戦会議


作戦会議が始まった。
今夜、ガルバディア政府と魔女イデアが協定を結んだ事を記念してセレモニーが開かれる。セレモニーが開かれるは大統領官邸。私達は狙撃チームと凱旋門チームの2チームに分かれ、作戦を進めてゆく。

「凱旋門チームは素早く凱旋門に侵入して待機だ。狙撃チームは大統領官邸の正門前でセレモニー終了まで、この場所で待機」

大佐が地図の場所に記しをつける。

「セレモニー終了と同時に魔女のパレードが始まる。そうしたら正門が開く、それまでは大人しくしていてくれ。騒ぎになればパレードは中止される。それだけは避けなくてはならない」
(私達を誰だと思っているの?SeeD。特殊部隊。そんなヘマはしない…)
「開門と同時に狙撃チームは行動開始だ」

大佐が別の地図を上に置いた。それは官邸の見取り図。
狙撃チームは開門と同時に大統領官邸へ侵入。目標は官邸の屋上。魔女の部屋の手前の通路床に、時計部屋への扉がある。狙撃用ライフルはそこに隠されている。その内部に侵入し、定刻の20時まで待機。
魔女はパレードカーに乗ってデリング・シティ外周を回り、再び大統領官邸前広場に戻ってくる。そして、中央通りを通り、凱旋門へ。

「ここからが凱旋門チームの行動になる」

再び別の見取り図を上に置いた。これは凱旋門の内部見取り図だ。
定刻20時、魔女のパレードカーが凱旋門の中に入る。この瞬間、凱旋門チームは制御盤を操作し、魔女を凱旋門に閉じ込める。20時には狙撃チームが待機するギミック時計がせり上がる。狙撃チームと魔女との間に障害がなくなる。その瞬間を狙って…BANG!これが、作戦の全容になる。

「さて、チーム編成に移ろうか。狙撃チームは狙撃手とリーダーで構成してくれ。リーダーは総攻撃の指揮をとってもらう」
(総攻撃…?)
「なんらかのアクシデントで計画が進められない場合、或いは狙撃に失敗した場合、リーダーの指揮下で魔女に総攻撃をかけてもらう。我々は全てを秘密裏に進めたい。その為の複雑な暗殺計画だ。しかし、最終目的は魔女の排除。あらゆる犠牲を払ってでも、目的を果たさなくてならない。たとえ私の存在や、君達の所属が明るみにでてもな」
(なるほど…)
「リーダーは?」

カーウェイ大佐の言葉に、皆が一点をみつめる。

「俺です」
「後は君が決めたまえ」

少し考えたスコールは皆の顔を見た。それは、SeeDの顔をしている…。

「俺とアーヴァイン・キニアスが狙撃チームとして――」
「待って」

スコールの言葉を止めて、私は壁から体を離した。

「私も狙撃チームに入るわ」
「だが、」
「狙撃に失敗した場合、確実に魔女を排除しなくてはならない。総攻撃をかける事になるなら、私の力は役に立つと思う。修羅場を潜り抜けて来た数は、ここにいる誰より多い」
「………分かった」
「ありがと」

少し考えたスコールだが、私の意見を取り入れてくれた。

(…魔女を、直接間近で見たい。何か…心に引っかかる事があるから)

残りのメンバーが凱旋門チームとなった。凱旋門チームのリーダーになりたがっていた様なゼルだったが、ここはやはり先輩SeeDで教員経験もあるキスティスが無難な所だろう。

「さ、作戦実行だ!」

大佐が出て行くのに続いて、私達も部屋を出た。



***



カーウェイ邸を出ると、道が人々で溢れかえっている。パレードがあるからか、車やバスは走っていない。道路を堂々と渡り、小さな池がある公園の横に伸びる道を通る。

「総攻撃の時はまず俺とファーストネームが突入する。出来るだけ時間を稼ぐつもりだ」
「総攻撃の必要はないってばさ〜。僕が決めてやるから安心してろよ」
「どんなに有利な状況でも、気の緩みは自分を貶めるきっかけになるかもしれない。作戦が終了するまで、最悪の事態を考慮し、行動すべし。それがSeeDなのよ」

私の言葉に、ふ〜んとだけ答えたアーヴァイン。

「…あのさ、SeeDは任務に関して『なぜ』って質問しないって本当?」
「…知ってどうする?」
「例えばさ、敵がすっげえ悪い奴だったわかれば、バトルにも弾みがつくだろ?」
「……」

スコールは黙り込んだ。多分、頭の中でアーヴァインが言った事について考えてるのかもしれない。だけど、彼はそれを口にしない。

「例えそうであっても、私達には関係ないよ。SeeDは善悪で動いてる訳じゃない。依頼者との契約を全うする。ただそれだけ。何故と問わないのは、任務に私情を挟み、冷静な判断を失いかねないからだよ」
「…さすが、精鋭のSeeD。まるで…機械みたいだ」
「(機械みたい…か。ゼルが聞いたら怒りそう)…確かにね」

自傷気味に笑えば、それ以上彼は何も言わなかった。
通りを抜けた先は凱旋門広場。兵士の壁画が描かれた凱旋門は、ライトを浴びて金色に光っている。

「じゃあ、頑張ってね」
「ええ」
「20時きっかりだな!まかせとけって!」
「こんな簡単なミッション、3人もいらないのにね」

意気揚々と3人は凱旋門の通用口から中に侵入して行った。私達はそのまま真っ直ぐ大統領官邸前に向かう。官邸前は凄い人の数で、人波掻き分けて進むのに一苦労だ。

「君らの持ち場はここ」

官邸入り口の右側。見上げれば演説台の様なものが見える場所で、私達狙撃チームは待機となる。

「ところで大佐。なぜ魔女はこんなハデなパレードを始めようと思ったんだ」
「魔女が本拠地と定めたガルバディア・ガーデンへ移動する為だ」
(そういえば、ドドンナ学園長がそんな事を言ってたな…だからガルバディア・ガーデンは魔女が邪魔だと)
「さ、じきに始まる。いよいよだぞ。私は邸に戻っている。幸運を祈る」

そう言ってカーウェイ大佐は私達の元から去って行った。



***



「ファーストネームの首から提げてるペンダント、可愛いね〜」
「ん?あ〜これ?可愛いでしょ」

セレモニーが始まるまでの時間。侵入経路を頭の中で練っていると横にいたアーヴァインが声をかけてきた。

「誰かからの贈り物とか?」
「うん。まぁ、そんなトコかな」

後ろに“Dear.ファーストネーム”と彫られたクロス。記憶はないけど、多分これは大切な人から貰ったものだと思う。理由は分からないけど…そう感じる。

「彼氏?」
「彼氏?う〜ん…多分違うと思う」
「違うと思う、って曖昧だな〜」
「あはは、ホントだね〜」

アーヴァインとそんな話をしながらセレモニーが始まるのを待っていた。

「スコールもシルバーアクセサリーしてるよね〜」
「あ、私も思った!それカッコイイよね!」
「……そうか」

スコールが首から下げたシルバーアクセサリー。スコールが着てる服とあっていて凄くカッコイイ。

「指輪も同じデザインだね。…獅子をモチーフにしてるのかな?」
「しし?」
「うん。本で見た絵と似てる。想像上の動物で…確か、別のやつにはライオンとも表現されてたかな?」
「…よく知っているな」
「本読むの好きだから。獅子…ライオンは力と誇りの象徴なんだって。そうなれたら…素敵だよね…」
「……あぁ」
「私も一つほしくなってきたなぁ〜。何か願懸けになりそうだし…任務終わったら、それどこで売ってるか教えてくれる?」
「…了解」

やった!と言った瞬間、周りの人達が沸きあがった。見上げれば、演説台にあの時見た魔女の姿が。しかしそれ以上に気になったのは、魔女の後ろで立つ女子の姿。

「…え、ちょっ、」
「お、おい、あの子!」
「リノア……?」

そう、カーウェイ邸にいると思っていたリノアの姿がそこにあった。一瞬、他人の空似かと思ったけど、間違いなく彼女はリノアだ。

(どうして彼女があそこに…?)

考えている間に、魔女の演説が始まった。

『……臭い。……薄汚れた愚か者ども。…古来より我々魔女は、幻想の中に生きてきた。お前達が生み出した、愚かな幻想だ。恐ろしげな衣装を身に纏い、残酷な儀式で善良な人間を呪い殺す魔女。無慈悲な魔法で緑の野を焼き払い、温かい故郷を凍てつかせる恐ろしい魔女。…くだらない』

微笑を浮かべ、淡々と語り続ける魔女。

(一体…魔女は何を言おうとしているの?)
『その幻想の中の恐ろしい魔女がガルバディアの味方になると知り、お前達は安堵の吐息か?幻想に幻想を重ねて、夢をみているのは誰だ?』
『イ、イデア…一体何を…。…イデ――』
「?!」

デリング大統領が何やらイデアと呼ばれた魔女に詰め寄った―その瞬間、魔女がヒラリと上げた腕がデリングの方へ向けられ、彼女の指がデリングの体にめり込んだ。

『現実は優しくない。現実は全く優しくない。ならば、愚かな者、お前たち!こうするしかない…』

イデアより遥かに重いであろうデリングの体を指に刺したまま易々と上へ持ち上げる。上げられた体からは紫黒い煙の様なものがゆるゆると立ち上がっていた。

(何故、大統領を…――)

ブラリと力なく垂れるデリングの体を躊躇いなく後ろへ投げ捨てるのが見えた。

『自らの幻想に逃げ込め!私はその幻想の中の世界でお前達の為に舞い続けよう!私は恐怖をもたらす魔女として、未来永劫舞い続けよう!お前達と私。ともに作り出す究極のファンタジー。その中では生も死も甘美な夢。魔女は幻想とともに永遠に!魔女の僕たるガルバディアも永遠に!』

そう言って、魔女は建物の奥へと姿を消した。デリングが刺された時は少し動揺を見せた聴衆だが、彼女の言葉に呼応する様にワーと声を上げている。

(まるで、操られているみたい…)
「一体…どうなってんだ?」
「…わからない」

そうアーヴァインと言葉を交わした時、妙な気配を感じて後ろを振り返った。

「どうした、ファーストネーム」
「…なにか、くる」

言ったすぐ後だった。巨大なモンスターが2匹、天高く舞い上がり、先程魔女がいた演説台の近くに飛び掛った。

(あそこには…リノアが!?)
「やばいぞまずいぞなんとかするぞ!リノアを助けに行くだろ?」
「まだパレードが始まらない。門が開かない」
「マジかよ!?」

私達の任務は極秘裏に魔女を暗殺する事。ここで無理矢理乗り込めば任務に支障が起きる。拳をギュっと握り、大統領官邸の門が開くの待つばかりだった。
それから程なくして音楽が鳴り響いた。パレードが始まった合図だ。門の前にはライトアップされ、炎が灯されたパレードカーが見えた。

(いよいよ、行動開始)

門の前でダンサーが踊りながらゆっくりと前に進んでゆく。その後ろを門からゆっくり外に出たパレードカーが追う。観客が皆手を上げ、イデアを歓迎する様に声を上げる。
パレードカーのイデアは無表情のまま真っ直ぐ前だけを見ていた。しかし私の視界にはイデアよりも、その横に佇む人が気になって仕方なかった。

(!?……あ、れは…)

金色の短い髪を後ろに流し、灰色のロングコートに…上げられた右手に見える…ガンブレード。

(…まさか―)
「さ、行こう!助けに!」

アーヴァインとスコールがパレードカーが過ぎようとするのを確認して、人波の中官邸へ向けて走り出した。私もその後を追うが、さっきの光景が脳裏に焼きついていた。

(…ダメだダメだ!今はそんな事考えてちゃだめ!今は、任務遂行。リノア救出が先!)

頭を切り替えて、真っ直ぐ官邸目指して私達は走った。


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