女と対峙


「リノア!!」

官邸の外に止めてたトラックの屋根から建物に飛び移り、邸内に侵入して目的の場所へ向かった。演説台のあった所から真っ直ぐ続く中へ進み、赤い絨毯が敷かれた通路の先で先程見たモンスターと対峙してるリノアを発見した。
私達に気づいたモンスターは標的をリノアからこちらに変えて襲い掛かってきた。

「ハアッ!!」

素早く腰に下げた細剣を抜き、斬りかかる。首元を狙ったのに私の攻撃を素早く避け、角度を変えて再び襲い掛かって来たが、横に飛んでそれをやり過ごした。

(こいつら、雑魚じゃない…!)
「シャァアアー!!」
「ッ!!」

部屋の中を右往左往と飛び交い、壁を蹴り襲い掛かる。

「、アーヴァイン!危ないッ!」
「ぇ、ッうわっ?!」

モンスターの口から吐かれた吐息を受けたアーヴァイン。その身体が徐々に石みたいに固まってゆく。

「くそっ!」
「あの息には石化効果があるのね。やっかいだな」

身体の動きが固くなってゆくアーヴァインに駆け寄り、ポーチの中から万能薬を取り出す。

「これ使って。使い方は分かるわよね?」
「あ、あぁ」
「石化が治ったら私達の援護お願い!」
「わかったよ」

薬を彼に渡して再び戦いに体を向けた。敵の攻撃をかわしながら、相手の動きを瞬時に観察して対策を練る。

(同じ形態のモンスターが二匹。動きが素早く、やっかいな異常攻撃を仕掛けてくるのに対し、もう一匹はそれ程強いものでもない…。この違いは…)

「グシャァアア!!」
「!ッ、ハアッッ!!」

剣を真っ直ぐ敵の脳天に突き刺した。ザシュっと音を立てて刺さったそれにより、敵は体をピクピクとさせ、支えていた体が一気に倒れこんだ。

(これで残り一匹!)

剣を抜き、返り血を避けながら武器についた血を払い、リノアに駆け寄った。

「リノア!大丈夫?」
「…うん。だいじょ、ぶ…」

微かに震えてる。いきなりモンスターに襲われたんだ…無理もない。

「そこの陰に隠れてて」
「わ、私も――」
「大丈夫。すぐ終わらせるから」

リノアは自分も一緒に戦うって言おうとしたんだろう。だけど、はっきり言って今の彼女じゃ足手まといになる。
それを彼女自身も分かったんだろう。私の言葉を素直に受け止め、言われた場所に身を隠した。
振り返り戦況を見れば、スコールとアーヴァインが敵と対峙している。

(アーヴァインに渡したので万能薬はきれた。異常治癒魔法もない。この狭い部屋であの息を吐かれたら面倒だな。G.F.を喚ぶ訳にもいかないし…。…G.F.?)

G.F.は宿り主に力を与える。私達の様に強制的に宿らせる事もあれば、自ら宿主を選び、憑依するG.F.もいる。

「(試してみる価値はあるかもね)スコール!アーヴァイン!少しの間、敵を引きつけておいて!」
「…何かあるのか」
「ちょっと試したい事があるの。頼むね!」
「…了解」
「りょうか〜い!」

アーヴァインがショットガンで敵の注意を引きつけ、スコールが隙を見て斬り掛かるか。さすがスコール。敵の攻撃を冷静に見極めて動いてる。アーヴァインも確実に敵にダメージを与えてる。優秀な狙撃手ってのは嘘じゃないみたい。

(私も頑張らないとね!)

ポーチから一つのクリスタルを取り出し、それを右手の上にのせ、敵へ向けて意識を集中する。透明なクリスタルが淡く蒼く光だした。それは、クリスタルがG.F.の存在を知らせてくれる。

「(当たり!)…かの者に宿りしガーディアンよ。今、その殻を抜け出し、クリスタルの中へ」

そう呟くと蒼い光が強さを増した。そして、クリスタルに浮かび上がる精霊の姿と名前―。

「―ドロー!カーバンクル!」

私が叫ぶと、モンスターの体から光が飛び出し、クリスタルに吸収された。

(ドロー完了!)

G.F.を奪われ、動きが一気に悪くなった敵を見て、すかさずスコールがガンブレードで敵の頭を飛ばした。ドスンと音を立てて倒れた敵がもう動かないのを確認して私達は武器を鞘に納めた。

「何だったんだ?今の。なんか、いきなり敵の動きが悪くなった様にみえたけど」
「…G.F.か」
「そ」
「え?何?僕だけ分かってない感じ?」

私とスコールを交互に見ながら眉をハの字にするアーヴァイン。G.F.を使った戦闘を認可してるのはバラムガーデンだけだから、ガルバディアガーデン生のアーヴァインがパッとこないのも仕方ない。
敵の体にG.F.が宿っていた事。それを取り出した事により、G.F.の恩恵によって得た力がなくなり倒す事ができた、とアーヴァインに言えば、あ〜なるほどね〜、と納得した。G.F.の知識はどのガーデンでも教えているはずだから飲み込みが早い。

「みんな、大丈夫?」

静まったのを確認して出てきたであろうリノアが、私達のもとへかけて来た。

「大丈夫だよ!リノアも、無事でよかった」

私が微笑めば、リノアも安堵した様に息を大きく吐きながら笑みを浮かべた。

「さ、行くぞ」

スコールが冷静に言った。そう、今は作戦実行中。気を緩めちゃいけない。
部屋を出た廊下の脇にギミック時計部屋へ続く入り口を見つけて、私達は乗り込んだ。入った先は、真っ暗な空間だった。円形の部屋の中央と、それを取り囲む様に装置が設置された筒状のものがいくつも配置されていた。そして、私達が降りた階段の下には、ライフルが一挺、置かれている。

「アーヴァイン・キニアス、あとはお前に任せる」

スコールがそう言ってライフルをアーヴァインに差し出した。彼はそれを一時見つめ、静かに受け取った。静かに部屋の奥へ進み、そっと腰を下ろした彼は、ついさっきまでの雰囲気とは違っていた。

(精神統一かな?これからが、彼の仕事だもんね)

邪魔しないように、私達も近くに腰を下ろした。

(静かだ。パレードの音も聞こえない。……サイファー…どうして、あんな所に)

さっき、パレードカーの横を通り過ぎる時に見た彼の姿。テレビ局で見た、あの哀しい笑顔ではなく、誇らしげに笑って魔女と共にパレードカーに乗っていたサイファー。死んだと聞いた彼が、何故ガルバディアの魔女と…)

「リノア、サイファーは生きてるぞ。あいつ、魔女とパレードしてる」
(スコールも気づいてたんだ)
「・・・どういうこと?」
「知るか」

素っ気無く返した彼も、リノアも、そして私もそのまま視線を床に落とした。

(もし…狙撃が失敗した場合、直接魔女に攻撃をしかける。…もしかしたら、サイファーと闘うことになるかもしれない)
「俺たちの手で、サイファーを死なせる事になるかもしれない」

スコールの言葉に、リノアが私達を交互に見た。リノアの瞳は戸惑いを隠せないでいる。でも私達を見て、静かに視線を落とした。

「…覚悟、してるんだよね、お互い。そういう事、あっても普通の事。そういう世界で生きてるんだもんね。心のトレーニング、沢山したんだだよね。…でも、でも、もちろん……避けられたらなって思うよ」
「…キニアス次第だ」
(そうだね。狙撃に成功すれば、サイファーと対決しなくても済むかも。全ては、アーヴァインの腕に…か)

スコールが立ち上がり、アーヴァインの下に近づいた。私達も彼に目をやった。

(私達はSeeD。迷いはない。迷ってはいけない。例え旧知の仲だった人が敵だとしても、闘わなければならない。敵を選べない…SeeDの運命)

そんな事を考えながら、腰に下げた細剣を鞘から抜き、手入れをしていたらスコールとアーヴァインが何か喋っているのが聞こえて視線をそちらに向けると、スコールが手を額に当て頭を振っている。何があったのかと近寄れば、ライフルを持ってるアーヴァインの手が震えているのが分かった。

「ごめん…無理だ」

アーヴァインの言葉に、私もスコールと同じ行動を起こしそうになってしまった。土壇場に来て、怖気づいてしまったみたい。

(もう時間がないってのに…!)

そう思っていると、私達のいる時計台が音を上げてせり上がった。

(20時になった!パレードカーは?!)

腰を低くし、凱旋門に視線を向けると丁度パレードカーが凱旋門に差し掛かった所だ。真下まで来れば、キスティス達が鉄格子を下ろす。その瞬間に狙撃しないと…!

「アーヴァイン・キニアス!」
「だ、ダメだ、すまない、撃てない。僕、本番に弱いんだ。ふざけたり、カッコつけたりして、なんとかしようとしたけどダメだった」
「いいから撃て」
「僕の銃弾が魔女を倒すんだ。歴史に残る大事件だ。このガルバディアの、世界の未来を変えてしまうような事件だ。そう考えたら、僕は…」
「もう喋るな!撃て!」

何とか説得しようとしてるスコール。だけど、アーヴァインは頑なに首を横に振る。
私は一瞬考え、リノアに向き直った。

「リノア、これを」
「…これは?」

リノアの手に、1センチくらいの小さなガラス球を渡した。オレンジ色に淡く光るそれをまじまじとリノアは見ている。

「これはフレアストーン。魔法を凝縮した石なの。手に持って魔力を注ぐと石の光が強くなる。そしたら、これを敵に向かって投げて。凝縮された魔法が一気に発動するから」
「わ、私、魔力を注ぐって言われても分からないよ!」
「大丈夫。人は誰しも魔力を持ってる。血液と同じ様に体を巡ってる。だから、意識を集中させればリノアならいけるよ」
「でも――」

そう言った時、バンッと音が響いた。アーヴァインが撃ったんだ!
私とリノアは一斉に視線をそちらに向けたが、アーヴァインが次の瞬間顔を歪めて腰を落とした。
狙撃失敗。その文字が私の脳裏に浮かんだ。

「いい、リノア。ガ兵に追われたらこれを使って逃げ切って。結構威力あるからアーヴァインを巻き込まない様に気をつけてね」
「そんな、…私、ちゃんとできるかな…」
「大丈夫。リノアならちゃんと使える。自分を信じて」

私の言葉に不安な瞳のまま、首を縦に振った。リノアの肩をポンポンと叩き、スコール達のもとに駆け寄った。

「アーヴァイン、お疲れ!」
「ファーストネーム。…ごめん、僕―」
「気にしない!まだ作戦失敗した訳じゃない」
「後は俺達に任せればいい」

目で合図をし、スコールはギミック時計から外に飛び出した。

「リノアの事、頼むね!」

ウインクをして私もスコールの後を追った。武器を取り、魔女が演説してた場所から、勢いよくジャンプする。
いきなり降りた凱旋門の格子に先程の銃声で街は混乱に陥っていた。魔女官邸警備のガ兵も混乱を抑えこむのに必死の様子。

「(私達からしたら、好都合だけどね!)ハァァアッ!」
「ッ?!、うわぁッ!!」

剣の柄でガ兵の首下を打ち、人の波を駆けた。

「ファーストネーム!」
「!」

スコールの呼ぶ声が聞こえ振り返れは、どこで拾ったのかオープンカーに乗ってこちらに向かって走って来る。走る車のサイドに手を置き、ひょいと助手席に飛び乗った。

「このまま門につける」
「了解!」

一気にスピードをあげ、ハンドルをきって車の側面を凱旋門の格子へつける。その瞬間に私達は車から飛び降りた、素早く中へ侵入した。中には魔女のパレードカー。その大きなパレードカーに登れば…見知った顔が不適な笑みを浮かべて魔女と私達の間に立ちふさがった。

「…サイファー」
「こういう事になった。よろしくな」
「魔女のペットになったのか?」
「魔女の騎士と言ってくれないか?これが俺の夢だった」
(夢?)
「さぁ、勝負だ!」

そう言うとサイファーは私達に向かって飛びかかって来た。スコールのガンブレードとサイファーのガンブレードが何度も重なり音を上げる。間髪を入れず私も彼に斬りかかる。

カキィンッ―

響く金属音。

「へぇ…暫く手合わせしない内に力ついたんじゃねーの?」
「これでも場数はアンタより踏んでるからねッ!!」

サイファーの剣を払い胴に剣を振り抜くが、後ろに跳んでそれをかわされた。
私達が闘っているのを、後ろで無表情のまま見る魔女の姿を私はしっかりと視界で捉えていた。

(隙をついて魔女に近づければッ)

だけど、この狭い空間では動きにくい。それに、対峙するサイファーはガーデンで何度も手合わせをした相手。こっちの手の内を知り尽くしているからやりにくい。でも…それはこちらも同じッ!!
スコールがサイファーに剣を払われ距離を取り再び向かった瞬間、サイファーの掌に魔力が集中し、それが炎―ファイアとなって現れた。それを相手に当て、怯んだ隙に斬りかかる。サイファーの得意とする戦法だ。私はその軌道を読んでブリザドを放ち、魔力通しが相殺され、空で蒸発した。

「―ハアッ!!」
「ッ!」

蒸気に紛れ、スコールがサイファーに斬りかかる。体勢を崩したサイファーの横を素早く抜け、目指すは―魔女・イデア!!
細剣の先をイデアに向け、脇の下から一気に相手に突き刺す!

「―ッ?!」

心臓を狙って伸ばした剣先は、後数センチの所で止められた。まるで、透明の壁がそこにある様だ。

「(プロテス?!…違う、私達の使うものとは桁外れだ!)…クッ!!」
「…SeeDだな。…腐った庭にまかれた種、か」
「―え?」

小さく呟いたイデアが無表情のままゆっくり私の前に手を翳した。魔力がイデアの体から掌に集中するのが分かって、私は慌ててその場を飛んだ。

「俺様がいるのに油断してんじゃねえ!!」
「!、ッ…ク、」

体勢を整える前にサイファーの一撃が迫る。間一髪でソードストッパーを出したが、男と女じゃ力の差は埋めようがない。プロテスをかける間もなくそれは弾かれた。

(まずいッ!)

視界の端で捉えたイデアの姿。彼女が天に翳した手の先には氷の塊が数個、まるで矢の様に鋭利な先をこちらに向けていた。視認した瞬間、私に向かってそれが飛んできた。

(―かわせないッ!)

そう思った瞬間、グンと体が後ろに引かれた。何が起きたのか分からないまま後ろに倒れた瞬間だった―。

ザシュッ…――

そんな音を立てて、放たれた氷の塊が…彼の体を貫いていた。

「―ッ…ス、コール…」

胸に突き刺さる大きな氷の刃。苦しみに顔を歪めたスコールの体が、スローモーションの様にゆっくりパレードカーから落ちてゆく。

「あ…、ァア―ッ」

(私が、油断したから…私を庇って―スコールが…)

大切な人を、仲間を守れる力が欲しい。そう思ってSeeDになったのに…なのに、また失うの?私はまた、守られてしまうの?仲間を犠牲にして―。

「ッ、ぅぁあぁあああああッ!!」
「?!」

体中から魔力が溢れる。自分では、制御できない力―。

(ダメ…凱旋門の中には、まだ皆が、スコールがいる…暴走させちゃだめだ!!)

心の片隅でそう思うのに、私を庇ってスコールが倒された。そう思うと暴走を止める事ができない。

「…こやつ…」

眉をピクリとさせた魔女は、一瞬ファーストネームを睨み、再び手を彼女に向けた。そこからは先程より細く鋭利な、針の様な力が。それは一瞬にして私の力を突きぬけ、私の左胸を貫いた。

「―ッ、…ア、―」

息が止まる。一瞬にして暴走は治まり、そして力が体から一気に抜けてゆく。
倒れゆく体をどうにもできず、最後の力で視線をイデアに向ければ、彼女は冷たく私をじっと見ていた――。

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