D地区収容所
――ごめんね…
真っ暗な闇の中、響く声。
(この声…知ってる。何度か見た夢で聞いた声だ)
――逃げなさい。…生きて…ファーストネーム…
(ねぇ…私の名前を呼ぶあたなた…―誰なの?)
そう、声に向かって問うたが、返事はない。その代わり、徐々に意識が戻って来たのを感じた。
(…私は…一体―)
ぼやけた意識の中、重くだるい瞼をゆっくり開けた。
(ここは…どこ?)
視界の先には見慣れない部屋。青黒い鉄で囲まれた壁。奥にはモニタとキーボード、沢山のボタンが付けられた大きな装置。その手前には、ガルバディアの国章が入った制服を着た男が一人。
(あの後、魔女の放った力が突き刺さって…倒れて、それから記憶がない。もしあのまま捕まったとしたら…ここは収容所?確か、反政府的な人達を収容する施設がガルバディアにあったはず…)
まだ覚醒しきらない頭をフルに動かし、そんな事を考えていた。
徐々に感覚が戻ってきて、手、足と順番に動かしてみた。カシャンと音が聞こえ、視線を向けると手足が鎖で拘束されてる。まるで、十字架に貼り付けられてるみたい。
(武器も盾も取り上げられてる…当たり前か…脱出は難しそうね)
「お目覚めか?ファーストネーム」
前と変わらない声色で話しかけてきたそいつ。
「お前に見下ろされてるのは、変な気分だな」
変わらない不適な笑み。
「ほんと。…存外いい気分だよ」
「ハッ。強気な態度は変わらないな」
「あんたもね…サイファー」
短い金髪を後ろに流し、灰色のコートをまとってガンブレードを携えたサイファー。よく知る彼は…もう私のガーデン仲間では無くなってしまった。
「他のみんなは?」
「生きてるぜ?凱旋門にいた奴らも、スコールもな」
(スコール、生きてた!…よかった)
「先にスコールに色々聞いてやろうと思ったんだが、…何も喋りやがらねぇ」
「フッ…だから私?私だったら何でも話す、とでも思ったの?」
「いや。お前も骨のある奴リストに入ってるから…まぁ、簡単には話さねえと思ってるぜ?」
クククとサイファーは不敵に笑みを浮かべた。
「ここにお前を呼んだのは、お前にしか聞けない事があるからだ」
「…私にしか聞けないこと?」
すると、持っていたガンブレードの切先を私に向けてきた。
「魔女であるお前が、何故SeeDなんだ?イデアが知りたがってる」
(…魔女?…私が?)
「俺にも信じられなかったが、イデアが言うんだ。お前が魔女である事は確かなんだろう。そんなお前が、何故SeeDと共にいる」
さっきとはうって変わって厳しい視線を向けてくるサイファー。だけど、私は何も答える事ができない。敵に情報を漏洩してはいけないとかそういう事じゃなく、混乱していた。
(私が…魔女?イデアと同じ…)
魔女はその異質な力により、人々に忌み嫌われる存在であった。その為、魔女は人から離れ、ひっそり住んでいた。故に、魔女の力がどうやって生まれ、どう受け継がれるのかは一切分かっていない。
授業で習った事を思い出した。
(その魔女の力が…私の中に…)
その言葉で今まで分からなかった事が少し明解になった。私の中にある力。普段使っている魔法でも、G.F.の恩恵からくるものでもないあの力は…魔女の力だったんだ。
(でも…何で私にそんな力が?…いつから?初めて力を発動させた時?でも…どうやって魔女の力なんて――)
そこまで考えても答えは出てこない。もしかしたら記憶を失う以前に?学園長と出会う前に…何があったの?
考えても考えても答えなんて出てこない。
「さあ、どうなんだ?」
「…意味が分からない。あんたの聞きたい事がよく分からない。魔女だったとしてSeeDだから何なの?イデアにとって、何か不都合な事があるの?」
「質問してるのはこっちだ。お前はそれに答えればいい」
「…生憎、敵に教える事なんて何一つないよ?」
笑みを浮かべて言えば、サイファーも喉を鳴らして笑った。
「さすが、AクラスSeeD候補なだけあるな。だが…いつまで持つかな?」
そう言って指をならすと、モニタの前にいた看守が壁にあったレバーを下へ降ろした。その瞬間、手足を拘束してる鎖から電流が流れ、一気に体を駆け抜けた。
「ッア、―ッウア゛ァァ!!」
痛い。苦しい。目の前が、頭がチカチカする。ほんの数秒の事だったのに、何時間も闘った様な疲労感に襲われる。
「…、っぁ」
「さあ、答えろ。何故魔女であるお前がSeeDと共にいる」
「な、…ど聞かれ、…も…答える気は、…ない!」
「…本当に、相変わらず頑固だな…お前は」
「…お互いさ、ま…でしょ?」
フンッと鼻で笑ったサイファーは、尋問を続けろ、と看守に言ってその場を去っていった。
「さっさと喋った方が、身の為だぞ?」
(イデアは…SeeDの存在を知っていた。そして、魔女である私がSeeDでいる事に何故と聞いた。…魔女がSeeDである事に…なにか問題でもあるの?)
「…おい」
(兎に角、今は脱出をしないと。皆も生きてるって言ってたから、この収容所にいる可能性が高い。どうにかして合流できれば…)
「おい!!聞いてるのか!?」
怒鳴り声を上げて、看守が私を睨んでいる。持っている警棒を私に向けて威嚇でもしているつもりなのだろうか。
「―ごめん。全然聞いてなかった」
そう言って笑顔で舌をベーっと出したら、看守は真っ赤な顔してズカズカと奥へ歩いた。
「どいつもこいつも私を侮辱しよって!!」
怒り心頭状態の看守は愚痴を言いながら再びレバーを下に降ろした。何度も、何度も。
「さあ!!吐けッ!!」
「ッ、ァ、アァアアッ!!」
この電気のせいで、上手く意識を集中できない。これじゃ、魔法も使えない。
(だめ…苦しい…い、しき…が―)
意識を手放しそうになった時、モニター上にあったランプが赤く光り、警報音が辺りに響いた。
「な、何だ?!」
『脱走警報です。各フロアにはモンスター放たれます。脱走者が速やかに投降しない場合、生死は問いません。魔法アンチフィールドが解除されます』
「脱走者だと?!」
音声が響き、看守は慌てて部屋から出て行った。
(もしかすると、スコール達かも。…私もここから出ないと!)
ぐるぐるする頭をはっきりさせようと、2,3度頭を振り目を開けた。脱走するにも、この鎖をどうにかしなきゃならない。手首を動かしてどうにか抜けられないかと試みたが、かっちりはまっていて難しそうだ。壁を壊して鎖ごと外すかとも考えたけど、鉄で出来た壁を破壊する前に私の手首が吹っ飛ぶ可能性が高い。それはちょっと困る。
(どうしたものか…)
考えを巡らせていると、扉がシュッと音を立てて開いた。看守が戻って来たのかと視線を向けると、思いもしなかったものがそこにいた。
「ゆるる。ゆるる」
そう鳴いた生き物は、紅く逆立った体毛と愛らしい目をした…モンスターだった。
(さっき放送でモンスターが放たれたって言ってたな。こいつらがそうなの?)
見た事もないモンスター。しかも、全然襲ってこない。警戒はしているものの、じっと私の目を見ている。
数秒それが続くと、そいつはモニターの方へ行き器用にレバー横にあるボタンを押した。すると、手足を拘束していた鎖が外れ、私はそのまま床に倒れこんだ。
(拷問のせいか…まだ力が入りにくいな)
スゥーっと息を吸ってケアルを自分自身にかけた。少しだけ体が軽くなったのを確認して、ゆっくり体を起こした。私を取り囲む紅い毛のモンスターはじっとこちらに視線を向けてる。私が動く度体をビクつかせながら。
「…助けてくれて、ありがとね」
笑って言えば、少し警戒を解いてくれた。一歩、私に近づいた時、再びドアが開いた。その先には私の目の前にいる者と同じ姿をした子がいた。
「ラグナ!」
「ラグナ?!」
そう言って四足をついて颯爽と部屋を出て行った。
モンスターなのに、言葉を喋った。泣き声とかじゃなく、ちゃんとした言葉を。それが気になって、私も重たい体を支え、彼らの後を追った。
(ラグナ?…どこかで聞いたことある言葉…なんだっけ?)
思い出せないが、彼らを追えば誰か分かるかもしれない。
(…看守の名前とかじゃないよね?)
一抹の不安を抱え、ラグナラグナと言う彼らの行く先を辿った。部屋の外に出れば、広いフロアに出て紅い彼らの向かった階段を下りた。
(モンスターが放たれたって放送で言ってたし、注意しないと…)
気配を読みながら下のフロアへ下りると、異様な光景が広がっていた。さっき見た紅い毛の彼らがうじゃうじゃと居るではないか。そして皆が皆ラグナ!ラグナ!と声を上げていた。
(この中にラグナが?)
壁に背を向け、彼らの視線の先にある扉を開けた。その先は私のいた所と同じ尋問室になっていた。そして3匹の紅毛に囲まれた彼が片手で頭を抱え、膝を突いている姿が見えた。
「スコール!」
「―ファーストネーム」
「大丈夫?」
「…ひどい目にあった」
疲労し切った感じ。スコールも尋問を受けたってサイファーが言ってたし。それよりも魔女にやられた時の傷が見えない。服も…元のままだ。
(…どうして?あれは幻だったの?)
気になるけど、今は考えてる場合じゃない。早く皆と合流してここから脱出しないと。
スコールにケアルをかけ、二人でここを出ようとした時、シュっと音を立て扉が開いた。
「スコール!ファーストネーム」
「ゼル!みんなも!」
ゼル、キスティスにセルフィ!脱走者って言うのはやっぱりみんなの事だったんだ。
(リノアとアーヴァインの姿がない。2人はあの場から無事に逃げられたのかな?)
「無事だったみたいだな。兎に角、脱出しようぜ!ほら!」
ゼルがガンブレードを、セルフィが細剣と盾とポーチをスコールと私に渡してくれた。武器が戻ってくればこちらのもの!さっさとこんな所おさらばしなきゃ!
武器をしっかり装着させ、ポーチの中身を確認し、私達は部屋を後にした。
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