デリング・シテ


ガルバディア・ガーデンを出て40分。デリング・シティに着いた私達はカーウェイ邸のある役人地区に向かった。表向きはガルバディア・ガーデンから警備の応援に来たことになっている私達。だが、何故ガルバディア軍の大佐がクーデターを起こそうとしているのか不思議に思う。しかし、我々SeeDは依頼主に何故とと問うてはいけない。与えられた任務を確実にこなす。それだけ…。
カーウェイ大佐の邸宅前に着き、門番に声をかければ、何故か通す訳にはいかないと言われた。ガーデンから連絡は来ているが、私達の実力を自分で確かめるまでは通すな、と大佐からのご命令らしい。

「実力?いったい何をすればいい?」
「街を出て北東にある名もなき王の墓。そこに行くだけでいいんです。簡単なことです。…んが、ただ行って帰ってくればいいわけではありません。証明の為の暗号が必要です」
「暗号?」
「こんなとこまできて肝試しみてぇなことさせるなんて、SeeDもなめられたもんだぜ」
「あなた達同様、大佐を訪問してくる学生は毎日後を絶ちません。昨日も一人、ガルバディア・ガーデンの学生が来ましたが、名もなき王の墓の試練から未だ戻って来ないのです」
(なるほど。それくらい出来ない人には会う価値なし…って事か)
「目的のものは入り口入ってすぐの所に落ちています。そこに書かれている出席番号を覚えて来る事があなた達の課題です」

とりあえず地図だけ貰い、街の出口まで行くことにした。

「名もなき王の墓ってどこにあるのかな〜?」
「北東って行ってたから…多分、あれじゃないかな?」

私が指差した先、数キロ先の岬の手前に木々で囲まれた石造りの遺跡が小さく見える。

「結構距離があるな」
「歩いて行くには時間がかかりそうね」

遠くにある遺跡を見つめながら、スコールとキスティスが話している。

「(確か、街の入り口にレンタカー屋があったな)ねぇ、スコール」
「なんだ」
「出席番号を調べてくるだけなんでしょ?だったらこんな大所帯で行く必要ないんじゃない?」
「あ〜確かにそうかもね〜!」

セルフィが私の意見に同意した。

「だから、2チームに別れて行動しない?私、そこのレンタカー屋で車借りてくるから、それに乗って遺跡に行くチームと、デリング・シティで待機チーム」
「待って、ファーストネーム。…あなたが運転する気?」
「え?うん」

何か問題でも?と言えば、キスティスは別に、と言って言葉を詰まらせた。

(別にって…スコールじゃないんだから)
「じゃあ、私は残って街の様子を見て来るわ」
「OK!スコールは班長だから私と同行ね。あと…アーヴァインは今の内に体を休めて鋭気を養っといて」
「了解〜」
(アーヴァインを残らせるとなると、ゼルは連れて行った方がいいな、喧嘩とかし出したら大変だし)

私とスコール、ゼルが遺跡チーム。残りが待機チームとなり分かれる事になった。

「じゃあ、30分後、ここに集合って事で」
「分かったわ。…スコール、ゼル。気をつけるのよ」
「大丈夫だって!心配しなくても出席番号覚えてくるだけだろ?任せろ!」

哀れむ様に言ったキスティスの言葉にゼルもスコールも『?』を浮かべた。

「さ、ちゃっちゃと済ませちゃお!」

レンタカー屋に声をかけ、赤いオープンカーを借りた。運転席に私が乗り込み、助手席にスコール。後部座席にゼル。エンジンを吹かし、ギアに手をかける。

「しっかり掴まっててよ!」
「え、なッ―!!」
「ぉわッ?!」

急発進した車は、ドリフトしながら入り口を出て、まっすぐ遺跡に向かって走り出した。舗装もされていないでこぼこ道をノーブレーキで高速走行する車に必死にしがみ付いてる2人を見送る待機チームは、呆然としていた。

「ファーストネーム…豪快…だね」

かすれた笑みを浮かべながら、心底乗らないでよかったと思ったリノア。

「昔から車の運転が荒いのよ、ファーストネームは。下手な訳じゃないんだけど、殆どブレーキを踏まないし、カーブ曲がるときは常にドリフトだし…」
「ファーストネームは安全運転タイプだと思ってた〜」
「人は見かけによらないんだね、ほんと」

他の三人も、ホッと胸を撫で下ろし、スコールとゼルの安否を小さく願ったのだった。



***



遺跡に着いて5分もしない内に目的の物はみつかった。
石造りの大きな遺跡を入って直ぐ床に刺さった銀製の剣。その柄の部分に3桁の番号が彫られていた。これが門番の言ってた出席番号なのだろう。それを覚え、再び車でデリング・シティへ。何故か帰りはスコールが運転すると言い張った。

「ファーストネーム、任務続きで疲れてるだろ?だから、な!運転はスコールに任せてゆっくりしろよ!」

ゼルもそう言うから渋々助手席に乗ったけど、何でそんなに必死なのか疑問に思った。

「ただいま〜!」
「おかえり。どうだった?」
「目的の物はすぐ見つかったよ。出席番号もバッチリ!」
「そう。…2人もお疲れ様」
「……」
「俺、もうファーストネームが運転する時は乗らない」
「えっ、なんでよ!」

げっそりしたゼルの背中をポンポンと叩くセルフィ。みんな哀れむ様な瞳でスコールとゼルを見ている。

「一体なんなんだよー!!」

一人空しく叫ぶ声に、誰も答えてくれなかった。



***



「……待たせるなぁ〜」

暗号を門番に伝え、客室に通されてから30分程経っただろう。だけど、肝心のカーウェイ大佐はまだ私達の前に姿を現してくれない。静かに待っていた皆もだんだん苛立ちを露わにしだしている。特にゼルとか…。クライアントがお偉いさんだと、こういう事はよくある。だけど…やっぱり待つだけなのは暇だ。

「もう…人を待たせても何とも思わないんだから。ちょっと文句言ってくる」

椅子に座ってたリノアが立ち上がり、扉へ向けて歩き出した。だが、それを止めようとしたスコール。

「俺が行く」
「あ、大丈夫なの。ここ、わたしんちだから。皆は待ってて」

笑って言うリノアの発言に、皆驚いた。勿論、私も。カーウェイ邸を私の家と言うリノア。

(って事は…リノアってカーウェイ大佐の…)
「ね、わたしを置いてきぼりにしないでね?」
「…あんたとの契約はまだ切れていない。今のは命令なんだな?」
「命令っていうか……。ま、いっか。お願いね!」

手を振ってリノアは部屋を後にした。

「…どうなってんだ!?」

理解できないと言いた気なゼル。

「考えてもしかたない。大佐とリノアが来たら、直接聞こうよ」

そうゼルに言うと、渋々納得して壁にもたれ掛かった。それから程なくして、再び部屋のドアが開いた。現れたのは髪をきっちりと固めた威厳ある男性。カーウェイ大佐だ。だが、彼を呼びに行ったリノアの姿がない。

「リノアは?」
「アレは君達の様に鍛えられていない。足手まといにならんとも限らん。彼女が作戦に参加しない事は、ここにいる全員の為でもある」
「もしかして、リノアのお父さん?」

セルフィがすっと他のメンバーが思っていた事を聞いた。

「そう呼んでもらえなくなって、ずいぶんになる」
「親父は軍のおエラいさんで、娘は反政府グループのメンバー!?まずいんじゃないっすか!?」
「そう…非常にまずい。が、私の家庭の問題だ。君達には関係ない」
(関係ない、か。確かに、今回の任務に大佐の家庭問題なんて関係ない)
「なにより、これから我々がやろうとしている事に比べると、あまりにも小さな問題だ」

大佐にとってはそうだろう。だけど、皆…今日初任務の彼らにとってリノアはクライアントだ。

「俺達は今回の任務が終わったら、契約通りリノアの傭兵に戻ります。事情はわかりませんが、その時は邪魔しないで下さい」
「邪魔したら?」
(なんだ、この人。作戦の為とか言って…本当は娘を手元においておきたいだけなんじゃ?)

スコールも大佐の反応に少し困惑している…と言うか、面倒だと思っているみたい。顔がいつも以上にしかめっ面をしている。

「…俺達はSeeDです。SeeDのやり方で行動します」
「おいおいおい、おたくらよ…」

黙って会話を聞いていたアーヴァインが口を挟んだ。

「俺達は魔女を暗殺しにきたんだろ?先にその話をしないか?」
「…一時停戦だ。作戦の説明をしよう」

カーウェイ大佐は奥の立派な机の引き出しから折りたたまれた紙を数枚取り出し、机に広げた。それは、ここ、デリング・シティの地図だった。私達はその周りに集まり、作戦会議が始まった。

しおり
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