらねえ」
「スコールくん、いきましょ!」
キスティスがスコールくんって…。どうやら対抗心を燃やしているみたいだ。
「スコール、早く行こうぜ!あいつらより先に現地到着だ。そうでなきゃ俺の気ぃすまねえぜ!」
ズンズン一人で進んでいくゼルに、キスティスがスコールの腕を引いて歩いていく。スコールは引っ張られ、足取りがおぼつかない。
そんな様子を傍から見てて、私はクスクスと肩を揺らして笑っていた。
(面白い旅になりそうだな)
そう思って笑っていると、何笑っていると言いた気にスコールが私に目をやる。
「あっちは両手埋まったから、私はこっちの腕貰おうかな?」
スコールの空いてる片腕に自分の腕を絡めれば、勘弁してくれとばかりに溜息をつかれた。
(ハハハ。頑張れ、班長!)
心の中で応援しながら、私達はデリング・シティへ繋がるガルバディア・ガーデン西駅へ向かった。
***
ガルバディア・ガーデン西駅に着くと、ホームで先に出たアーヴァイン達のパーティーに合流。デリング・シティに行くにはここから出る列車に乗るしかない。合流するのは必然の事だ。結局一緒になって、なんかさっきまでの出来事がバカらしく思えたのか、みんなクスクスと笑いあった。
私は端にもたれ掛かり、その様子を見ながら他の事を考えていた。
(魔女…。忌み嫌われてきた存在。その為身を隠す様に暮らしていた魔女も多く、魔女が何人いたのかも分からない。今回の魔女もそうして隠れて暮らしていたのかな?でも、だったら何故ガルバディアと?そもそも…魔女って何なの?)
色々な本を読んできたけど、魔女についての知識はほとんどない。そういった本がガーデンに少ないのもあるんだろうけど。
「アーヴァイン・キニアス!あなた今回の作戦の主役なのよ。もっとしっかりしてちょうだい!」
いきなり上がった声に驚いた。声の主はキスティス。どうやらアーヴァインがリノアを口説いてたっぽい?それでキスティスがお怒りになったと。
「…誰もわかってくれない。狙撃手はひとりぼっちなんだ。一人ぼっちの世界で精神を研ぎ澄まして、一発の弾丸に自分の存在をかけるんだ。その時のプレッシャー、その時の緊張感。僕はこれから……それに耐えなくちゃならない」
確かに、自分の撃つ一発の弾丸で運命が決まる。たった一発だ。そのプレッシャーは大きいだろう。
(だから…あんなおちゃらけた風に装っていたのかな?)
「…こわいんだ。だから、ちょっとくらい…ちょっとくらいハメ外しても…いいじゃねっかよ〜!」
(アーヴァイン…)
「…―な〜んて言ったりしてみた」
テヘッ!というような顔をしたキニアスを見て、ちょっと同情しかけた自分が憎い。他のメンバーも呆れた様子。ゼルなんか彼の態度に怒り心頭したのか、電車の床に自分の拳を打ちつけた。その途端、電車が大きく揺れた。車掌が振動による列車の被害はありません!と慌てた様子でアナウンスを流した。
(床…へこんじゃってますけど。でも、あの揺れが起きるほどの衝撃だったのに、それくらいのへこみで済むなんて…大陸横断列車侮りがたし!)
変な所に感心した私だった。
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