紀委員



「おばちゃ〜ん!パンとお茶頂戴!」
「はいよ!あら、ユカ久しぶりだね〜!」
「うん!さっき戻ってきたの」
「そうかい!お疲れ様〜」

食堂のおばちゃんと談笑しながらお目当てのお茶と大好きなパンを購入してその場で口に頬張った。ここのパンは生徒達に人気で、朝のホームルーム後には売り切れてしまう事もしばしば。今はホームルーム中だから難なく入手!

「でも、本当に久しぶりだね〜!長期任務だったのかい?」
「うん。要人警護に三ヶ月」
「頑張るね〜!うちの息子にも見習わせたいよ」
「息子さんからまだ連絡来ないの?」

食堂のおばちゃんには、私と同じ歳頃の息子がいるらしい。でも働きに出ると言って出てったっきり連絡がないと心配している。見かけたら連絡入れるように言ってって言われてるけど、…息子さん見た事ないからどんな人か分からないんだよね。写真もないし。

そんな話に花を咲かせているとホームルーム終了の鐘が鳴って生徒達が一気に食堂へ流れ込んできた。その波に押し出され、おばちゃんとの井戸端会議もこれで終了。
口に残った苦味も美味しいパンのおかげでなくなったし、そろそろ部屋に戻ろうと足を向けた時、見知った顔がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

「サイファー!」
「ファーストネームか。久しぶりだな」

SeeD候補生のサイファー。相変わらず後ろに風神、雷神を引き連れてる。この三人はこんななりして風紀委員。風紀委員なのに制服を着ていないのはどういうことなんだ?なんてツッコミしても意味が無いからやめる事にする。

「…あれ?サイファーそんな所に傷あったっけ?」

自分の額に指を指して聞いた。まだ真新しいその傷は、どう見ても剣でついた傷。

「…まさか、自分で?!」
「そんな訳ねぇだろ!スコールの訓練の相手役になってやったんだよ」
「(あぁ、保健室で寝てた…。そう言えば、彼も額に包帯巻いてたな。仲良く同じ所に傷つくったのかな?)訓練するのはいいけど、怪我したら意味ないじゃん」
「フンッ、出来の悪い奴の相手は大変だぜ」

なんだそりゃ。でもサイファーがこんな風に言うのは、相手の事を認めてる証拠。

「ところで教室戻らなくていいの?授業始まるんじゃない?」
「今日はSeeD選抜の実地試験があるから授業はない。参加しない奴も自習だ」
「あ、そっか!三人とも試験参加組み?」
「否」
「俺と風神は試験参加してないもんよ!」

後ろの二人がそう言った。じゃあ、サイファーは参加組なんだね…いつものように。
私がSeeD選抜の実地試験に参加した時一緒の班だったサイファー。成績はいいし素質もある。実力だけでいったらSeeDクラスだけど、任務より目先の敵に向かう好戦的な性格から未だ候補生のままでいる。
相変わらず俺道突っ走ってるんだなって心の中で笑った。一緒の班にいた時は勝手な行動にイラッとした事もあったけど、この強気な所に心救われる事もある。

「私も今回の任務に参加する事になったから、現地で会ったら宜しくね!」
「おいおい、こっちは試験なんだぜ?」
「そうだよ?だから何かあったら言ってね?助けてあげるから」
「俺に助けなんて無用だ。お前こそ、どじって倒れたりするんじゃねえぞ」
「任務中に倒れたりしませんよー!」

ベーとやると、サイファーが笑って私の頭にポンと手を置いた。そのまま髪の毛をぐしゃぐしゃにされて、一気に髪型が鳥の巣状態。
なにすんのさー!って抗議しても笑って流されるだけだって分かってるから、何も言わず崩された髪形をせっせと直した。
思った通りの笑みを浮かべたサイファーは、じゃあなと言っておばちゃんのもとへ三人とも行ってしまった。

(ほんと、久しぶりなのに相変わらずだな、サイファー達は)

でも、それが嬉しかったりする。彼らはこれから先も変わらないだろうなって思う。そしたら、この仲いい関係もずっと続くんだろうって思えるから。そう思いながら、私は寮へ向かって歩き出した。



***



自分の部屋に戻り、倒れこむ様にベッドに仰向けになった。大きく溜息を付き、天井を見ているとベッドにめり込むんじゃないかって思うくらい体が重く感じる。

(溜まってた疲れが一気に出てきたのかな?学園長やカドワキ先生の言う通り休める時に休んでおかないとね!次の任務まで…7時間か。よし!シャワー浴びてギリギリまで寝よーっと!)

重い体を起し、着替えを持って備え付けのシャワー室へ向かった。

(あ、でもSeeD服も洗濯しておかなきゃ。後でランドリー行こう)

ささっとシャワーを済ませ、制服と暇つぶし用の本を持って寮1Fにあるランドリーへ向かった。そこには私と同じく洗濯に来た生徒が何人か座っていた。単語帳を見ながらブツブツ言ってる子、お喋りしてる子、寝て待つ子、色々だ。
私も洗濯物を空いてる洗濯乾燥機に入れ、窓辺の椅子に腰かけて本に目を通した。ずっと任務続きだったから、こんなゆっくりする時間は久しぶりだ。
本を読みながら、久しぶりだねと声をかけてくれるみんなとお喋りしたりしてると、あっと言う間に時間が経って、汗が染み付いた制服も綺麗ピッカピカに。

(ん〜いい匂い!これで次の任務も頑張れるぞ!)

待ち時間中に話てたメンバーにバイバイと言って部屋に戻り、再びベッドへ倒れこむ。今度こそ寝るぞー!と思って目を閉じる。でも、久しぶりにガーデンに戻って来たせいか、体は疲れてる筈なのに、頭が冴えてなかなか眠れない。

(実地試験…か。どんな子が参加するのかな?サイファー、…またなにか起こさないといいけど…。サイファーがSeeDになったら、また一緒に班組んでみたいな…一回くらいなら)

クスクスと笑いながら、任務の事、これからの事を色々考えている内に、私はようやっと夢路についた―。

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