収容所


フロアを出ると、相変わらず群がる彼ら。ただ、彼らの足元には看守らしき人が横たわっていて、その上をラグナラグナと言いながらピョンピョン跳ねている。

(やっつけてくれたの?)

だからなのか。下のフロアからはモンスターや兵士の声が聞こえてくるのに、ここは静かだ。

「お前、あっちの世界でラグナになってここへ来てないのか?」
「…来てない」

会話の内容は、多分ガルバディアの森に向かう途中であった夢と同じ様な内容なのだろう。

(思い出した。ラグナって、その夢にでてきた人の名前だ)
「じゃあ、スコールもここの脱出方法は知らないわけね」
「う〜ん、どっちにしろ、オレ達上へ上へって来たじゃねぇか。やっぱ、下に戻らねぇとダメだよな」
「1階ずつ戻るのはキツイわね。脱走者警報のおかげで警備兵だけじゃなくてモンスターもうようよだし」
「そういえばスコール。お前どうやってこのフロアまで運ばれたんだ?」

ゼルの問いに、スコールは無言で指さした。その先にはフロア中央にある大きな空洞。それは下のフロアまで続いていて、大きなクレーンがこのフロアで停まっている。

「ぬぉ!!なんだこりゃ?!」
「下のフロアにある独房を取り外して運ぶクレーンみたいな物らしい」
「だからこんな大きな穴があいてる訳ね」
「じゃあ、この穴をぴゅ〜〜っと飛び降りれば、すぐに下まで着くんじゃないかなぁ」
「やってもいいけど、『しっぱ〜い』じゃすまないわよ」

確かにそのまま飛び降りればいい感じにぺっちゃんこになってしまいそうだ。

(でもレビテトを使えばなんとか…)
「ファーストネーム、余計な事は言わないでよ」
(…何で考えてた事がばれた?)

教員してたんだから私達の考えている事なんてお見通しなのかな?

「うおっ!!思い出したぜ!」

眉間に皺を寄せて何か考えていたらしいゼルがいきなり声を上げた。

「このアーム、上のパネルと中の制御室で自由に動かせるはずだぜ。ウォードがやらされてたのを思い出したぜ。でも、ふたつ同時に動かす必要があったはずだから、誰かが残って上でパネルを操作しねぇと…」

そう言ったゼルの両隣に、キスティスとセルフィが無言で近づいて、ポンッと彼の肩に手を置いた。

(笑顔だ。二人とも超笑顔だ)

キョトンとしたゼルがオレ?と自分を指して肩を落とした。

(まぁ、それを知ってるのがゼルだけなんだから残るのは必然だよね)
「わ、わかったよ。オレは上の制御パネルで指示を出すから、乗り込んでくれ」

走って階段を上っていった彼を見送り、私達はアームの制御室に乗り込んだ。配管とコードが入り乱れ、モニターが数台設置された制御室は大人が5人くらいなら余裕で入れるくらいの広さがあった。

『お〜い、聞こえるか?』

スピーカーからノイズ音と共にゼルの声が聞こえた。

「ゼル〜、聞こえるよ〜」
「どうすればいいんだ?」
『正面パネルの赤いボタンを押してくれ、あとはこっちで…』

スコールが指示された赤いボタンを押すと、ガコンと音を立ててアームが降下し始めた。十数秒程で最下層に到着し、アーム制御室から下りると突き当たりに閉ざされた扉が見える。

「ここから出られればいいんだけどね」

言って扉に近づいたけど、扉は電池が切れかけた時計の様にピクピクと動くだけ。その隙間から見えるのは真っ暗な闇。
おかしい、とそう思った時、詰まったものが取れたみたいに勢いよく開いた扉から砂が流れ込んできた。

「砂…?」
「…、…埋まってる…?地下って事かしら?どっちにしろ、ここからは出られないって事ね…」

じゃあもう一度上に昇らないとね、と思った時だった。遠くの方から銃撃音が聞こえてくる。大分派手にぶっ放してるみたいだ。

「「……ゼル!!」」

少しの間があって、私とセルフィ、キスティスが顔を合わせ声を上げた。
視線を合わせ急いで上層階目指して階段を上った。階を重ねる度に銃撃音が激しさを増す。

(何階あるの?!この建物!!)

アームで十数秒かかったんだ、結構な高さがあるのは分かっていたけど…。ゼル、無事でいてよ!

「脱走者だ!捕らえろ!!」

後ろから聞こえて来た声。兵士がモンスターと共にこちらへ向かってくる。

「みんな、先に行って!」

立ち止まり意識を集中させ、敵に向けた手のひらに魔力が集まってゆく。

「トルネド!!」

大きな竜巻が起こり敵を巻き込んで吹っ飛んでいった。壁に突撃する者、アーム通路の穴に真っ逆さまにおちる奴。敵を散らすにはうってつけの魔法。だけど魔力の消耗も大きいし、余り多発できないのが難点だね。

(後続の敵は…なし!)

確認後、体を反転させ皆の後を追った。銃撃音がどんどん近づいてくる。もう少しだ!
そう思った時、さっきまで聞こえてたのと違う銃の音が数発聞こえると、ピタリとさっきまで激しく鳴り響いてた銃撃音が止まった。

(今の音は?)

足を速めて階段を上った。フロアを数階上がった所で視界の奥にゼルの姿が確認できてホッとした。そして一緒にいたのは見なかった二人が。

「アーヴァイン!リノア!」

逃げ延びたのだと思ったけど、二人もここに捕まっていたんだろうか?

「ファーストネーム!無事だったんだね。よかった〜」
「リノアも無事でなによりだよ」
「そりゃ、僕が連れ出したからね〜」
「どういう事だ?」

離れた場所にいたゼル達が私達のもとに集まってきた。

「それは―」
「わたしの父が、ガルバディア軍を通じての事なの。私だけここから連れ出すようにって命令したらしいの」
「それで―」
「それで、この男。命令どおりに私だけ連れ出したのよ。スコール達が捕まってるの知ってて」
「いや、それは―」
「ねえ、ひどいと思うでしょ」

アーヴァインの言葉を遮ってリノアが弾丸の様に喋ってる。リノアの後ろで苦虫を噛んだみたいな顔をするるアーヴァインが面白い。

「と、とにかく、逃げ出すなら今の内だ」
「ダメだ、地下の扉は砂で埋まってた」
「そりゃ、そうさ。この刑務所は今潜ってるからね」
「潜って?」
「そっ、この刑務所は―」
「いたぞ!!脱走者だ!」

聞こえて来た声と同時に発砲され、皆その場にしゃがみ込んだ。幸い、分厚い壁のお蔭で弾はこちらまで届かない。それにアーヴァインが隙をみて弾を撃ち込んでいる。

「スコール!君達は上に先行してく。ここは僕が引き止める」
「上?」
「詳しい説明をしてうる時間はないんだよ〜!出口は上だから、信じてくれよ〜」
「わたし、案内できると思う」

リノアが先導を名乗り出た。

「私はアーヴァインと足止めをするよ。彼一人じゃ心もとないでしょ?」

冗談っぽく言えばアーヴァインが、おいおいと言葉を吐いた。

「…わかった」
「外で会いましょ!」

頷いてスコール達は上を目指し階段を上っていった。

(さて、ここからどうしたものか…)
「殿を言い出て何だけどさ、もう手持ちの弾が残り少ないんだよね〜」
(なんだって〜!足止めあんまりできないじゃん!)

それどころか、銃声を聞きつけてどんどん兵士やモンスターが集まって来ている。

(トルネドを打つ魔力は残ってない。ファイアくらいならいけそうだけど連射は難しいし、銃相手に細剣で立ち向かいのは厳しいし…)

壁に隠れてどうするか考えていると、クレーンを引き上げる数本のケーブルが視界に入った。

「ねぇ!もう一度あのアームで一気に上までいけないかな?」
「おっ、それいい考えだね!」
「…あ、でも制御室で動かして貰わないと…」
「それは僕に任せてよ。よし!それじゃあアームの止まってる階までゴー!」

体勢を低くしたまま階段を下へ進んだ。逃げたぞ、追えー!って声が後ろから聞こえてくる。簡単に見逃してはくれないみたいだ。
カツカツと私達の靴音が響く。その後方からは複数の足音。それも徐々に増えてる感じがする。

(ガ兵のしつこさは折り紙付きってね…)

「脱走者だ!捕らえろ!」
「アーヴァイン!兵士達が集まってきてるけど、本当に大丈夫なの?」
「大丈夫、だいじょうぶ〜!何とかなるって多分!」
(多分…?)
「おっ!アームだ!」

最下層に着いてアームに乗り込んだ。乗り込んだ瞬間、アーヴァインが通信機を使って上の階と連絡をとろうとしてる。

「もしかして…考えがあるってこの事?」

上の制御室にスコール達がいなかったら意味がない。しかも警備兵がいたら逆に私達の考えがばれて牢屋に逆戻りだ。

「大丈夫!スコール達なら気づいてくれるよ!お〜い、スコール〜」
(なんて楽天家。もう彼らが先に行ってたらどうするつもりだよ!)

すぐ先に敵が迫ってきてるのが見えて、私はアームの扉を開けたまま外に出た。

「アーヴァインは通信を続けて!私はあいつらの足止めをするから!」

扉の前に陣取って、魔法を敵の中へぶち込む。敵が多いときはまず魔法で数を減らす!それを避けて向かってくる敵は―

「ハァッ!!」

細剣を突き刺して倒していく。だけど、次から次へと降りて来る敵にこれでどこまで耐えれるかだね…。

「っ…ファイア!」
「ぅわぁァアッ!!」

魔法を打ち込まれた敵が後ろの奴に衝突してドミノ式に倒れていく。

「ファーストネーム!通じたよ!」
「了解ッ!今すぐあげてもらって!」

残りの魔力で敵を蹴散らしてアームに駆け寄ると、音を立ててゆっくり上がるところだった。

「ファーストネームッ!」
「ッ!」

細剣を鞘に納め、上昇するアームに飛び乗った。

「ギリギリセーフだね〜」
「もう…今度からもっと計画的にお願いね…」
「りょうか〜い」

反省している気配はなく、へらへらと笑っているアーヴァインの頭をコツンと叩いてやった。

「…なんだか、ずいぶんゆっくりだね」
「ま、のんびり行きましょ」

私も彼のお気楽がうつったのか、そうだね〜なんて言って上に着くまでその場に座り込む事にした。

しおり
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